ANALYSIS

【分析】ガザとウクライナで分かるトランプ氏の実像 真のリーダーか、ただのいじめっ子か

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スコットランド南西部のゴルフリゾートでスターマー英首相と会談するトランプ米大統領/Evelyn Hockstein/Reuters

スコットランド南西部のゴルフリゾートでスターマー英首相と会談するトランプ米大統領/Evelyn Hockstein/Reuters

(CNN) ドナルド・トランプ米大統領は、まるで最後のスコットランド王のようだった。

バグパイプの甲高い音色に合わせ、トランプ氏はスターマー英首相をスコットランドにある自身のゴルフの王宮の一つに出迎えた。スコットランドは母親の先祖代々の故郷に当たる。スターマー氏は28日に現地に急行。賓客として、また嘆願者として、自身が政権を担う英国内の一地域を訪れた。

トランプ氏が刺激的な記者会見で注目を浴びる中、スターマー氏はただのエキストラに過ぎなかった。会見の話題はあちこちに飛び、トランプ氏の風力発電への憎悪や舞踏室の窓枠、ウィンザー城などが取り上げられた。

トランプ氏はスターマー氏を大統領専用機に乗せて、慣例破りの一日を締めくくった。専用機はスコットランドを横断し、トランプ氏が所有するもう一つのゴルフリゾートに向かった。改めて米国の力をこれでもかと見せつけながら。

前日には欧州連合(EU)のフォンデアライエン委員長が、スターマー氏と同様の感情をにじませていた。トランプ氏所有の、風が吹き荒れるターンベリーのゴルフ場に到着すると、同委員長は米国とEUの貿易協定の合意を黙って聞いた。欧州では協定の内容を降伏だと非難する向きもある。

スコットランド南西部に出現した米国の新たな臨時首都における一連の出来事は、トランプ氏がその不屈の人格をどうやって発揮するのかを実例として示した。同氏は他者の弱点を容赦なく察知すると、自らの権力に物を言わせて、自身にとっての大きな勝利を手に入れた。

スコットランド北東部アバディーン北郊のバルミディにある邸宅に到着したトランプ米大統領(奥右)とスターマー英首相(奥左)/Andrew Harnik/Getty Images
スコットランド北東部アバディーン北郊のバルミディにある邸宅に到着したトランプ米大統領(奥右)とスターマー英首相(奥左)/Andrew Harnik/Getty Images

2期目の大統領就任から6カ月、トランプ氏は多くの方面でまさに望み通りの結果を得ている。複数の貿易協定の枠組みをまとめることで、グローバルな自由貿易システムを破壊。協定が掲げるのは、同氏の長年にわたるこだわりの一つ、関税だ。米軍のステルス爆撃機には世界を股に掛ける任務を与え、イランの核施設を爆撃させた。さらに北大西洋条約機構(NATO)からは、防衛費を大幅に引き上げる約束を力ずくで引き出した。

米国内でも同じだ。トランプ氏は議会を屈服させ、自らのイデオロギーを有名大学に押しつけている。民間の法律事務所には無償の奉仕を強要し、武器化した司法システムで政敵を攻撃する。また事実上、南部の国境を封鎖し、書類に不備のある移住を停止した。

この種の「勝利」を、1期目では果たすことができなかった。トランプ氏は自ら掲げるMAGA(米国を再び偉大に、の意味)運動に共鳴する支持者に対し、飽きてしまうほどの規模で勝利することを約束していた。

とはいえ、トランプ氏ほど評価が真っ二つに分かれる大統領もいない。同氏の「勝利」は見栄えの方が実質を上回るケースもあり、ここまでの内容には厳しい検証の目が注がれている。

国際的に見て、次のような問いは正当だ。トランプ氏が手にした勝利は米国民のためなのか、それとも同氏自身のためなのか? 同盟国ならびにより小さい国々への同氏の強制力は強さの表れなのか、それとも学校のガキ大将的振る舞いなのか? そして同氏の勝利は長い目で見てどのような結果をもたらすのか? 数年後、同氏がメディアで素晴らしい「ディール」を宣言する熱意を失ったそのときに、一体何が起こるのか? 米国を超大国たらしめた国家間の同盟、提携は、この点に関してとりわけ脆弱(ぜいじゃく)に見える。

真に世界に試されるトランプ氏の実力

トランプ氏が本当に世界を圧倒する実力者なら、その証明は今回のスコットランド外遊で浮き彫りになった三つの重要課題への対応によってなされるだろう。つまりパレスチナ自治区ガザ地区での痛ましい飢餓、ウクライナでの戦争、そして貿易だ。

トランプ氏は28日、意外にもガザとウクライナに関する論調を一変させた。

栄養失調に陥ったガザの子どもたちを映した陰惨な動画に反応し、トランプ氏はイスラエルのネタニヤフ首相の主張と相反する見解を示した。イスラエル軍による爆撃が数カ月続いたガザについて、ネタニヤフ氏は飢餓など存在しないとの立場を取る。

「子どもたちを食べさせなくてはならない」とトランプ氏は述べ、食料センターを設置して飢餓の増大に歯止めをかけると約束した。ただ戦闘地域でどのようにセンターを運営するのか、詳細はほとんど示さなかった。ガザでは食料を求める列に並ぶ民間人が殺害されている。トランプ氏はまた、支援物資が届かない危機の原因は米国にもあるという点を無視した。米国はイスラエルの支援プログラムの後ろ盾となっているが、国連の専門家が加わらないこのプログラムの活動は困難に直面している。

飢餓の危機の中、慈善団体の調理場に食べ物を受け取りに集まるパレスチナ人たち/Rifi/Reuters
飢餓の危機の中、慈善団体の調理場に食べ物を受け取りに集まるパレスチナ人たち/Rifi/Reuters

恐らくトランプ氏の約束は本物の方針転換であり、これによってネタニヤフ氏の立場は弱くなるかもしれない。同氏は米国の圧力に再三反発し、和平の調停人と目されたいというトランプ氏の願いを台無しにしてきた。

ことによると、2017年のシリアにおける化学兵器攻撃に対してそうだったように、トランプ氏は飢餓に苦しむ子どもたちの悲痛な動画を見て本当に心を動かされたのかもしれない。

しかし鋭敏な政治感覚を持ち合わせた大統領であれば、イスラエルに対する怒りの増大により自身もまた惨劇の責任を共有する事態に陥りかねないことを計算に入れた可能性もある。この皮肉な見方は、本人の以前の提言で裏付けられる。トランプ氏はガザ住民を退去させて、同地区に「中東のリビエラ」なるビーチリゾートを建設する案を示していた。またトランプ氏による米国際開発局(USAID)の解体は、今後もガザで死亡する子どもが相次ぐだろうということを意味している。

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