(CNN) たった1件のSNSへの投稿で、フランスのマクロン大統領は全てを変えた。しかし実際には何も変わらなかった。
X(旧ツイッター)への夜遅くの投稿は、フランスが9月にパレスチナ国家を承認するという内容だった。実現すれば国連安保理常任理事国と主要7カ国(G7)の中で初の動きだ。この発表は多くの人々を驚かせた。
フランスによる承認自体は、この数カ月間予想されていた。実際イスラエルとイランの短期間の戦闘を受け、イスラエルとパレスチナの問題を巡るサウジアラビアと欧州諸国の首脳会議が延期を余儀なくされたが、この会議は当初フランスが主導するはずだった。それでも同国がこのような形で承認を発表するのは予想外だった。
二つのポイント
驚きの発表は我々に二つのことを教えてくれる。
まず、マクロン氏は今が行動するときだと感じている。フランス、英国、ドイツの首脳は25日に会談し、深刻さを増すパレスチナ自治区ガザ地区での人道危機について緊急措置を模索する予定だ。
5月以降、1000人を越えるガザの住民が懸命に食料を手に入れようとする中で死亡した。飢餓そのものによっても数十人が死亡している。

栄養失調となったガザの2歳児の画像=7月23日撮影/Qatta/AFP/Getty Images
子どもを含む飢えたガザ住民の、骨と皮ばかりになった画像は20世紀最悪の窮状を彷彿(ほうふつ)させ、西側諸国に人道危機への嫌悪感を引き起こした。一方、現時点で具体的な対策は何も講じられていない。
マクロン氏の決断は大胆なものだ。その前の欧州諸国(アイルランド、ノルウェー、スペイン)の動きは中途半端だったが、ここへ来てフランスが先頭に立ち、主要国に向けて後に続く道を示している。
マクロン氏の発表の後、仏大統領府のある高官は24日にCNNの取材に答え、「他の同僚たちと電話で話した。9月にパレスチナを国家承認するのは我々だけではないと確信している」と述べた。
人々の目は今後、英国や恐らくドイツにも向けられる公算が大きい。米国による承認はあり得ないように思える。トランプ大統領の任期中以外でさえも、米国はイスラエルと最も緊密な関係にある国だ。
とはいえ、当事者たちにとって、フランスの決断はほとんど何の変化ももたらさない可能性がある。
イスラム組織ハマスは、今回の動きを「前向きな一歩」と歓迎した。他方イスラエルの首脳にとっては、全く受け入れられないものだった。
パレスチナ国家に長年反対するイスラエルのネタニヤフ首相は24日、国家承認は「テロに報いるもの」だと批判。他の閣僚も、この動きでヨルダン川西岸地区の正式な併合が正当化されると主張する。イスラエルの極右勢力は同地区をユダヤ・サマリア地区と呼んでいる。
仮に国際社会による国家承認が奏功し、具体的な変化をガザにもたらす可能性があるとしても、9月という期日はパレスチナ人にとって遅すぎるだろう。彼らはイスラエルが管轄する食料の封鎖によって、餓死に直面している。
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のフィリップ・ラザリーニ事務局長は24日、飢餓に見舞われるガザの人々が「歩く死体」に見えると語った。
210万人の全ガザ住民が食料の不安を抱えている。ガザ保健省が22日に明らかにしたところによれば、90万人の子どもが飢える見通しだという。
約7万人の子どもには既に栄養失調の兆候が見られると、同省は明らかにした。
外交的賭け?

8日、パリで行われたガザ情勢に対する抗議デモに参加し、巨大なパレスチナの旗を広げる群衆/Henrique Campos/Hans Lucas/AFP/Getty Images/File
フランス単独での発表という点にも、マクロン氏の必死の思いが読み取れる。
マクロン氏は国際舞台での連携を好む人物だ。そこでは通常、数的な強さが勝利を呼び込む戦略となる。
1カ月前、フランスがパレスチナを国家承認する舞台が整ったかに見えた。サウジと共催する首脳会談がリヤドで、6月17日から20日までの日程で行われる予定だった。しかし13日にイスラエルとイランの間で武力衝突が勃発。計画は頓挫した。
当初、専門家の間での期待はフランスとサウジが他の提携国を主導して共同での国家承認に持ち込むだろうというものだった。これはイスラエル、米国両政府に対し、2国家解決と和平の重要性を示す強力なメッセージになるとみられていた。
提携国が9月にフランスと共にパレスチナを国家承認すれば、マクロン氏はまだその時点で勝利を手にできるかもしれない。しかしそのためにはフランスの持つ外交的強みを失うリスクを負いつつ、承認に後ろ向きな提携国を多く引き入れなくてはならない。
「他国に多少の圧力を掛けるという話になる」。前出の仏高官はCNNにそう語った。
そしてマクロン氏の決断には影響力がある。
欧州諸国はかねて表明しているように、2国家解決とパレスチナの国家承認に向けて正式に行動するのを一貫して控えてきた。西側の提携国であるイスラエルに対する尊重、ガザのイスラム政権への嫌悪、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治政府が抱える欠陥、そして一見すると受け入れ可能な数十年にわたる現状維持とが、イスラエルによる入植とパレスチナ人への攻撃に対する怒りを封じ込めてきたとみられる。その間、国際社会の行動にはほとんど変化がない。
フランスは今、そうしたガラスの天井を打ち破ろうとしている。
長年パレスチナ人に対して親和的な立場を取ってきたフランスの国内では、パレスチナを国家承認することで物議を醸すことはないだろう。
第2次世界大戦後の指導者、シャルル・ドゴールは1967年の第3次中東戦争の後、フランスをパレスチナ人への支持で結集させたことで知られる。フランス政府は長年、パレスチナ解放機構(PLO)と関わりを持ち、フランス国内でPLOの名を掲げたテロ攻撃が起きてもそれは変わらなかった。
2014年、仏議会は政府に対し、パレスチナの国家承認を要求。政府はこれを支持したが、パレスチナの17年までの国家承認を求めた決議案は国連安保理で否決された。
フランスは長年、1967年時点での境界に基づく2国家解決を支持している。ただ大統領府の情報筋は、フランスによるパレスチナの国家承認に当たって具体的な国境は想定されていないと述べた。
マクロン氏は、2023年10月7日に起きたハマスの奇襲に対するイスラエルの報復を断固として支持しているが、その後はネタニヤフ氏とイスラエルの軍事行動に対して厳しい批判を浴びせている。
公言するように、マクロン氏は紛争をフランス国内に「輸入」することを懸念している。フランスには欧州で最大のユダヤ人及びイスラム教徒のコミュニティーがある。
しかしガザでの死者が増えるにつれ、フランスはイスラエルへの武器輸出を禁止。ガザへの支援物資の投下を組織し、停戦を繰り返し求めている。人道支援とジャーナリストらへのアクセスも再三呼び掛けている。
他国に先駆けパレスチナを国家承認する思い切った動きにより、大統領府が西側諸国へのドミノ効果を期待していることは間違いない。
依然として一般のガザ住民に支援が届かない過酷な状況にあって、それは恐らく彼らの苦難を一定程度和らげるための窮余の策になる。
◇
本稿はジョセフ・アタマン記者による分析記事です。