ロシア軍で横行する脱走兵への過酷な処罰、無線傍受やSNS動画で明らかに

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脱走兵と見られる男性2人が互いに戦うよう命じられ、勝者だけが穴から出られるという場面を捉えた動画/Telegram

脱走兵と見られる男性2人が互いに戦うよう命じられ、勝者だけが穴から出られるという場面を捉えた動画/Telegram

キーウ(CNN) ロシア軍には、兵士たちが「ババヤガへのいけにえ」と呼んで恐れる慣行がある。ババヤガはスラブ民話に登場する人食い魔女で、ウクライナ軍の大型ドローン(無人機)を意味する。脱走を図った兵士に現場で下される、残虐な処罰だ。

昨年冬に撮影したとみられる映像の中で、1人のロシア兵が木に縛りつけられている。ウクライナ軍のドローン攻撃にさらされ、そのまま死に至るかもしれない。

こうなった理由は、同様の事例をめぐって傍受された無線通信から明らかだ。脱走を図った兵士への処罰を命じるロシア軍司令官の声が、はっきりと聞き取れる。戦闘が続いている間はこの兵士をどこかに隠しておき、それから30分のうちに木に縛りつけろという命令だった。

ウクライナ軍のドローン部隊を率いる司令官の1人は、こういう事例を実際に2度目撃し、無線ではさらに何度も傍受したという。

戦場ではほかにも兵士らの残虐な扱いが横行し、その映像をウクライナの偵察ドローンがとらえたり、ロシア兵がSNSに投稿したりしてきた。


2人の男性が服を脱がされ、貯蔵タンクに入れられている。「動物に餌をやる時間だ!」という声が聞こえる/Telegram

プーチン大統領への懇願

多くの軍と同じく、ロシアは脱出兵の情報を公開していない。だがテレグラムなどのSNSには、多くの兵士や家族らが抱く不安と絶望がにじみ出ている。

ある男性は、プーチン・ロシア大統領に宛てたメッセージをテレグラムに投稿した。

ウクライナ東部ドネツク州での戦闘に送り込まれたが、装備も弾薬も不足し、所属する中隊は1回の攻撃で32人まで減ってしまったという。中隊は通常、最大150人の兵員で編成される。

この男性はプーチン氏に、給与の5分の1しか受け取っていないが、上官からは苦情を言っても時間の無駄だとあしらわれたと訴えた。

戦場で兵士が死んでも、遺族への補償を回避するため隠蔽(いんぺい)されることが多かったという。

男性によると、機関銃に立ち向かうのを拒否したという理由で、兵士らを壁沿いに並ばせ、銃撃した司令官もいた。

「1週間で全員死ぬだろう」

軍から脱走したり、徴兵を逃れたりしたロシア人を支援する団体「ゲット・ロスト」の設立者、グリゴリ・スベルディン氏は、同団体が拠点を置くスペイン東部バルセロナでのインタビューで「ロシア軍を存続させ、束ねているのは暴力だ」と主張した。

スベルディン氏によると、同団体は2022年、ウクライナ侵攻開始の6カ月後に発足してから、これまでに1700人を支援してきた。脱走兵の合計数を推定するのは難しいが、同氏は数万人に上るとの見方を示す。

木に縛り付けられ、錆びたバケツを頭からかぶせられた男性/Telegram
木に縛り付けられ、錆びたバケツを頭からかぶせられた男性/Telegram

戦場に配置される前に、わずか1~3週間という低レベルな訓練への不満から脱走するケースも多い。一方、展開後に脱走する兵士らがよく指摘するのは、ニヒリズム(虚無主義)が目立つ軍内部の文化だ。

「兵士の命は司令官からみてなんの価値もない。ロシア軍将校にとっては10人や20人を失うほうが、戦車1台、車両1台を失うよりはるかにましだ」と、スベルディン氏は語る。

「将校から、お前たちは1週間で全員死ぬだろうと言われた話をよく聞く。別の部隊が送られるから、将校たちにとってはなんの問題もないのだ」

脱走で有罪となったロシア兵には、最大で禁錮15年の刑が科される。だがSNS上の映像が示すのは、ほかの脱走者を抑止しようと現場でも盛んに処罰が下される実態だ。

ある映像では、カメラマンが大きな金属製の貯蔵タンクに近づいていく。タンクの側面にははしごがついている。カメラマンが「動物にえさをやる時間だ。ずらかろうとした奴らだ」と言ってスライド式のふたを開けると、中には下着以外の服を脱がされた男性3人がうずくまっていた。

「腹が減ったか。クッキーはほしいか」という声に1人がうなずいて両手を伸ばし、放られたかけらをむさぼった。

別の映像では、地面に身をすくめた男性が顔を何度もけられていた。オレンジ色のベルトで片足首をジープにつながれ、高速で引きずり回される。「回転木馬」と呼ばれる罰だ。

もうひとつの映像には、頭にさびたバケツをかぶせられ、木に縛りつけられた男性が映っている。バケツを外された男性は顔を繰り返しけられた後、尿を浴びせられたとみられる。

CNNはロシア国防省に、映像にあるような脱走兵への処罰についてコメントを求めたが、返答は得られなかった。

欧米各国の政府や研究機関の推計によると、ロシア軍では22年2月以降に約100万人が死亡または負傷した。北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長は最近、今年だけでロシア兵10万人が死亡したと述べた。

ウクライナ軍も士気低下や脱走の問題を抱えているが、兵士の間に広がる大義への不信は、恐らくロシア軍のほうがはるかに深刻だ。

スベルディン氏は、支援対象のロシア兵からこうした不信感をよく耳にする。「『ここで死にたくない』と話す兵士もいるが、一番よく聞くのが『これは私の戦争ではない、私たちの戦争ではない、一体ここで何をしているのか、私にはさっぱり分からない』との声だ」という。

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