米国の空に広がる超音速旅客機の可能性 立ちはだかる現実

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ブームはオーバーチュアがコンコルド以来初の超音速旅客機になると期待を寄せる/Boom Supersonic

ブームはオーバーチュアがコンコルド以来初の超音速旅客機になると期待を寄せる/Boom Supersonic

(CNN) 近い将来、米国の空が、これまでよりもはるかに高速な空の旅に向けて開かれるかもしれない。音速を超える旅客機の開発が進んでいるから、というだけではない。こうした機体が、米国本土の上空で初めて飛行を許可される可能性が出てきたのだ。

2003年に退役した超音速旅客機「コンコルド」の現役時でさえ、米国本土上空におけるマッハ1を超える速度での商業飛行は禁止されていた。その主な理由は、ソニックブーム(衝撃音)による騒音公害への懸念だった。

現在、米議会ではこの制限を見直す法案が提出され、空域の開放に向けた動きが進んでいる。待望の「コンコルドの後継機」が登場すれば、これまでにない数の超音速航路が生まれる可能性がある。

こうした流れを受けて、大きな衝撃音を響かせずにマッハ1超で飛行できる次世代の超音速旅客機の開発が進んでいる。その一つが、米コロラド州のベンチャー企業ブーム・スーパーソニックが手がける「オーバーチュア」だ。コンコルドの退役以来初となる本格的な超音速旅客機であり、米国空域の開放はこの計画の実現に向けた重要な一歩となる可能性がある。

ブーム社の実証機「XB―1」は、今年1月と2月に音速の壁を突破した。同機は、衝撃波を地上に到達させずに超音速で飛行できる「ブームレス・クルーズ」と呼ばれる飛行方式を採用し、音速に近い速度で特定の気象条件下において音が地表から屈折して遠ざかる現象を利用することで、ソニックブームの発生を回避することに成功した。

ブーム社は、オーバーチュアの初の試作エンジンを年内に完成させることを目指しており、すべてが同社の野心的な計画に沿って進めば、アメリカン航空、日本航空(JAL)、ユナイテッド航空が30年末までに最初の機体を受領する可能性がある。

夢の超音速飛行、その現実とは

オーバーチュアの定員は最大80人になる見通しだ/Boom Supersonic
オーバーチュアの定員は最大80人になる見通しだ/Boom Supersonic

オーバーチュアは、マッハ1.7の巡航速度により、こうした移動を可能にし、大陸横断飛行の所要時間を最大で半分に短縮できると見込まれている。

機内は比較的快適な環境で最大80人を運べる設計とされており、公開されたイメージでは、現在の亜音速機のビジネスクラスに匹敵するラグジュアリーな内装が描かれている。

ただし、航空会社が実際に関心を示すかどうかは別の問題だ。

オーバーチュアの課題の一つは、航続距離だ。約4888マイル(約7870キロ)とされる航続距離は、米大陸横断や欧州への大西洋横断には対応できるが、太平洋を無着陸で越えるには足りない。

速さへの代償、「超音速プレミアム」

ブームの旅客機が乗せるのはビジネスクラスの乗客のみになる見通しだ/Boom Supersonic
ブームの旅客機が乗せるのはビジネスクラスの乗客のみになる見通しだ/Boom Supersonic

業界誌「エア・カレント」編集長ジョン・オストロワー氏は、今年2月の番組で「ブーム社の挑戦は、航空業界がジェット機時代から追い求めてきた効率性に逆行している」と指摘した。

ブーム社独自の推計によれば、オーバーチュアはエアバスA350やボーイング787などの亜音速機に比べ、大陸間飛行においてプレミアムシート(ファーストクラスやビジネスクラス)1席あたりで2〜3倍の燃料を消費する。非営利団体「国際クリーン交通委員会」の別の推計では、オーバーチュアの燃料消費量は亜音速の長距離機の5〜7倍に達するという試算もある。

航空会社は、その追加の燃料費をより高い運賃で回収することになる。

ドイツのワームズ応用科学大学の研究者らは専門誌「航空輸送管理ジャーナル」に昨年発表した論文の中で、こうした運賃を「超音速プレミアム」と表現した。採算を取るには、オーバーチュアの運賃を現在のニューヨークから英ロンドンまでのビジネスクラス運賃よりも約38%高く設定する必要があると推定している。これは、航空券を検索する「グーグルフライト」で現在の片道平均運賃が約3500ドル(約50万円)とされる中、超音速便では片道約4830ドル(約70万円)になる計算だ。

一方、ブーム社の創業者で最高経営責任者(CEO)のブレイク・ショール氏は、オーバーチュアが大多数の乗客にとって手の届かない価格になる可能性を認めつつ、それでも十分にビジネスとして成り立つとしている。

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