【分析】ミサイル供与はウクライナにとって重要な救済策、ロシアへのより厳しい制裁の欠如は痛手に

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大統領執務室で北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長と会談するトランプ大統領=14日/Kevin Dietsch/Getty Images

大統領執務室で北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長と会談するトランプ大統領=14日/Kevin Dietsch/Getty Images

ロンドン(CNN) 米国のドナルド・トランプ大統領が14日に行ったウクライナに関する発言は、米大統領が発表し得た最大のものからは程遠かった。

ウクライナ政府にとっての朗報はなじみのものだ。トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対し、米国製の兵器の購入を認めた。しかも、その範囲は広そうだ。緊急に必要とされているミサイル迎撃システム「パトリオット」とそれを発射するための装備も含まれる。トランプ氏は、あるNATO加盟国には17の「予備」があるとさえ示唆した。

NATOが最終的に提供する武器パッケージの正確な実態がどうであれ、それはまさにトランプ氏が週末に示唆した通りであり、ウクライナがまさに必要としているものだ。ロシアの弾道ミサイルによる夜間の集中攻撃を阻止できるのは米国製のパトリオットミサイルだけであり、その供給を承認できるのはホワイトハウスだけだ。ウクライナはパトリオットミサイルをはじめとして、名前は挙がっていないかもしれないが今回の合意に含まれる可能性のある米国製兵器が不足していた。これは短期的ではあるが、極めて重要な救済策となる。

しかし、ウクライナにとっての痛手は発表されていないところにある。ロシア産エネルギーの顧客に対する即時の「二次制裁」であり、これはロシア政府の財政を大幅に圧迫する可能性がある。米上院で検討されている法案で提案されている範囲は、ロシア産炭化水素を購入する企業とのあらゆる貿易に500%の制裁を科す可能性があり、壊滅的な打撃となっただろう。

これらの制裁は、原油価格が低迷する一方で貿易摩擦が激化する時期に、米国の主要な競争相手である中国と主要な同盟国であるインドに打撃を与えることになる。エネルギー市場への打撃は明白であり、米国も原油価格上昇の影響を受ける可能性が高かっただろう。だが、制裁発動には相当の遅延が伴い、ロシア自身に対する制裁という、やや効力の少ない脅しもある(制裁の対象となる貿易はほとんど存在していない)。

50日あれば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、トランプ氏が考えを変えるのか9月まで待つことができる。あるいは、プーチン氏がうわさする夏の攻勢によって戦場の現実が変わり、プーチン氏が紛争の凍結を喜んで求めるようになるまで。確かに、インドと中国がロシアのエネルギー供給を切り離そうとする(両国の依存度と、それがいかに複雑であるかを考えると可能性は低いが)、あるいは、戦争を終わらせるようロシア政府に圧力をかける機会が生まれることになる。だが、これも中国政府にとっては難しい要求だ。中国の当局者は最近、米国が中国との対立に全ての神経を集中するリスクなしで、ロシアが紛争で負けるのを見ることはできないと示唆していた。

ポーランドに配備された米軍のミサイル迎撃システム「パトリオット」=2022年3月/Stringer/Reuters
ポーランドに配備された米軍のミサイル迎撃システム「パトリオット」=2022年3月/Stringer/Reuters

50日という期限は、トランプ氏がウクライナ政策における最も捉えどころのない虚構、すなわちクレムリン(ロシア大統領府)が実際には和平を望んでいるものの、まだ十分な説得には至っていないという虚構を捨て去っていないことを示している。トランプ氏は再び、ロシアを合意に導くための期限を提示した。我々は以前にもこのような状況に陥ったことがあるが、プーチン氏は刻々と時間が過ぎるのをただ傍観してきた。

トランプ氏の口調の変化をとらえることは重要だ。ホワイトハウスの政策を示す具体的な内容よりも、ムード音楽のほうがより永続的な指標となるかもしれない。トランプ氏がプーチン氏を暗殺者と呼ぶことは避けたこと、ロシアの無人機やミサイルによるウクライナ首都キーウへの攻撃がどれほど激しくなっているかを大統領夫人が頻繁にトランプ氏に思い出させるホワイトハウスのイメージを描いたのは印象的な場面だった。

米大統領は、プーチン政権のあらゆる季節の中を激しく揺れ動いてきた。和平が可能だという希望の春。湾岸諸国とトルコ・イスタンブールでの外交の短い夏。関係悪化の秋。そして、今ではついに、ジョー・バイデン前大統領の初期の立場だった不満の冬がやって来た。だが、ロシア外交が(その総合的かつ見せかけの性質と冷笑的かつ最大限の要求が組み合わさって)力を誇示して来た6カ月間が経過したが、トランプ氏はまだ、クレムリンに対し、自らが選択した存亡をかけた戦争を自発的に停止するよう説得することをあきらめていない。

トランプ氏は自身が利用可能なより厳しい選択肢のいくつかを避けてきた。ウクライナへの新たな米国からの資金援助はなく、新たな能力の供与についても公には何も語られていない。

トランプ氏のウクライナ政策は雰囲気こそ変わったものの、過去の重要な要素は依然として残っている。米国以外の誰かが費用を負担することを望む姿勢、不作為に対する即時の結果ではなく行動を起こす期限、そして、クレムリンが和平を望んでいるという不可解な信念だ。

ウクライナ政府はすぐに安堵(あんど)するだろうが、じきに、おなじみの失望感を味わうのかもしれない。

本稿はCNNのニック・ペイトン・ウォルシュ記者による分析記事です。

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