豪華さと悲劇で知られた「世界初のジェット旅客機」、ロンドン郊外の博物館で復元

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再現された「世界初のジェット旅客機」を見る

英デ・ハビランド航空博物館(CNN) 70年以上前に誕生し、わずか2年で姿を消した世界初のジェット旅客機が、英ロンドン郊外の博物館で復元された。ボランティアのチームが当時の機体を忠実に再現した。

現代の私たちにとって、ジェット機での空の旅は当たり前のことになっている。だがジェット旅客機の歴史は決して長くない。1952年5月2日、「デ・ハビランド・DH106コメット」が世界初のジェット旅客機として就航した時、英国ではすでに故エリザベス女王が即位していた。同機は英ロンドン・ヒースロー空港を出発して5カ所を経由し、23時間後に約1万1300キロ離れた南アフリカのヨハネスブルクに到着した。

1952年5月に就航したDH106コメット1A型機はロンドンとヨハネスブルクを結んでいた/Central Press/Hulton Archive/Getty Images
1952年5月に就航したDH106コメット1A型機はロンドンとヨハネスブルクを結んでいた/Central Press/Hulton Archive/Getty Images

これは当時、快適さやスピードなどさまざまな面で、「ロッキード・コンステレーション」などトップクラスのプロペラ旅客機をはるかにしのぐ画期的なフライトとなった。ピストンエンジンを使う従来のプロペラ機とは違って、振動や騒音も小さかった。こうして世界は一気に、そして不可逆的に、ジェット時代へ突入した。

ボーイング社をはじめとする米国の競合各社を押しのけて一番乗りを果たしたのは、英国のデ・ハビランド社だ。

コメット機内の様子を知るには、これまで画質の粗い白黒映像や当時の宣伝写真を見るしかなかった。

だが最近、熱心な博物館ボランティアのグループが丹念な作業の末、機体を見事に復元した。

「美しい姿」

デ・ハビランド航空博物館はロンドンの北西に広がる田園地帯の一角、渋滞が慢性化した環状道路「M25」に近い、見落としがちな場所にある。案内標識は設置されているものの、矢印が示すのは生垣の間から通じる狭い小道だ。

小道に入って最初に見えるのは、16世紀に建てられた邸宅「ソールズベリー・ホール」。さらに進めば博物館が現れる。敷地内には数々の古い飛行機や格納庫が並ぶ。

この場所自体が航空史の一部でもある。第2次世界大戦中、英航空業界の先駆者ジェフリー・デハビランド氏はここで、高速の木製戦闘機「DH98モスキート」の開発、試験に着手した。戦後の1950年代後半、地元実業家がその歴史に目を付け、英国初となる航空博物館を開設した。

モスキートの鮮やかな黄色の機体は、博物館の目玉のひとつ。スタッフによれば、第2次大戦中の試作機が無傷で残っているのはここだけだ。大きく開かれた爆弾倉の扉、英ロールスロイス社のエンジン「マーリン」に取り付けられた大型のプロペラなどが、見事に復元されている。

ほかにもデ・ハビランド社の伝説的な民間、軍用機の数々が展示されている。モスキートと同じ格納庫の片隅には、第2次大戦中の輸送用グライダー「ホルサ」の機体もある。


英デ・ハビランド航空博物館で再現されたDH106コメット1A型機/David Sive / CNN

隣の格納庫では、ボランティアグループが同社初のジェット機となった1人乗りの双胴機「DH100バンパイア」の復元作業に熱中している。平日にはメンバーの人数が来館者を軽く上回ることもあるほどだ。独特な形状のバンパイアもまた、ソールズベリー・ホールで設計された。

だがなんといっても一番の目玉は、デ・ハビランド・DH106コメット1A型の機体だ。ジェット旅客機やその歴史に興味を持つ人にとって、これは一見の価値がある。

翼は欠損しているものの、胴体は仏エールフランスが運航していた時代の通り、足回りがメタリックで屋根が白。海馬のマークと三色の仏国旗が描かれている。

退職後のボランティアで復元プロジェクトを率いたエディー・ウォルシュ氏は、「何年たっても美しい航空機だ」と話す。

だが同氏によれば、最初から美しかったわけではない。85年に初めて機体の残骸が届いた時は、ただの金属の筒と変わらない悲惨な姿だったという。

「まさに悪夢」


再現された機内の様子/CNN

ボランティアのチームはかつての栄光を取り戻そうと、丹念にゆっくりと作業を開始した。そしてついに、翼以外は70年以上前とほぼ同じ形まで復元した。

「翼もほしいところだが、そうすると博物館の空間をほぼ占領してしまう」と、ウォルシュ氏は説明する。

コメットは翼のデザインも見どころだった。その後の旅客機はほとんどエンジンが主翼から吊り下げられているのに対し、コメットは主翼の中にターボジェットエンジン「デ・ハビランド・ゴースト」がすっきり収まっていた。

再現されたコメットの操縦室/CNN / Max Burnell
再現されたコメットの操縦室/CNN / Max Burnell

美しさや目新しさの一方で、コメットのエンジンは燃料の消費が激しく、離陸時のパワーが不足していた。その結果、パイロットが機首を早く上げすぎたり、滑走路をオーバーランしたりする事態が生じ、深刻な事故を招いた。ただ最終的にコメットを運航停止まで追い込んだのは、それ以上に破壊的な設計上、技術上の欠陥だった。

コメットは「危険」の代名詞となってしまったが、当初はぜいたくな旅の可能性を示す見本のようだった。機体後部の階段を上ってドアから一歩入れば、そこには旅客機の歴史がよみがえる。ウォルシュ氏らのチームは、客室の内装も詳細に再現した。

まずはトイレだ。近年の男女兼用の設備とは違い、男女別になっている。男性用には小便器、女性用には椅子とテーブルや化粧鏡が備え付けられていた。

メインの客室は片側に2人用座席の列が再現された。青い布張りの座席は、赤いカーテンとそろいの柄だ。足元は十分な広さがあり、カップホルダーや灰皿も取り付けられている。

初期型のコメットは長方形の窓が特徴だった。これは構造破損の原因とみなされたことがあり、後継モデルには丸窓が採用された。

食事の時間になると、客室乗務員が面倒をいとわずに木製のトレーを配る。食卓では正式な皿やナイフ、フォーク類が使われた。頭上に荷物棚はなく、博物館が3Dプリンターで再現した電灯には「スチュワード(客室乗務員)」を呼び出す赤いボタンが付いている。

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