英王室の専用列車が180年の歴史に幕を下ろす理由

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英イングランド北部ピカリングの駅に到着するチャールズ国王(右)=2023年6月/Charlotte Graham/WPA Pool/Getty Images

英イングランド北部ピカリングの駅に到着するチャールズ国王(右)=2023年6月/Charlotte Graham/WPA Pool/Getty Images

(CNN) 1840年代初頭、英ビクトリア女王は自身専用の特別車両で旅をした初の英国君主となった。しかしそれから180年以上が経過した後、チャールズ国王はこの高貴な伝統に終止符を打とうとしているようだ。

豪華なワインレッドの塗装で飾られた現行の王室専用列車は、2027年3月までに廃止される。その意図について王室の最新の財務報告書は、「公金の最大限の価値を確保するため」としている。今後高位の王室メンバーは国内の公式訪問でヘリコプターや定期運行列車の利用を大幅に増やす見通し。イングランドとスコットランドの邸宅の往復についても同様となる。

ジェームズ・チャーマーズ国王手許金会計長官は専用列車廃止の決定について、「非常に切ないお別れ」としつつ、「前へ進むためには、過去に縛られてはならない」と言い添えた。

王室列車にまつわる喪失感について、英バッキンガムシャーにあるウルバートンほどそれを深く味わう街は他にないだろう。1842年に運行を開始した最初の車両から、歴代の王室列車はこの街で大事に管理、維持されてきた。

「特別な感慨」

ビクトリア女王の時代、王室専用列車の客車には豪華な内装が施されていた/Science & Society Picture Library/Getty Images
ビクトリア女王の時代、王室専用列車の客車には豪華な内装が施されていた/Science & Society Picture Library/Getty Images

「ウルバートンに住む誰もが専用列車に関わる人のことは知っており、それを大変誇りに思っている」。鉄道管理に携わり、街と王室専用列車との関係にまつわる著書もある歴史家のフィリップ・マーシュ氏はそう語る。

英政府に代わって30年間王室専用列車の運営を手掛けるDBカーゴUKのトップ、アンドレア・ロッシ氏は、専用列車の運行時にはいつも「特別な感慨」を覚えると説明。運転士たちは英国で最も権威のある列車を任されることを大変誇らしく思っていると述べた。専用列車は国家的な遺産だとの見解も示唆した。

ビロードや黄金で飾られた19世紀の豪華な内装とは異なり、現行の専用列車の内部は驚くほど簡素で実用志向だ。王宮列車というより、1970年代のビジネスホテルといった方がしっくりくる。客室の造りや備品は時代遅れになったものの、依然として公務での安全な移動手段を提供している。一方でその使用機会は近年で激減していた。

近年の専用列車の内部は、王宮列車というより1970年代のビジネスホテルといった方がしっくりくる/Fiona Hanson/PA Images/Getty Images
近年の専用列車の内部は、王宮列車というより1970年代のビジネスホテルといった方がしっくりくる/Fiona Hanson/PA Images/Getty Images

王室の年次財務報告書によると、2024年から25年にかけて王室専用列車は2度しか運行しておらず、かかった費用は10万5000ドル(約1500万円)超だった。これに対し、プライベートのチャーター機の移動は55回で、コストは約81万9000ドル。ヘリコプターは141回で、1回当たり4600ドルかかった。定期運航便でのフライトの費用は総額で17万2000ドルだった。昨年の王室による旅費の総額は640万ドルで、前年を68万2000ドル上回った。

一つの時代の終わり

専用列車を廃止するのは英国の王室だけではない。過去25年で日本の皇室、スウェーデン、オランダの王室もそれぞれの専用列車を廃止した。デンマークとノルウェーだけは王室専用列車を継続しているが、使用されることはほとんどない。

王室専用列車は歴史のある鉄道の街、ウルバートンで管理、維持されている/Matthew Fearn/PA Images/Getty Images
王室専用列車は歴史のある鉄道の街、ウルバートンで管理、維持されている/Matthew Fearn/PA Images/Getty Images

現在の英国王室の専用列車は、エリザベス女王の即位25周年に当たる1977年に製造された。現車両は2027年の廃止までに英国ツアーを行い、鉄道ファンや王室ファンに最後の別れを告げる予定。その後車両がどうなるのかは不明だが、過去の車両の多くはヨークにある国立鉄道博物館などの施設に保管されている。

最近運行された王室専用列車。牽引するのは有名な蒸気機関車「フライング・スコッツマン」だ/Owen Humphreys/PA Images/Getty Images
最近運行された王室専用列車。牽引するのは有名な蒸気機関車「フライング・スコッツマン」だ/Owen Humphreys/PA Images/Getty Images

前出のマーシュ氏は、「スクラップになるのは見たくない」「公認の博物館で展示して欲しい。国立鉄道博物館でもいいし、新しい博物館を生まれ故郷のウルバートンに建ててもいい」と語った。

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