米に挑発重ねるロシア・メドベージェフ氏、リベラルな大統領時代から遂げた変遷
(CNN) ロシアのメドベージェフ前大統領は当時のオバマ米大統領と並んで「世界の多くの問題の解決は米ロの共通の意志にかかっている」と宣言した大統領時代から、大きく様変わりした。
クレムリン(ロシア大統領府)の「攻撃犬」という半ば公式の役割を担うメドベージェフ氏は先週、トランプ米大統領がロシアへの新たな制裁を示唆したことをめぐり、トランプ政権が米ロを戦争へと向かわせていると二度にわたり示唆。ロシアの核能力について警告した。
メドベージェフ氏はロシアの国家安全保障会議副議長を務めているものの、権限は持っていない。それでも同氏の挑発的な発言は波紋を呼んだ。
メドベージェフ氏は7月31日、テレグラムで、トランプ氏は世界の終末を描いたテレビシリーズ「ウォーキング・デッド」を思い浮かべるべきだと述べたほか、ソ連の核兵器自動制御システムにも言及した。
これに対し、トランプ米大統領は1日、2隻の原子力潜水艦を「適切な地域」に移動させるよう命じた。
この小競り合いは、トランプ氏がプーチン・ロシア大統領に対しウクライナ戦争を終結させるための新たな期限を設定し、停戦に合意しなければ米国による制裁措置をちらつかせたことを受けて起きた。クレムリンがこの最後通告を気にかける可能性は低い。
メドベージェフ氏は、42歳でロシア大統領に就任した当時とは様相が異なっている。KGB(国家保安委員会)の工作員だったプーチン氏とは異なり、メドベージェフ氏は弁護士資格を持ち、治安機関とのつながりはなかった。インターネットに精通しており(この点もプーチン氏とは異なる)、ロシア経済の近代化と汚職の撲滅に熱心に取り組んでいた。
しかし、同氏の大統領職は、プーチン氏が憲法上の制限を回避し、権力を維持するための一時しのぎとみなされていた。
2012年に大統領を退任しプーチン氏が大統領に復帰して以降、メドベージェフ氏は比較的リベラルなテクノクラート(専門知識をもった官僚)から、SNSに挑発的な投稿を投稿してロシアの敵対勢力を挑発する、超国家主義者へと変ぼうを遂げた。
09年のCNNのインタビューでメドベージェフ氏が述べた「ロシアはあらゆる意味で西側諸国と良好で発展した関係を築く必要がある」という発言と、5月の発言を比較したい。「プーチンが『火遊び』をし、『本当にひどいこと』がロシアで起こっているとしたトランプ氏の発言について。本当にひどいことはただ一つ、第3次世界大戦だけだ。トランプ氏がこれを理解してくれることを願う!」
この変化は、メドベージェフ氏が大統領退任後、与党「統一ロシア」の信頼維持を目指して自らの立ち位置を変え始めたころに始まったようだ。
メドベージェフ氏は大統領時代、CNNに対し、「腐敗の程度は断じて許容できない」と語っていた。しかし首相就任後、同氏は野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が主導する反汚職の調査対象となり、ロシア全土に豪邸や豪華ヨットなどを蓄え、「汚職帝国」を築いていると非難された。
プーチン氏が権力基盤を固めるため憲法改正に着手した20年、メドベージェフ氏は突如首相を辞任した。
これ以降、国家安全保障会議の副議長の座に就いたメドベージェフ氏は、ウクライナ人と西側諸国の指導者に対しゼノフォビア(外国人嫌悪)的で攻撃的な攻撃を繰り広げている。同氏のテレグラムは170万人の登録者を抱え、ロシア語と英語のX(旧ツイッター)アカウントも合わせるとフォロワー数は700万人近くに上る。
ロシアによるウクライナへの全面侵攻後、メドベージェフ氏はウクライナの指導部を「瓶の中で繁殖するゴキブリ」と評した。
ナチズムを想起させることも頻繁だ。ドイツのメルツ首相に対しては今年に入り、「クリミア橋への攻撃を提案した。ナチスよ、よく考えろ!」と非難している。
アナリストによると、メドベージェフ氏は突飛な発言を繰り出すにもかかわらず、クレムリンのメッセージ発信において計算された役割を果たしてきた。
米シンクタンク、戦争研究所(ISW)は、同氏について「西側諸国の意思決定者の間にパニックと恐怖をあおることを目的とした扇動的な言説を増幅させる」ために利用されており、「トップダウン型の、計画されたクレムリンの情報戦略」の一部だと指摘する。
一方で論評者らは、メドベージェフ氏の発言を額面通り受け取るべきではないと話す。
米クインシー研究所のアナトール・リーベン氏は、メドベージェフ氏とトランプ氏の応酬を「単なる芝居」と評した。
「過去3年間にわたって核兵器の使用を控えてきたロシアが、米国の新たな制裁措置に反発して核兵器を発射するはずがないのは明らかだ」(リーベン氏)
09年、就任間もない自信に満ちた大統領だったメドベージェフ氏は、オバマ氏とともに臨んだ記者会見でこう述べた。「我々は主要な核兵器を保有しており、そのすべての責任は我々にある」
それから16年後、メドベージェフ氏は挑発者としての自由を手にしている。