新しいヌーディズム――21世紀に服を脱ぐためのガイド

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裸を愛するナチュリストのための施設「サンフォーク」は94年の歴史を持つ/Mark Berry/British Naturism

裸を愛するナチュリストのための施設「サンフォーク」は94年の歴史を持つ/Mark Berry/British Naturism

英セントオールバンズ(CNN) 「ナチュリズムとは体を解放し、ありのまま自分を受け入れること」。立派な白いカイゼルひげをたくわえたカナダ人、ステファン・デシェーヌ氏は目を輝かせながらそう語る。

取材班はブリティッシュ・ナチュリズムの施設「サンフォーク」のオープニング式典に合わせ、温水浴槽のそばに集まっていた。サンフォークは94年の歴史を持つナチュリストための施設で、改修を経て再オープンの時を迎えている。

国際ナチュリスト連盟(INF―FNI)の会長を務めるデシェーヌ氏は今回、ロンドンの通勤圏に位置する小さな古都セントオールバンズまで約4800キロを旅してきた。セントオールバンズにはナチュリストの集うクラブが三つある。

成熟した森林に囲まれた約2ヘクタールの敷地は、のどかそのものだ。手入れの行き届いた芝生はシャクナゲに縁取られ、オタマジャクシでいっぱいの小川が流れる。

魅力的な新しいサウナ、浮き輪や遊具がそろった温水プールに加え、洗面用具を完備した屋外シャワーまである。

付近には洗練された新しいグランピング(豪華キャンプ)の施設5棟、キャンプファイア用の区画、共同キッチンを備えたクラブハウス、軽食やドリンク、出来合いの食事を購入できるセルフサービスのバーもそろう。

ほこりっぽく混雑したロンドン中心部からわずか1時間の距離にたたずむ、平穏なオアシスのような趣だ。

気まぐれな英国の天気(肌寒い曇り空に見舞われる危険はこの季節につきものだ)にもかかわらず、初夏の催しに集まった40~50人の大半はきちんと服を脱いでいた。

普段隠されている部分があらわになった光景に最初は戸惑うが、適応するのは簡単だ。いつものように顔を見るのだ。思わず下を向いてしまい肌が目に入ったら、礼儀正しく右へ視線をはずそう。

やがて、裸体は風景の自然な一部として感じられるようになる。この地を100年近く見守ってきた老木の数々がそうであるように。

「時代は変わった」

ブリティッシュ・ナチュリズムのマーク・バス会長はマイク固定用のベルトを着用して、集まったナチュリストたちに話しかけていた。20代の若者の姿もちらほら見かけるが、大半は中高年だ。

第2次世界大戦後の最盛期の華やぎを取り戻そうと、サンフォークでは何年も前から取り組みが進められてきた。戦後の当時はパーティーが頻繁に開かれていて、アーカイブ写真には裸で集まった家族連れの姿が目立つ。

「時代は変わった」とバス氏は話す。「実際に協会やクラブに加入しようという姿勢は薄れつつある」

全国規模のナチュリスト団体の会員数は、世界中で減少傾向にある。先駆的な「自由な体の文化」(FKK)運動の本場であるドイツでさえ、自治体は服を着なくても良いナチュリストビーチの数を減らしている。

ブリティッシュ・ナチュリズムの施設「サンフォーク」のオープニング式典で仲間とくつろぐジェームズ・シャトルワースさん(左)/Mark Berry/British Naturism
ブリティッシュ・ナチュリズムの施設「サンフォーク」のオープニング式典で仲間とくつろぐジェームズ・シャトルワースさん(左)/Mark Berry/British Naturism

社会的なヌードには長い歴史があるものの、近代ナチュリズム運動が発展したのは19世紀後半の欧州でのことだ。1920~30年代には世界中で人気を博すようになった。

ナチュリズムの本質は身体の自由だが、それは退廃的な自由放縦ではない、とデシェーヌ氏は説明する。

「羞恥心にも何にも縛られず、社会の枷(かせ)や束縛から解放される感覚がある」とデシェーヌ氏。「とはいえ、ナチュリストの世界のほうが主流の社会より色々ルールが多いのは間違いない」

「性的色合いのない社会的ヌード」というナチュリズムのユートピア的理念は、敬意や共同体、平等主義、自然との調和といった概念に基づく。

オンリーファンズ(アダルトコンテンツを許容するSNS)や奔放な個人主義が広がる現代では、こうした価値観は堅苦しいか、古くさく見えるだろう。親世代や祖父母世代と一緒に服を脱ぎたくない若者にとってはなおさらだ。

しかし、ナチュリズムが終わりを迎えているわけでは決してない。

運動の絶頂期から100年が経過したいま、実は西洋社会でヌードルネサンスの機が熟している可能性を示す要因がいくつもある。

高まるヌードレクリエーション熱

ブリティッシュ・ナチュリズムが委託した2022年の独立調査では、驚いたことに英国成人の14%がナチュリストまたはヌーディストを自認していることが判明。11年の6%、00年の2%という以前の調査から増加していた。

調査に当たり、ナチュリストは「裸で日光浴や水泳などの活動を行う人」と定義された。

少なくとも英国では、裸になってくつろぐことへの潜在的欲求は相当大きいように見える。世界を見渡しても、裸のヨガ教室から服を着なくても良いクルーズ船、裸に寛容なフェスまで、ヌードレクリエーションはブームの時を迎えている。

伝統的なクラブの会員数は減少傾向かもしれないが、服を着ないライフスタイルに大きな多様性が生まれつつある。

ブリティッシュ・ナチュリズムのスケジュールだけを取っても、毎日ぎっしり活動が詰まっている。水泳大会に陶芸教室、散歩グループ「スターク・トレッカーズ」との田舎歩きなど、どれも健全なアウトドア系の活動だ。

また現在では、20世紀初頭の最初のナチュリズムブームに通じる社会的要因も存在する。

「第1次世界大戦で人々はひどい苦しみを味わった」。バス氏はサンフォークで最初のナチュリストたちについてそう語り、「がんじがらめに制約され、とにかく自由を求めていた。自分たちの生活を取り戻すのが望みだった」と説明した。

サンフォークに隣接するナチュリストリゾートで、居住用の村でもある「シュピールプラッツ」(キャッチコピーは「一糸まとわぬ姿になった時にいるべき場所!」)もこの時期に創設された。

「翻って現在の状況を考えると、非常に似通った部分がある」とバス氏。「私たちはコロナ禍や行動制限を経験し、日常生活に制約が課されるのを目の当たりにした」

「社会の至る所で、私たちはメンタルヘルスのパンデミック(世界的大流行)に直面している。あなたは不十分、見た目がいまいちという言葉を絶えず聞かされ、多くの人が心の病に苦しんでいる。ナチュリズムでそれが解消するわけではないが、解決策の大きな一部にはなり得る」

「ナチュリストのための空間を守る」

シアーシャ・ニューハウスさんは「(ナチュリズムについて)少なくとも調べてみることを本当にお勧めする」と語る/ Mark Bass/British Naturism
シアーシャ・ニューハウスさんは「(ナチュリズムについて)少なくとも調べてみることを本当にお勧めする」と語る/ Mark Bass/British Naturism

ナチュリスト運動のコミュニティー重視の姿勢は例えば、世界保健機関(WHO)が世界的な優先課題に指定した孤独の蔓延(まんえん)への一つの対抗策といえる。

シュピールプラッツに住むヘイゼル・ライアンさんによると、認知症を患う住民の一人は近所の人が「自宅を指し示して」くれたおかげで、より長く一人暮らしを続けられたという。

バスさんは仲間のナチュリストたちに向け、 「今後のこと、未来に何が待っているのかを考えた場合、「ここにいる私たちは誰一人として(ナチュリズム運動の)未来の担い手ではない」と説く。

現役ナチュリストたちの役割は守護者だと、バスさんは指摘する。「私たちの望みはナチュリストのための空間を守り、人々が試しにナチュリズムを体験してみる機会を提供することだ」

「男女比や人種的出自、年齢の点でナチュリズムの世界に不均衡があることは分かっている。この問題に取り組むには、安全な場を提供する必要がある」

カメラの前で話すことをいとわない珍しい若い女性ナチュリストとして、シアーシャ・ニューハウスさんは式典で報道陣から引っ張りだこだった。

「特に若者にとっては、SNSの影響が大きいと思う。身体や世界の捉え方に影響する。ある意味、一種の催眠のようなもの」とニューハウスさん。「だからこそ、私が(ナチュリズムに)かける思いは強い。私の未来をそんな状況にしたくないし、他の人の未来にもしたくない」

サンフォークの管理人で、長年このリゾートの人口動態の変化を見守ってきたクリス・メーソンさんは、ありのままの自分の体を肯定する「ボディーポジティブ」の意識がZ世代の間で高まっていると指摘する。

来訪者の年齢層は依然として40~60代が多いものの、「コロナ以降、どんどん若返っているのに気付いた」とメーソンさん。「20代の割合が増えている。彼らはもっともっと気楽に脱いでいる」

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