ドローン対策は漁網、ロシアの夏季攻勢迫る最前線の様子は ウクライナ東部
網を使ってドローンを回避、ウクライナ最前線の町
コンスタンチノフカ(CNN) ますます致命的で洗練されたドローン(無人機)戦争に巻き込まれたウクライナ軍にとって、東部戦線沿いの包囲された町での最後の生命線は数千年前の技術、すなわち漁網だ。
道路わきの電柱に張られた網は小さな爆発装置が丈夫なひもに引っかかるため、領土の奥深くまで頻繁に飛行してくるロシアのドローンからウクライナ軍を守る役割を果たしている。
ハイテクの脅威に対するこうしたローテクの防衛がこれほど重要な場所はコンスタンチノフカ以外にほとんどない。コンスタンチノフカは、ロシア軍の夏季攻勢によって包囲される危険が高まっている前線に位置する3都市のうちのひとつだ。
この地域を防衛しているウクライナ軍の司令官はCNNの取材に対し、部隊には8カ月間にわたって新たな要員が配属されていないと明らかにした。車両が塹壕(ざんごう)に到達できないため、2人の兵士が12人以上のロシア軍の攻撃を食い止めることもある最前線の陣地への補給はドローンによるものだけとなっているという。
コンスタンチノフカの近くでは、地元の人々は網の間にできた隙間を平然と通り抜けていく。日々の生活は網の保護よりも重要なためだ。その結果、網に開いた穴は、より巧妙なロシアのドローンの操縦者に利用されることもある。ロシア軍の精鋭ドローン部隊は網の内側に潜むドローンの映像を公開した。ドローンはペアで行動することもある。今月20日の映像では1機のドローンがウクライナ軍の車両に衝突し、もう1機のドローンが近くの砂利道にとどまって、次の標的を待ち構えながら衝突の様子を撮影する場面が捉えられていた。

ドローン対策のネットを張った通りを移動するウクライナ軍の兵士=23日、ウクライナ・ザポリージャ州/Reuters
コンスタンチノフカ市当局によれば、ロシア軍の攻撃によって過去1週間で民間人が4人死亡したほか、31人が負傷した。子どもは避難したが市内には8000人あまりの民間人がとどまっている。
コンスタンチノフカの路上にはロシア軍のドローン攻撃を受けた車両が点在している。過去1カ月、同市がロシア軍の進撃範囲に入ったためだ。比較的安全な周辺部でさえ、白いミニバンが放置されており、ドローン攻撃を受けたため、助手席の側面がへこんでいた。知事によれば、ドローンの爆発物は爆発しなかったが、車両の運転手は死亡した。
近くには、現在の戦争を特徴づける細い糸が絡み合っている。これは漁網ではなく、ドローンの妨害を防ぐための光ファイバーケーブルだ。ロシアとウクライナの操縦士はドローンに物理的に接続するため、数キロにおよぶ極細のガラス繊維ケーブルを使用している。これらのケーブルは戦場の広大な領域に広がっており、妨害を受けてもドローンを直接制御することができる。

ドローン対策のネットが張られた陣地で待機するウクライナ機械化旅団の兵士=4月、ウクライナ・ドネツク州/Iryna Rybakova/Press Service of the 93rd Kholodnyi Yar Separate Mechanized Brigade of the Ukrainian Armed Forces/Reuters

即席の対ドローン用ネットを手にする6歳の少年=4月、ウクライナ・ハルキウ州/Violeta Santos Moura/Reuters
廃虚の脇を足を引きずりながら通り過ぎるのはタチアナさんだ。タチアナさんは町はずれにある古い家から戻ってきた。そこで犬に餌をやり、家財道具をまとめてきた。タチアナさんは「ここは本当にひどい状況。本当にひどい。通りには誰もいない。他にどこも行くところがない」と語った。
ウクライナの分析グループ「ディープステート」の地図によれば、ロシア軍は過去1週間で、町の南東の端から8キロ内に進出し、南西部にも到達している。多大な犠牲を払ってゆっくりと前進を続けることは長年にわたってロシアの戦争遂行の特徴だったが、東部のポクロウスクとコンスタンチノフカ、さらに北のクピャンスクへの同時進軍は、ロシアのプーチン大統領に再編された前線を与え、プーチン氏の主要な目標の一つであるドネツク地方に対する主張を転換させるリスクを伴っている。
コンスタンチノフカの中央市場は、ドローンや砲撃の危険があるにもかかわらず、今も活気に満ちたオアシスであり、地元の人々は食料を集めるために忙しい。住民の多くが顔写真を撮られるのをためらった。これは町が近い将来占領された場合、親ウクライナ派とレッテルを貼られることを恐れている兆候かもしれない。「これから、彼らは私たちを爆撃するだろう」とある高齢の女性が言った。これは、ロシア軍がニュース映像を標的の選定に使っているという懸念を示したものだった。
空の支配は地下で行われている。現地のバシル司令官は地下室にモニター群をそろえている。戦争は今や、二分されている。恐ろしい前線でドローンに追われるものたちと、ドローンの作戦拠点や陣地が空爆による攻撃を頻繁に受けているドローン操縦者たちだ。バシル司令官の背後の画面には、きのこ雲が空に浮かんでいる。ロシア軍がウクライナの操縦士を狙って空爆を試みているからだ。
バシル司令官の抱える根深い問題は人材だ。第93機械化旅団には8カ月にわたって新しい人材が派遣されていない。「深刻な人員不足に陥っている。誰も戦いたがらない。(彼らにとって)戦争は終わった。古い人員が残り、疲弊している。代わりの人員を求めているが、代わりの人員はいない」

ロシア軍の戦闘用ドローンを探すウクライナ軍兵士=5日、ウクライナ・ドネツク州/Viacheslav Ratynsky/Reuters

ドローンを操作するウクライナ軍の兵士=5月/Iryna Rybakova/Press Service of the 93rd Kholodnyi Yar Separate Mechanized Brigade of the Ukrainian Armed Forces/Reuters
バシル司令官は「ルビコン部隊」として知られるロシアの新しいドローン部隊について、よく訓練されており、プロフェッショナルだと述べた。ウクライナのドローンの上空を飛ぶドローンから垂らした糸だけを使って、ローターにからませてウクライナのドローンを墜落させることもあるという。
バシル司令官は、軍事問題の本質に関する最前線からのコミュニケーション不足が深刻な問題だと述べた。「多くのことが伝えられず、隠蔽(いんぺい)されている。我々は国に多くのことを伝えていない。国も国民に多くのことを伝えていない」
「状況を理解するには、実際にその場所にいる必要がある」とバシル司令官。「状況が厳しいと言っても誰も理解してくれない。我々の立場になって考えてほしい。我々は疲れている。誰もがこの戦争につかれており、他の国々も我々を助けることに疲れていると思う」