ANALYSIS

【分析】ウクライナは今やトランプ氏の戦争

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ウクライナ東部ドネツク州で避難行動を実施するウクライナ軍の第505独立海兵大隊/Kostiantyn Liberov/Libkos/Getty Images

ウクライナ東部ドネツク州で避難行動を実施するウクライナ軍の第505独立海兵大隊/Kostiantyn Liberov/Libkos/Getty Images

キーウ(CNN) 始めたのはロシアのプーチン大統領だった。バイデン前米大統領もそれを止めなかった。しかし、どれほどその流れに対抗しようとしても、この1週間でロシアによるウクライナ侵攻はトランプ現米大統領の戦争になる。

世界で最も強大な力を持つ役職も、常に選択権を行使できるとは限らない。トランプ氏は第2次世界大戦以降で起きた欧州最大の紛争に対処する義務を負う。米国は同氏の前任者の下、ウクライナの主要な提携国、資金提供国としてそこに関与したからだ。

トランプ氏は戦争から完全に手を引くこともできた。それでも個人的な影響力を行使することを選び、当初は24時間で終結に持ち込めるとの考えを表明。他にもその期限を100日に延長するなどしてきた。次にその個人的な影響力を駆使してまずプーチン氏にすり寄り、同氏の言説に同調。その後はウクライナのゼレンスキー大統領をホワイトハウスの大統領執務室で公然と非難した。

北大西洋条約機構(NATO)の同盟国にもトランプ氏は容赦がなかった。欧州の防衛費負担の増額を求めると、各国はそれに応じた。その後も強硬姿勢の外交には拍車が掛かったが、最終的な成果は極めて乏しかった。

しかしこの2週間で、トランプ氏の決断及びその実現は、状況を同氏自身の抱える問題へと変えてしまった。同氏はプーチン氏が和平を望んでいないことを見て取った。ウクライナが兵器を緊急で必要としているのを確認し、支援を試みたが、実際の手法は精彩を欠いた。際立った選択としては、通常なら無視するロシアのメドベージェフ前大統領の核を巡る恫喝(どうかつ)に反応。従来以上に強硬な核の脅迫として、米海軍の原子力潜水艦をロシアにより近い地域に配備するよう命じた。ウクライナへの軍事援助を停止していた米国は、1カ月足らずでロシアに対する核戦力の脅迫を行うまでになった。

今週末にかけて、トランプ氏が短縮した和平合意の期限が視野に入る中、同氏は今回の紛争に関して恐らく最も重大な決断を下すはずだ。ロシア産エネルギーの輸入国に対する「二次関税」という真に打撃を与える罰則に踏み切るのか。米国とその提携国が多少の経済的な痛みを被らざるを得ないことを容認してでも、ロシアに痛手を負わせようとするのだろうか。

深刻な二次関税による制裁をインドと中国に科せば、世界のエネルギー市場は混乱に陥りかねない。トランプ氏は4日、自身のSNSへの投稿でインドへの関税を引き上げる意向を表明。同国がロシア産原油を売って利益を得ているのが理由だとした。「彼らは何人のウクライナ人がロシアの戦争マシーンによって殺されようが意に介さない」とトランプ氏は主張したが、新たな措置に関する詳細は提示しなかった。インドは現時点で、ロシア産エネルギー製品の輸入を停止するつもりがあるのかどうか、公に明らかにはしていない。中国はロシア産の石油・ガスに完全に依存しており、単純に輸入を停止する余裕がない。

TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつも怖じ気づいてやめる)の事例の再来を避けるため、トランプ氏は一定の不快感を味わうことを余儀なくされつつ、ある程度後退する公算が大きい。つまりは一つの出口戦略を探るということであり、米国のウィトコフ特使が今週行われると見込まれているモスクワ訪問でそれを提示されればその可能性が出てくる。トランプ氏は恐らくプーチン氏との二国間協議を、和平に向けた進展の兆候として受け入れるだろう。しかしこうした譲歩をしてもなお、トランプ氏がこの戦争に対して消し去れない印象を刻み付けたことには変わりがない。それはパウエル元米国務長官のイラクに関する言葉を借りるなら、米国が「物を壊したら、それを自ら所有しなくてはならない」ということだ。

トランプ氏が両方を手にすることはできない。あらゆる決断の中心になろうと試みるのは本人の性分であり、どんな問題でも注目を一身に浴びたいと考える。ここまで訪れたどの転換点でも、基本となったのは同氏の個人的な選択と気まぐれだった。そしてこのことは、米国の大統領の重要な教訓となっている。

トランプ氏はどの問題が自身のもので、どれを無視できるのか選択するに至っていない。 MAGA(米国を再び偉大に、の意味)運動が掲げる米国第一の政策は、米政府によるグローバルな影響力の範囲を削減するためのものかもしれないが、それによってトランプ氏が成功だけを収め、失敗を経験しないということあり得ない。トランプ氏が米国の世界的な影響力の範囲をゼロにまで削減しなければ、それは「行動」と扇動を余儀なくされる大統領の性格とは適合しないものだが、その場合は常に何らかの問題を米国が抱えることになるだろう。

戦争の停止を望むとトランプ氏は言うが、そのこと自体は十分ではない。これまでの戦争も、全てがそうした言葉に従ってきたわけではない。

オバマ元大統領はイラクとアフガニスタンの戦争を引き継いだ。前者からは早速手を引き、後者は急激に戦力を増強したものの事はうまく運ばなかった。アフガニスタンはオバマ氏の戦争になったが、それは同氏が引き継いだ時点で混乱状態だった。次にトランプ氏がその混乱状態を手渡されると、同氏は手っ取り早い解決策をバイデン氏に実行させた。2021年8月のアフガニスタンからの米軍撤退は壊滅的な大混乱に陥ったが、共和党はこれを民主党による失敗だったと広範に主張した。

トランプ氏は危機を引き継ぐ上で同じ問題に直面している。本人の願いや説得で紛争を終わらせることはできない。同氏が嘆いている戦場の死こそが被害と悲しみとを組み合わせ、この紛争を当事者の存在に関わる戦争へと変えてしまった。ロシア側はクレムリン(ロシア大統領府)の、ウクライナ側は社会に暮らす人々の生き残りを懸けてこの戦争を戦っている。

ウクライナ人は毎夜の空爆や空襲警報のない平和な生活を求めている。プーチン氏は和平を望んでおらず、直近の過剰な要求はウクライナの降伏に等しい内容となっている。

結局のところ、過酷な現実が反映しているのは、これはトランプ氏の戦争と考えるべきだということだ。この紛争が同氏の大統領の任期と、01年9月11日の同時多発テロ以降の時代とを決定づける。この紛争の結果が、今後10年間の欧州の安全保障と中国の好戦性を決める。中国はそれを理解しているから、ロシアの勝利を必要としている。欧州はそれを理解して、ロシアが欧州の弱体化から好機を見つけることのないように、自ら軍備を強化している。トランプ氏がこの点を理解し、不快で耳障りな決断をそれがもたらす結果も含めて受け入れるのかどうか、この1週間で明らかになるだろう。

本稿はCNNのニック・ペイトン・ウォルシュ記者による分析記事です。

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