ロシアの空爆、10歳の息子失った母親が語る恐怖 「一緒にいればよかった」
ナスチャさんは今、自分を責めている。空爆時、母親のアパートの空き部屋でティムール君と一緒にいればよかったと。どのような理由や経緯でアパートを離れてしまったのかは分からないと、涙ながらにナスチャさんは語った。
翌日には列車でキーウへ向かう予定だった。ティムール君は残りたがったが、絶対に出発すると言い聞かせたという。
東部の街ではよくあるように、クラマトルスクでもウクライナ軍の兵士が住民と共に暮らしている。連夜の激しい空爆に、兵士と民間人との区別はない。中庭で植物の手入れをしていた年配の女性は、兵士らが街にいるために自分たちが標的にされると不平をこぼした。
ナスチャさんは前の晩に息子と過ごした最後の時間を思い出す。ティムール君が幼かった頃のことを語り合い、2人で大いに笑ったという。
ティムール君は動物が大好きで、キーウにはペットのネズミ2匹が彼の帰りを待っていた。
学校ではクラスの女子をいじめから守り、教師から褒められたこともあった。「とても思いやりがあって、明るい子だった」と、ナスチャさんは声を震わせた。
国連児童基金(ユニセフ)は6月、ウクライナでの戦争によりこれまで2700人以上の子どもたちが死傷したと報告した。
ティムール君は街の郊外の丘にできた新しい墓地に眠る。白亜の墓石を花々が覆う。墓地では新たな埋葬の準備が進む。住民が犠牲になる状況はまだ終わりそうにない。地平線では時折爆発が起きる。空襲警報に驚いて、鳥たちが飛び去っていく。