4千年前の歯から精神活性物質の使用が明らかに、古代タイ社会のビンロウのこん跡を確認
(CNN) 考古学者が初めて、4000年前の歯垢(しこう)を高度な科学技術を使って分析し、古代タイの社会でビンロウの実がかまれていた痕跡を確認した。
ビンロウの実は通常、消石灰と粉砕したビンロウの実を混ぜた混合物を葉で包んだものを口に入れる。これには、エネルギーや注意力、多幸感、リラックスを高める精神活性化合物が含まれている。
歯に赤や茶、黒の着色を残す可能性のあるこの興奮剤は、カフェイン、アルコール、ニコチンに次いで世界で4番目によく使用されている精神活性物質と考えられており、世界中に数億人の利用者がいる。
過去には、考古学の遺跡で植物の破片や汚れた歯によってビンロウの実が特定されており、その使用は少なくとも8000年前にさかのぼる状況証拠となっている。
国際的な研究チームはこのほど、高度な科学技術を活用して、歯の変色がない人物がビンロウの実をかんでいたことを突き止めた。
学術誌に掲載された今回の研究は、東南アジアでのビンロウの実の消費について、最も古い直接的な生化学的証拠を提供しており、これまでの証拠よりも少なくとも1000年古いものだという。論文の著者であるチェンマイ大学の考古学者ピヤウィット・ムーンカム氏が指摘した。
ムーンカム氏は、ビンロウの実のかみ跡の「見えない」こん跡が臼歯から見つかったことは一部の先史時代の習慣について、可視的な証拠だけでは全体像を捉えきれていない可能性があるとの見方を示す。

新石器時代の遺跡で、歯垢の試料を採取した/Courtesy Piyawit Moonkham
シラパコーン大学の准教授で東南アジア考古学の専門家のタニック・レルチャーンリット氏は今回の方法について、感度が高く、侵襲性が最小限で、ごく少量の歯垢の試料しか必要とせず、過去についてのさらなる手がかりを見つける「魅力的」な方法を提供すると述べた。レルチャーンリット氏は今回の研究には関わっていない。
「方法論的にいえば、残留物の分析のような科学的手法を使って(先史時代の)人々の生活や伝統、文化を推測する考古学者は、いるとしてもごく少数だ」とレルチャーンリット氏。「この論文は南アジア大陸、特にタイにおける考古学研究の先駆的かつ最先端の研究成果だ」
過去を発掘する
研究者は2021年、タイ中部にある新石器時代の埋葬地ノン・ラチャワットで、歯石として知られる古代の歯垢の収集を開始した。研究チームは、6人から採取した36個の歯の試料から、わずか5ミリグラムの歯垢のかけらを採取した。
「液体クロマトグラフィー質量分析法」は、分子の重さと電荷を比較して測定することにより、化合物を抽出、分離、識別する。

タイの植物園で採取されたビンロウの実/Courtesy Shannon Tushingham
研究チームは古代の試料を検査する前に、結果を比較してビンロウの実の液体のこん跡がどのようなものか示す対照サンプルを必要とした。
ムーンカム氏は「我々は、かむ文化を模倣しようとした」と述べた。乾燥したビンロウの実や赤い石灰岩のペースト、キンマの葉という主要な成分に加えて、アセンヤクノキの樹皮とタバコを対照試料の一部に加えて、その成分を人間の唾液(だえき)と一緒にすりつぶしたという。
歯の分析を行う前に、最新の対照サンプルを試験して方法を検証した。
「埋葬11号」と呼ばれる、おそらく25歳前後の女性から採取した三つの試料から、ビンロウの実の主な精神活性化物質であるアレコリンとアレカイジンを含む微量の植物アルカロイドが検出された。
この技術の利点は、元の試料を破壊せず、将来の研究のために残骸をそのまま残せることだという。
さらに掘り下げる
研究者は調査対象者に歯の着色がみられなかった理由を現在も探しており、そしゃくの方法の違いや歯磨きの習慣、数千年にわたる虫歯の影響ではないかと推測している。
さらなる研究によって、可能性を絞り込むことができるかもしれない。研究チームはノン・ラチャワット遺跡から、さらに多くの遺体を分析する予定で、さらに150人の遺体についてビンロウの使用の跡を調べることができる可能性がある。ムーンカム氏は、今後の研究で、古代社会におけるビンロウの社会的、宗教的、薬効的な役割についてさらに深く掘り下げていく予定だ。