ロシアの攻撃続くキーウ、空爆下で小児ドナーの心臓を運んだ医師 移植手術で命を救うため
(CNN) ウクライナの首都キーウは炎に包まれていた。大きな爆発音や上空を飛行するロシアのドローン(無人機)の恐ろしい音をものともせず、ボリス・トドゥロフ医師は救急車で街を走り抜けた。
トドゥロフ氏が届けようと決意していた大切な荷物は、人間の心臓だった。
トドゥロフ氏の患者は幼い子どもで、病院で重篤な状態にある。猶予は数時間だった。
その子は数年前から心臓病を患っていたが、今週に入って容体が悪化した。トドゥロフ氏には移植しか助かる道はないと分かっていた。
このため、市の反対側で小児ドナーの心臓が入手できることになった時、トドゥロフ氏はロシアの攻撃が止まるのを待たずに行動を開始した。
ロシアはここ数週間、ウクライナに対する航空攻撃を強化している。10日未明にかけての時間帯には、400機を超えるドローンのほか、弾道ミサイル8発と巡航ミサイル6発を含むミサイル18発を発射した。
ウクライナ当局が市民に防空壕(ごう)や地下への避難を呼び掛ける中、トドゥロフ氏とスタッフはキーウ西部のオフマディト小児病院から東岸の心臓研究所まで車を走らせた。約16キロの道のりで、周囲にはミサイルやドローンが飛び交っていた。
ウクライナ空軍はドローンやミサイルの大半を撃墜、もしくは無力化すること成功にしたが、10日の攻撃で2人が死亡、数十人が負傷した。
「心臓は動いている」
キーウに対する10日の大規模攻撃は、ロシアによる相次ぐ攻撃の最新の事例にすぎない。前日9日には、1晩の数としては過去最多となる700機超のドローンがウクライナに対して発射された。
心臓研究所の責任者を務めるトドゥロフ氏とチームは、2夜連続で行われた攻撃の間、休むことなく働き続けた。
9日に研究所で心臓手術を行うと、トドゥロフ氏は市を横断してオフマディトへ向かい、ドナーの体から心臓を摘出した。
その後、トドゥロフ氏は自ら市を横切って心臓を運んだ。
キーウへの攻撃のさなか、ドニプロ川を橋で渡る行為には極めて大きな危険が伴う。車は無防備であり、ウクライナの防空システムは落下物による被害を最小化するため、川の上空にいるロシアのドローンやミサイルに狙いを定めるからだ。
決死の走行中に撮影された動画には、道路脇で大きな炎が上がる中、「私たちは心臓を運んでいる」と冷静に語るトドゥロフ氏の姿が映っている。
トドゥロフ氏が心臓研究所の手術室に入り、大勢の医療チームを率いて患者への移植を行っている間も、ロシアの攻撃は続いていた。
CNNに提供された映像には、息をのむ瞬間が捉えられている。ロシアのドローンとミサイルが降り注ぐキーウを車で運ばれてからわずか数時間後、新しい心臓が患者の胸で鼓動している様子が確認できる。
トドゥロフ氏は「心臓は動いているし、血圧も安定している。(患者が)回復し、長く充実した人生を送れることを願っている」と語った。
ウクライナ移植調整センターの声明によると、ドナーは4歳の女児で、重傷を負った後、医療協議会から脳死と判定された。
自身も医療従事者である母親は、娘の臓器を提供することに同意した。
移植調整センターは「小さなドナーが安らかに眠ることを願う。遺族に哀悼の意、そして難しくも重要な決断を下してくれたことへの感謝の意を表明する」と述べている。