系外惑星で発見された「生命の兆候」、科学者らから疑問の声相次ぐ

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K2-18bの想像図。水素を豊富に含む大気を持ち、液体の水で完全に覆われていることから、生物の活動を探すのに適した場所となる可能性がある/NASA/CSA/ESA/J. Olmsted (STScI)/N. Madhusudhan (Cambridge University)

K2-18bの想像図。水素を豊富に含む大気を持ち、液体の水で完全に覆われていることから、生物の活動を探すのに適した場所となる可能性がある/NASA/CSA/ESA/J. Olmsted (STScI)/N. Madhusudhan (Cambridge University)

(CNN) 今年4月、我々が知る宇宙の姿を変えるかもしれない、ある小さな「痕跡」が発見されたと発表された。

地球から遠く離れた惑星K2-18bの大気中に、旋回する二つの分子の兆候を天文学者らが発見したのだ。この二つの分子は、地球上では生物によってしか生成されないため、地球外生命の存在を示すバイオシグネチャー、すなわち生物学的な活動に関連する生命の痕跡として、これまでで最も有望な証拠と考えられた。

しかし、そのわずか数週間後に明らかになった新たな発見により、今後も調査の継続が必要であることが示された。

4月の研究でK2-18b上に存在が確認された二つの分子、ジメチルスルフィド(DMS)とジメチルジスルフィド(DMDS)は、たしかに地球上では主に微生物と関連付けられているが、科学者らは、これらの化合物は生命が存在しなくても生成されうると指摘する。

現在、4月の研究に関与していない三つの天文学者チームが、最初のバイオシグネチャーの発見に使用されたモデルやデータの評価を行っているが、その結果は4月の研究結果とは全く異なるもので、すでに査読に提出されている。

一方、4月の研究論文の主執筆者であるニック・マドゥスダン氏とその共同研究者たちも、K2-18bに関する発見を裏付けるべく、追加の研究を行っている。また今後、複数の科学者グループにより、さらなる観測や研究が行われる見込みだ。

観測データに「ノイズが多い」

地球から124光年離れた場所にあるK2-18bは、一般に生命の兆候を探すに値する有望な惑星と考えられている。

ケンブリッジ大学天文学研究所で天体物理学と太陽系外惑星科学の教授を務めるマドゥスダン氏が主導した過去の研究によると、K2-18bは、惑星全体が液体水で覆われ、水素を多く含む大気を備えた「ハイセアン惑星」と考えられている。そのため、K2-18bは太陽系外に存在する「居住可能性のある惑星」として急速に注目を集めている。

K2-18bの可能性に確信を抱いたマドゥスダン氏とケンブリッジ大学の同僚たちは、現在稼働中の世界最大の宇宙望遠鏡であるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測データを用いて、K2-18bのさらなる研究を行った。

しかし、シカゴ大学天文学・天体物理学科の博士研究員ラファエル・ルケ博士と、別の博士研究員マイケル・チャン氏は、マドゥスダン氏らの研究結果にいくつかの問題点を発見した。

マドゥスダン氏の研究チームが4月に発表した論文は、彼らが23年に行った研究に基づいている。ルケ氏とチャン氏は、この論文を精査した結果、ウェッブ望遠鏡のデータには「ノイズが多い」ことに気付いたという。

望遠鏡の欠陥や異なる光の粒子が望遠鏡に届く速度によって生じるノイズは、遠くの系外惑星を観測する際に天文学者らが直面する課題の一つであり、観測結果を歪めたり、データに不確実性をもたらすとチャン氏は指摘する。

特に、遠くの系外惑星の大気中に存在する特定の気体を検出しようとすると、不確実性はさらに高まる。チャン氏によると、ジメチルスルフィドのような気体の最も顕著な特徴は、水素分子と炭素分子の結合に由来しているが、この結合は伸びたり曲がったりして、異なる波長で光を吸収するため、1種類の分子を確実に検出するのが難しいという。

基本的に炭素・水素結合はすべての有機分子に存在し、こうした分子は数億種類もあるため、完璧なデータがない限り、特に近赤外線では、多くの分子、特に有機分子は非常に似通って見えるとチャン氏は言う。

またルケ氏とチャン氏は、マドゥスダン氏らの4月の論文をさらに詳しく調べた結果、同氏が23年に発表した研究では、K2-18bの知覚温度がおよそ250~300ケルビン(セ氏約マイナス23.15~26.85度)だったのに対し、4月の研究では422ケルビン(セ氏約148.85度)に急上昇していることに気付いた。

そのような厳しい高温は、K2-18bの潜在的な居住可能性に対する天文学者らの見方を変える可能性があるとチャン氏は指摘する。特にウェッブ望遠鏡が感知可能な大気の上層部では比較的低温が持続する一方、その下の表面や海洋はさらに高温である可能性が高いためだ。

またルケ氏は、4月の解析にマドゥスダン氏のチームが過去数年にわたり使用してきたウェッブ望遠鏡の三つの観測機器すべてから収集されたデータが含まれていなかったことも問題だと指摘する。

そこでルケ氏とチャン氏の研究チームは、利用可能なすべてのデータを組み合わせて研究を行い、同じ結果が得られるか、あるいはさらに多くのジメチルスルフィドを確認できるかを調べた。その結果、K2-18bの大気中にDMSとDMDSが存在する「十分な証拠はない」と結論づけた。

その代わりに、ルケ氏とチャン氏のチームは、(DMS、DMDSと)同じ特徴に合致しうるエタンなどの他の分子を検出した。しかし、エタンは生命の存在を示すものではない。

分子の存在を示す証拠は確認できず

アリゾナ州立大学地球・宇宙探査学部の博士研究員ルイス・ウェルバンクス博士の研究チームも4月に発表されたK2-18bに関する論文に潜む根本的な問題を発見した。

ウェルバンクス博士は、懸念されるのはマドゥスダン氏のチームが、K2-18bの大気中に存在する可能性のある分子を示すためのモデルをどのように構築したかということだと指摘する。

「各分子は、同じ最小限の基準モデルに対して一度に一つずつテストされているため、すべてのモデルには人工的な優位性がある。つまり、そのモデルだけが、許された唯一の説明になっている」とウェルバンクス氏は指摘する。

そこでウェルバンクス博士のチームは、マドゥスダン氏の研究で用いられたモデルを拡張し、他の化学種が観測データに十分合致するかどうかを調べた。その結果、ジメチルスルフィドやジメチルジスルフィドの存在を示す明確な証拠は確認できなかったとウェルバンクス博士は述べた。

証明の責任

一方、マドゥスダン氏は、ルケ氏とチャン氏の研究を精査し、自分たちの研究結果が「DMSやDMDSの強い検出を証明していない」との主張に同意したものの、同氏のチームが4月に論文を発表した際、観測結果の有意水準は3シグマ(検出が偶然である確率は0.3%)だったと述べた。

しかし、偶然に起こった可能性が極めて低い科学的発見と認められるためには、観測結果が5シグマ(観測が偶然である確率が0.00006%未満)の基準を満たす必要がある。

この基準をクリアするには、複数の望遠鏡を用いて同じ分子の検出を繰り返し、生命以外の可能性を排除するなど、多くの段階を踏む必要があるとウェルバンクス博士は主張する。

そのような証拠が我々の生涯のうちに見つかる可能性はあるが、それはある時突然発見される可能性は低く、むしろ天文学者、物理学者、生物学者、化学者らの合意形成を要する、非常に時間のかかるプロセスになるだろう。

またマドゥスダン氏とケンブリッジ大学の同僚たちは、ウェルバンクス博士のチームによる研究を受け、K2-18bの探索範囲を650種類の分子に拡大した新たな論文を執筆し、その分析結果を査読に提出した。

マドゥスダン氏は、「これは系外惑星における化学的特徴の探索としては過去最大規模であり、K2-18bに関する利用可能なすべてのデータを用いて650種類の分子を調査した」とした上で、「その結果、DMSは引き続き、この惑星における有望な候補分子であることが分かったが、以前の研究でも指摘しているように、確実な検出にはさらなる観測が必要だ」と付け加えた。

一方、ウェルバンクス博士は、マドゥスダン氏とその同僚たちが、指摘された懸念に対応したことを喜ぶ一方で、新たな論文は4月の最初の論文の中心的な主張を事実上後退させているように感じると述べた。

ウェルバンクス博士は「新たな論文は、DMSとDMDSの検出が確たるものではなかったと暗に認めているものの、依然として同じ欠陥のある統計的枠組みと、自身の観測結果を選択的に解釈する手法に依拠している」とし、さらに次のように続けた。

「(時折)論調はより慎重になっているが、彼らの方法論は依然として真の不確実性のレベルをあいまいにしている。彼らが以前の研究で主張していた統計的有意性は、認められていない恣意的なモデリングの判断によるものだ」

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