米テスラの苦境、思った以上に深刻か

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テスラの販売店に並ぶ「サイバートラック」/Justin Sullivan/Getty Images

テスラの販売店に並ぶ「サイバートラック」/Justin Sullivan/Getty Images

(CNN) 米電気自動車(EV)大手テスラの苦境は、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)とドナルド・トランプ米大統領との間の最近のいざこざをはるかに超えている。トランプ氏は週末、SNSでの言い合いで、元「親友」が「完全に『暴走』」したと非難した。

だが、マスク氏とトランプ氏の争いが注目を集める一方で、テスラの売り上げと利益の見通しは著しく悪化している。マスク氏の個人的な政治上の立場とは無関係な理由で、テスラが再び赤字に陥る可能性もある。

マスク氏は2024年の米大統領選の選挙戦でトランプ氏にとって最大の献金者であり、第2次トランプ政権発足時には「マール・ア・ラーゴ」とホワイトハウスの主役だった。政府効率化省(DOGE)を率いて連邦政府職員の削減も行った。しかし、その後、マスク氏はトランプ氏が先ごろ署名した大型減税法案に不満を抱き、新たな政党を設立すると表明。これ以降、両者のSNSでの辛辣(しんらつ)な批判は激しさを増すばかりだ。

テスラの株価は7日、6.8%下落して取引を終えた。マスク氏がテスラに再び注力すると約束したにもかかわらず、投資家がマスク氏の最近の政治的な動きの影響について懸念したためだ。

テスラに対して楽観的な見方で知られるウェドブッシュ証券のアナリスト、ダン・アイブス氏は「簡単に言えば、マスク氏が政治に深く関与し、今や米政界の体制側と対決しようとしていることは、テスラにとって極めて重要なこの時期に、テスラの投資家・株主がマスク氏に望むこととは全くの逆方向だ」と述べた。

アイブス氏は投資判断で、テスラ株の買い推奨と目標株価500ドル(約7万3000円)を維持した。だが、ウィリアム・ブレアのアナリストはテスラの推奨を「市場平均並み」または中立に引き下げ、利益予想も引き下げた。

なぜなら、政治的な悪臭がなくても、テスラの財務見通しは突如として著しく悪化しつつあるからだ。

重要な利益の源が失われる

ウィリアム・ブレアのメモによれば、トランプ氏の法案はEV購入者への7500ドルの税額控除を廃止しただけでなく、連邦の排ガス規制を達成できない自動車メーカーへの罰則も撤廃した。排ガス規制に違反した罰金はこれまで、ガソリン車やトラックを主に製造している自動車メーカーに、EVメーカーから「規制クレジット」を購入することを強制してきた。

ウィリアム・ブレアのアナリストによれば、これらの罰金の撤廃により、「テスラのクレジットに対する市場の需要」がなくなるという。連邦および州のクレジットの販売は19年以降、テスラの純利益を106億ドル押し上げ、多くの場合、利益を計上することを可能にした。

こうした規制クレジットからの収入がなければ、テスラは21年まで年間の純利益が黒字になることはなかっただろうし、世界中での販売が急減したことで純利益が前年同期比で71%減少した25年1~3月期は再び赤字に陥っていただろう。

充電ステーションに止められたテスラの車両/Justin Sullivan/Getty Images
充電ステーションに止められたテスラの車両/Justin Sullivan/Getty Images

マスク氏は最近の悪いニュースをほとんど無視して、テスラの将来はロボットと人工知能(AI)、自動運転タクシーにかかっていると述べている。

テスラのタクシーサービスは現時点では非常に限られており、テキサス州オースティンで、主にテスラのファンを中心とした限られた顧客に向けてのみ始まった。テスラの従業員が助手席に同乗して車両の性能を監視する。これによって、テスラは、オースティンを含め4都市ですでにタクシーサービスを提供しているウェイモに遅れを取ることになる。ウェイモはグーグルの親会社アルファベット傘下の自動運転企業。

マスク氏はロボタクシーを他の都市にもすぐに拡大すると約束しているものの、詳細は明らかにしていない。オースティンでのサービスが一般向けに拡大される時期や、助手席に座っている人間による監視がいつ不要になるのかについても言及していない。

一方、ウェイモは、来年ウーバーと提携して、マイアミと首都ワシントンにサービスを拡大する明確な計画を立てている。

需要の落ち込みは続く

それから、テスラの販売の問題もある。というよりむしろ、販売の少なさだ。

EV全体の需要は引き続き増加しているのにもかかわらず、25年1~3月期と同4~6月期の世界販売台数は前年同期比でそれぞれ過去最高の13%減を記録した。これはテスラの市場シェア低下のさらなる兆候となっている。

EV市場のシェア喪失の要因は、欧米の自動車メーカーが独自のEVを展開していること、市場に本格参戦してきた中国メーカーとの競争が激化していることの両方にある。中国のBYDは、テスラが中国市場で依然としてEV大手であり、BYDのEVが米国で販売されていないにもかかわらず、今年初めて、EVの世界販売台数でテスラを追い抜くとみられている。

積み込みを待つBYDの電気自動車=4月、中国・江蘇省/STR/AFP/via Getty Images
積み込みを待つBYDの電気自動車=4月、中国・江蘇省/STR/AFP/via Getty Images

EV購入者向けの7500ドルの税額控除が10月1日に終了するため、需要はさらに鈍化するとみられる。19年にテスラ車向けの以前の税額控除が段階的に廃止された際、テスラはなくなった控除額の約半分、価格を引き下げなければならなかった。

テスラはマスク氏自身の失策にも直面している。マスク氏の政治活動に対する反発は、テスラの販売に大きな影響を与えている。マスク氏がトランプ氏と距離を置くようになっても、この状況が続く可能性が高い。

今年初め、米国やカナダ、欧州のテスラの販売店前では数百件の抗議活動が行われた。マスク氏自らが招いたブランド毀損(きそん)の懸念からテスラ株は値下がりした。

こうした事態をきっかけに、当時はまだ盟友だったトランプ氏がテスラ車を購入すると発表した。3月にはホワイトハウスでイベントを開催し、テスラ車の購入を呼び掛けた。マスク氏やテスラの投資家はかつて、分断が激しい米国では、トランプ氏の批判者への販売減をトランプ氏の支持者への販売で少なくとも一部は補える可能性があると期待していたかもしれない。

だが、マスク氏は現在、政治的立場の両方から反発を受ける可能性に直面しているようだ。

ウェドブッシュ証券のアイブス氏は「マスク氏は全員を疎外することに成功した。多くの人が不可能だと思っていたが、マスク氏は実際にそれを成し遂げた。そして、問題はこのメロドラマがいつまでも続いていることだ」と指摘した。

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