元収容施設の汚水槽に乳幼児数百人の遺骨か、アイルランドで発掘開始

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2019年に撮影された母子収容施設の跡地にある記念碑。現在は一般公開されていない/Kara Fox/CNN

2019年に撮影された母子収容施設の跡地にある記念碑。現在は一般公開されていない/Kara Fox/CNN

アイルランド西部チュアム(CNN) アイルランド西部ゴールウェイ県の町チュアムで20世紀に運営されていた母子収容施設の跡地で、乳幼児数百人の遺骨が埋まっているとみられる汚水槽の発掘調査が始まった。

チュアムの「セント・メアリーズ・ホーム」は、同国でかつて未婚の妊婦らが送り込まれていた十数カ所の収容施設のひとつ。女性たちはここでひそかに出産した後、わが子と引き離された。一部の子どもたちは国内外に引き取られたが、数百人が亡くなり、遺体はそのまま捨てられた。

アネット・マッケイさんが母マギー・オコナーさん(70)からホームの話を聞いたのは、初孫の男の子が誕生した時だった。大喜びすると思っていたマギーさんが泣きじゃくりながら、「赤ちゃんが、赤ちゃんが」と叫び出したのだ。

男の子は元気だと伝えたが、マッケイさんは「その赤ちゃんではなくて、私の赤ちゃんのこと」と答え、何十年も心の奥にしまっていた秘密を明かした。オコナーさんの第1子、メアリーちゃんは1943年6月、生後6カ月でこの世を去っていた。

オコナーさんがホームのことを口にしたのは、この時が最初で最後だった。

22年から98年まで、カトリック教会とアイルランド政府は未婚の母に罰を科すという極めて差別的な制度を設けていた。国はその後、立場を転換したが、未婚の母を恥として隠したり、社会からつまはじきにしたりした風潮は、今も傷跡を残している。

マギー・オコナーさんは施設を生きて出たが、第1子のメアリーちゃんは施設で亡くなった/Kara Fox/CNN
マギー・オコナーさんは施設を生きて出たが、第1子のメアリーちゃんは施設で亡くなった/Kara Fox/CNN

オコナーさんは孤児や非行少年らが収容される勤労学校で育った。17歳の時、学校の用務員に強姦(ごうかん)されて妊娠し、ホームへ送られた。

ホームで出産した多くの女性は、カトリック教会の運営する「マグダレン洗濯所」へ送り込まれ、無報酬の労働者として拘束された。子どもは養子に出されたり、勤労学校や障害者の「養護」施設に移されたり、不法な人身売買で国外へ引き渡されたりした。ホームでの真相究明に取り組む支援団体「クラン・プロジェクト」によると、米国には40年代から70年代に2000人以上の子どもが送り出された。

一方、チュアムなどの施設内で死亡した乳幼児は少なくとも計9000人に上る。

オコナーさんは出産後、別の勤労学校に収容され、メアリーちゃんの死を6カ月後に知らされた。

マッケイさんによると、オコナーさんはその後、英国に渡り、6人の子どもを育てて、外見上は「華やか」な生活を送った。それはオコナーさんが生き抜くためにまとった「見せかけ」の「よろい」だったことが、後になって分かったという。

マッケイさんは会うことのなかった姉の死を悼み、アイルランドの田園地方に置かれた小さな墓を想像することで慰めを得ていた。

だが2014年に、その想像は打ち砕かれた。英国の新聞が「アイルランドにある未婚の母の収容施設跡で、汚水槽に乳児800人の遺骨が埋まっていた」と報じたのだ。

地元チュアムの歴史研究家、キャサリン・コーレスさんの調査結果だった。ここで796人の乳児が死亡し、遺体は埋葬記録のないまま、使用廃止後の汚水槽に入れられたという。

当局は当初、コーレスさんの報告を全面的に否定した。1925~61年に同ホームを運営していたボン・セクール修道女会はコンサルティング会社を通し、子どもたちがここに埋められた証拠はないと主張した。

だがコーレスさんや生存者、家族らは声を上げ続け、それが成果につながった。

地元チュアムの歴史研究家、キャサリン・コーレスさん。発掘調査の開始で「安堵(あんど)」を感じたと語った/Kara Fox/CNN
地元チュアムの歴史研究家、キャサリン・コーレスさん。発掘調査の開始で「安堵(あんど)」を感じたと語った/Kara Fox/CNN

アイルランド政府は2015年、母子ホーム14カ所とほかの収容施設4カ所の調査に乗り出し、チュアムの跡地で「相当数」の遺骨を発見。各施設での「恐るべき乳児死亡率の高さ」にもかかわらず、当局からの注意喚起はなかったと指摘した。これを受けて21年に政府から正式な謝罪と補償制度の発表があり、ボン・セクール修道女会も謝罪した。

家族や生存者の多くは政府の対応が不十分だと感じているが、チュアムでは14日から本格的な調査が始まった。今後2年間、法医学の専門家らが遺骨の発掘と分析に取り組む。

コーレスさんが調査結果を発表した論文に掲載された汚水処理タンクの写真/Kara Fox/CNN
コーレスさんが調査結果を発表した論文に掲載された汚水処理タンクの写真/Kara Fox/CNN

調査に協力する法医学考古学の専門家、ニアム・マッカラーさんによれば、試掘調査の段階で、汚水槽跡のスペース20区画から生後35週~3歳の乳幼児の遺骨が見つかったという。

マッカラーさんはCNNとのインタビューで、子どもが不法に死亡した証拠が見つかった場合は検視官に通知し、そこから警察にも通報されると説明した。

一方で、遺骨はばらばらな状態で長い年月が経過し、親族と思われる人々の完全なDNAサンプルもないため、身元や死因の確認は困難な作業になるとの見通しも示した。

発掘現場では8日、家族や生存者らが専門家チームの説明会に集まった。

出席者のひとり、テレサ・オサリバンさんは1957年にホームで生まれた。当時10代だった母親は、修道女から子どもは米国へ送られたと聞かされ、長年捜し続けた。再会を果たしたのは、オサリバンさんが30代になってからだった。

オサリバンさんはCNNとのインタビューで、「死んでいたのは私かもしれない。助かった者と汚水槽の中の子たちとの差は紙一重だった」「その隣に私たちもいた。私たちは同じ部屋、同じ建物の中にいた」と話し、「槽から出してあげなければ」と力を込めた。

メールマガジン登録
見過ごしていた世界の動き一目でわかる

世界20億を超える人々にニュースを提供する米CNN。「CNN.co.jpメールマガジン」は、世界各地のCNN記者から届く記事を、日本語で毎日皆様にお届けします*。世界の最新情勢やトレンドを把握しておきたい人に有益なツールです。

*平日のみ、年末年始など一部期間除く。

「アイルランド」のニュース

Video

Photo

注目ニュース

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]