レイチェル・ゼグラーがほぼ毎晩無料で歌声を披露、異例の演出が話題に ロンドン劇場
(CNN) 大道芸人や通り過ぎる車、隣のアパートなど、どの街角にも音はあふれているものだが、英首都ロンドン中心部ソーホーの一画ではこのほど、ハリウッドスターの歌声が響くようになった。
9月上旬までほぼ毎晩、レイチェル・ゼグラーは午後9時ごろ、パレイディアム劇場のバルコニーに姿を現し、ミュージカル「エビータ」の代表曲「アルゼンチンよ、泣かないで」を透明感のある声で歌い上げる。足元には数百人の観衆が集まり、無料で鑑賞できる。一方、劇場内で料金を支払った観客は、その場面をライブ映像で見る仕組みだ。
6分間にわたるバルコニーでのパフォーマンスによって、この舞台はロンドンのウェストエンドで「いま最も話題の作品」となっている。
この象徴的な場面をこのように演出した意図が話題を呼んでいる。一部からは、巧妙なマーケティング戦略との見方が出ている。公演の公式記者会見が始まる前から、かなりの宣伝効果をあげていた。一方で、劇場をより身近なものにする手段との指摘もある。ゼグラーは「ウエスト・サイド・ストーリー」や「白雪姫」で知られるスターだ。
舞台の文脈としては、ミュージカルの基となったアルゼンチン元大統領フアン・ペロンの妻であるエバ(エビータ)・ペロンがブエノスアイレスの大統領官邸のバルコニーから群衆に語りかけた史実をほぼ文字どおり再現する演出ともいえる。
一部の英メディアは、最高で245ポンド(約4万9000円)を支払った観客が、ミュージカル最大の見せ場をスクリーン越しにしか見られない点を問題視している。
観客のナディーンさんは「観客はお金を払っているのに無料だと文句を言う人がいるけれども、それがこの舞台のだいご味だ」と語った。こうした演出はペロンが貧困層の権利保護に人生を捧げたことを示唆しているという。

パフォーマンスを見ようと劇場の外に集まった人々/Jordan Pettitt/PA Wire
25日に劇場前に集まった人々の中で、すでに観劇した人もこれから観劇する予定の人も、メインイベントが屋外で行われることに不満を漏らす者はいなかった。
米アリゾナ州ツーソンから訪れたアルマ・ニールセンさんは、映像越しの鑑賞でも「素晴らしかった」と語った。巨大スクリーンに映し出される観衆を見られたことで、むしろ臨場感が高まったと話した。子どもに勧められて観劇した後、劇場前に戻り「すべてを体験した」と語った。
懐疑的な見方をする人もいる。俳優のアダム・リースデイビズさんはこうした演出をどう受け止めるべきか、よくわからないようすで、「舞台よりも仕掛けを大きくしたくない」と語った。
同作を手掛けたジェイミー・ロイド氏は演出の狙いについて公に語っておらず、作曲家のアンドリュー・ロイド・ウェバー氏も「観衆が増えても続けられることを願う」と述べるにとどめている。