ANALYSIS

【分析】トランプ氏の50日の猶予期間、ロシアは残忍な攻撃を継続する「許可」と認識

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北大西洋条約機構(NATO)を通じた武器の供与を発表するトランプ大統領=14日、米ホワイトハウス/Sputnik/AP

北大西洋条約機構(NATO)を通じた武器の供与を発表するトランプ大統領=14日、米ホワイトハウス/Sputnik/AP

モスクワ(CNN) 米国のトランプ大統領は事実上、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対して、異例のゴーサインを出した。つまり、何らかの結論が出る前にウクライナでの残忍な夏の攻勢を50日以内に終わらせよ、というものだ。

その期間の終わりである9月上旬までに戦争を終結させる合意が得られなかった場合、ロシアに対する100%の関税と、ロシアの貿易相手国に対する「二次制裁」の脅しが発動されることになる。

ロシアによる自国の町や都市に対する致命的なミサイル攻撃や大規模なドローン(無人機)攻撃の激化に耐えながら眠れないまま暮らしている何百万人ものウクライナの人々にとって、それは永遠のように思えるに違いない。

だが、ロシア首都モスクワでは、当局者が静かに安堵(あんど)のため息をついている。結局のところ、ロシアにとって事態はもっと悪化する可能性があったのだ。

トランプ氏が望めば、制裁は即座に実施できただろうし、あるいは、米上院の超党派の法案で提案されている500%の関税のような、もっと厳しい制裁も実施できたはずだ。

制裁の新たな脅威がウクライナでのクレムリン(ロシア大統領府)の方針を変えるとは限らない。

むしろ、その逆だ。

ロシアはすでに世界で最も厳しい制裁を受けている国の一つであり、米国での選挙への介入疑惑に加え、クリミア半島やシリア、英国などにおける悪質な活動に対しても処罰を受けている。

ロシア銀行大手ズベルバンクの前を歩く通行人=6月、ロシア首都モスクワ/Alexander Nemenov/AFP/Getty Images
ロシア銀行大手ズベルバンクの前を歩く通行人=6月、ロシア首都モスクワ/Alexander Nemenov/AFP/Getty Images

クレムリンは、自らの行動を変えることを拒否しながら、脆弱(ぜいじゃく)な経済を維持するための一連の複雑で柔軟な回避策をすでに確立している。

ロシアの有力議員アナトリー・アクサコフ氏は最新の制裁の脅威について質問されると、「ロシアに対する制裁の決定は成果を生まないことがこれまでの経験から明らかだ」と発言した。

「制裁はロシアが自信を持って前進し、経済を発展させ、国家経済の構造的再構築を実行することにつながる」(アクサコフ氏)

さらに、クレムリンの内部では、米国の新たな制裁発動までの50日間は、ウクライナでの軍事攻勢が成果を上げるには十分な時間だとみている。あるいは、成果が上がらなくても、心変わりしやすいことで有名なトランプ氏がロシアに対する考えを再び変えるには十分な時間だと。

ロシアの著名な上院議員コンスタンチン・コサチョフ氏はSNSで「50日間で、戦場も、米国とNATO(北大西洋条約機構)の権力者の気分も、どれほど変わることか」と述べた。

コサチョフ氏は「しかし、我々の気分は影響を受けない」と明言し、ロシアはウクライナに対して長期的なアプローチを取っていると考えている一方、西側諸国、特にトランプ政権は気まぐれだとみられている点を強調した。

それでも、ロシアは米国の兵器、さらには防衛用のミサイル迎撃システム「パトリオット」がウクライナに逆流する可能性を心から警戒している。

ロシアはウクライナの首都キーウやその他の町や都市に対するほぼ毎日の空襲について、ウクライナの最前線での激しい攻勢と共に現在の軍事攻勢の重要な側面とみている。

これは、ウクライナの戦闘継続の決意が弱まり、欧州の政治的意思が衰弱し、最終的にウクライナが降伏するだろうとみているからだ。

しかし、空襲に対して包括的に防御を行うパトリオットをさらに提供するという合意により、そうした結末の可能性は低くなる。

不満を募らせたロシアの政治家たちは、トランプ氏が和平を口にしながら、水面下では戦争を長引かせていると非難し、怒りをあらわにしている。

率直な発言で知られるレオニード・カラシニコフ議員は「ウクライナよ、この男はあなたたちをだましている!」と断言した。

「彼はこの戦争が続くことを望んでいるが、自身の手によってではない」(カラシニコフ氏)

ウクライナのゼレンスキー大統領が2024年に視察した兵器工場=米ペンシルベニア州/alliance/AP
ウクライナのゼレンスキー大統領が2024年に視察した兵器工場=米ペンシルベニア州/alliance/AP

クレムリンによって厳しく管理されている国営テレビでは、ウクライナへの武器供給に関する米政府の方針転換が激しく批判され、トランプ氏はロシアで広く嫌われている前任の米大統領と比較されている。

親クレムリンの著名司会者オルガ・スカベエワ氏は「トランプは今や(前大統領の)ジョセフ・バイデンの足跡をたどり、ロシア政府を交渉の席に着かせるためにウクライナに武器を約束している」と述べた。

スカベエワ氏は「バイデンは過去3年半、これをやってきた。しかし、ご存じのとおり、彼は成功しなかった」と嘲笑した。

本稿はCNNのマシュー・チャンス記者による分析記事です。

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