(CNN) プーチン・ロシア大統領に対するトランプ米大統領の路線転換にどれほどの持続性や重大性があるのかは、今のところはっきりしない。
トランプ氏はここ数日のうちに、プーチン氏を今までにない厳しさで批判し、ウクライナに重要な武器を供与すると表明した。一方で実際に経済制裁を断行するまでには、50日間の猶予をプーチン氏に与えている。
路線転換が本物である限りにおいて、それはある程度の歴史の塗り替えをともなうことになる。
トランプ氏はこの1週間、今までプーチン氏を本気で信用したことはないと繰り返し発言している。
14日にはホワイトハウスで「プーチン氏は多くの人々をだましてきた」「(歴代米大統領の)クリントン、ブッシュ、オバマ、バイデンをだました。私はだまされなかった」と語った。
BBCとの最近のインタビューでも同じ論点を繰り返した。プーチン氏を信用するかという質問に、少し間を置いた末にこう答えたとされる。
「正直言って、私はほとんどだれも信用しない」
間を置いたこと自体が何かを物語っているようだ。実のところ、トランプ氏は何年も前からここ数カ月に至るまで、プーチン氏の信用性を否定するあらゆる証拠にもかかわらず、同氏は大丈夫だと言い続けた。
トランプ氏は2月14日の時点で「プーチン氏は和平を望んでいると確信する」「同氏のことはよく知っている。そう、和平を望んでいると思う。望まないなら私にそう言うはずだ。この点について同氏を信用している」と述べていた。
旧ソ連の国家保安委員会(KGB)の工作員だったプーチン氏に向けた言葉にしては、かなり驚異的で力強い支持表明だった。
トランプ氏はその2週間後、何らかの合意が成立した場合にプーチン氏が過去に何度もしてきた通り、その合意を破る可能性について問われ、それはあり得ないと否定した。
トランプ氏は「プーチン氏は約束を守ると思う」と語り、同氏とは自身の第1次政権でロシア疑惑の捜査をともに耐え抜いた仲間意識があるとの見方を示した。
4月には米誌タイムとのインタビューで、プーチン氏が和平を結ぶかという質問に、その可能性は高いという見通しを述べた。
このときトランプ氏は、「プーチン氏はそうする(和平を結ぶ)と思う」と語っていた。
だが今は態度をがらりと変えている。14日には、これまでに3~4回、合意が成立したと思ったらプーチン氏がはしごを外し、ウクライナを激しく攻撃し続けたことがあると語った。
(こうした発言にもかかわらず、トランプ氏はロシア産石油の購入国に対する2次制裁の実施前にプーチン氏に猶予を与えることを選んだ)
プーチン氏との交渉を信用するトランプ政権の姿勢が原因で、2月にはホワイトハウスの大統領執務室でゼレンスキー・ウクライナ大統領との口論が勃発(ぼっぱつ)した。
J・D・バンス副大統領が米政権は力の誇示よりも「外交」を重視すると示唆したことを受け、ゼレンスキー氏は口を挟み、プーチンは本当に誠実に交渉に応じると信頼できる相手なのか問いかけた。
「我々は(2019年に)停戦に署名した」「停戦だ。プーチン氏が(ウクライナに)侵攻することはまずないとあらゆる人から言われ、我々はガス契約を締結した。しかしその後、プーチン氏は停戦を破ってウクライナ国民を殺害し、捕虜交換にも応じなかった。我々は捕虜交換に署名したのだが、プーチン氏は実行しなかった」
さらに、ゼレンスキー氏は「J・D、あなたはどういった外交の話をしているのか?」と続けた。
これに対しバンス氏は、ゼレンスキー氏がメディアの目の前でこの問題について争ったのは「無礼」だと指摘。そこから事態は急速に険悪化した。
最終的に、トランプ氏はこの会談で、プーチン氏が停戦条件に違反したとしたらどうなるかという質問を受け、顔色を変えて反論した。
「だとしたらどうなるって? 今その頭に爆弾が落ちてきたらどうなる? ロシアが違反したらどうなるか? そんなことは分からない。ロシアはバイデンとの合意を破った。バイデンへの敬意がなかったからだ。オバマにも敬意はなかった。私には敬意を払っている」
それから4カ月半後の今、トランプ氏はプーチン氏が電話で極めて口当たりの良い発言をするのに、行動がともなわないと批判するようになった。
トランプ氏は14日、こう話した。「家に帰って妻に『あのね、きょうはウラジーミル(プーチン氏)と話したよ。素晴らしい会話だった』と言うと、妻は答えたんだ。『そうなの? また別の街が攻撃されたところですよ』とね」
これは今までもよく聞いた話だ。トランプ氏は敵対関係にあり、政策が大きく異なる外国の政治指導者らを擁護することが多く、それが時として裏目に出てきた。
20年の初め、トランプ氏は新型コロナウイルスの感染拡大をめぐり、中国と習近平(シーチンピン)国家主席を繰り返し擁護していた。中国が感染拡大を隠しているとの説を否定し、もっと圧力をかけるべきだという声に反して同国の透明性を称賛した。
だがまもなく米国内でも感染が広がると、トランプ氏は中国のせいだと非難する姿勢に転換。ホワイトハウスは、トランプ氏が疑問視していた中国の隠蔽(いんぺい)を主張した。
トランプ氏は過去にもプーチン氏を繰り返し擁護していた。特に、ロシアによる16年大統領選への介入を否定した際には、自国の情報機関よりプーチン氏に味方する立場を取った。
18年にフィンランドのヘルシンキでプーチン大統領と共同会見した際にも、ロシアが介入する「理由は見当たらない」と発言した。
「我が国の情報機関員には大きな信頼を寄せているが、プーチン大統領は今日、極めて強力に否定した」とトランプ氏は述べていた。
トランプ氏はその後、言い間違いだったと主張し、ロシアが介入「しない」理由は見当たらないと言うつもりだったと釈明した。しかし、上院の超党派調査で情報機関の調査結果が裏付けられたにもかかわらず、トランプ氏はロシアの介入説に繰り返し疑問を投げかけている。
ほかの政治家ならこうした経緯を省みて、自分は習氏やプーチン氏に信頼を置きすぎたのではと自問するかもしれない。だがトランプ氏はそうでなく、カモにされたのは自分以外の歴代大統領という考えだ。
とはいえ、よく見ればトランプ氏も暗黙のうちに自身の誤算を認めている。プーチン氏が口当たりの良いことを言いながら、その通りにしないことも何度か指摘してきた。
外交の場では、たとえ相手の話を信じなくても相手のことを良く言うのが普通だ。ただしその相手は敵対関係でなく、友好関係にある場合がはるかに多い。
これはある意味、自分の信用性や正当性を、見返りがないかもしれない相手に差し出す行為だ。プーチン氏の場合、結局そういう事態に陥るかもしれないと信じる理由はいくらでもあった。
その結果が、この通りというわけだ。
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本稿はCNNのアーロン・ブレイク記者による分析記事です。