10代の有名ティックトッカー射殺、殺害を喜ぶコメントあふれ女性たちの怒り増幅 パキスタン

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女性に対する暴力への抗議活動に参加する活動家。殺害されたティックトッカーのサナ・ユサフさんのポスターを手にしている=5日/Farooq Naeem/AFP/Getty Images

女性に対する暴力への抗議活動に参加する活動家。殺害されたティックトッカーのサナ・ユサフさんのポスターを手にしている=5日/Farooq Naeem/AFP/Getty Images

イスラマバード(CNN) サナ・ユサフさんは自身の17歳の誕生日を祝う動画をTikTok(ティックトック)に投稿した。ユサフさんには100万人を超えるフォロワーがいる。

それから24時間も経たずして、ユサフさんは死亡した。胸を銃撃されたユサフさんの遺体が写った画像がパキスタンのSNSで拡散され、現実世界でもオンラインでも安全な場所はもはやないと不安を抱く女性たちの怒りを増幅させている。

警察は、ユサフさんを殺害した疑いで無職の男、ウマル・ハヤット容疑者(22)を拘束。警察によれば、ハヤット容疑者は「ユサフさんと何度も交際を試みた」が、ユサフさんが拒否したため殺害した。

ユサフさんの父親はCNNに対し、家族の喪失感は言葉で言い表せないと語り、娘は嫌がらせを受けていることを言わなかったと明かした。ユサフさんは勇敢で何も恐れていなかったという。

葬儀の準備を進める中、ユサフさんのTikTokやインスタグラムの投稿に不快なコメントがつき始めた。「こういうことが起きてうれしい」「今日は幸せ。音楽をかけて楽しく踊る」といった殺害を喜ぶコメントだ。

全身を覆うパキスタンの伝統衣装をまとったユサフさんの写真の下には「注目を集めたり、自分のことを露呈したりするよう若い女性に促すことは、深刻な悪影響をもたらすことがある」というコメントが書き込まれていた。

オンラインの安全性を推進する女性主導の非営利団体DRFは、このような言説について「女性のオンライン上での存在や、認識されている道徳観を、暴力の正当化と危険な形で結びつけている」と指摘する。

DRFはまた、「こうした形のデジタル自警行為は、被害者を責める文化のまん延を助長し、虐待が常態化し、加害者の責任が転嫁される」と糾弾している。

有害なオンラインコメントを受け、パキスタン全土では女性の間に怒りがくすぶる。ユサフさんのために正義を求める女性たちの声は、同国における男性性の危機を浮き彫りにしている。

女性に対する暴力のまん延をめぐる激しい議論は、パキスタンにとどまらない。

メキシコのインフルエンサーがライブ配信中に射殺されるなど中南米で最近発生した複数の殺人事件は激しい怒りを招くとともに、同地域全体でのフェミサイド(女性を標的とした殺人)発生率の高さを浮き彫りにした。

オーストラリアで最近行われた大規模調査では、男性の3人に1人が親密なパートナーに暴力を振るったことがあると回答している。

オンライン上に安全な場所はほとんどない

女性の権利保護を掲げる著名な活動家らにとって、ユサフさんの死は、家父長制国家のオンライン上で繰り広げられた女性に対する際限のない虐待の結果だった。

ユサフさんが定期的に投稿していたコンテンツは10代の若者にとって見慣れたものだった/sanayousaf22/Instagram
ユサフさんが定期的に投稿していたコンテンツは10代の若者にとって見慣れたものだった/sanayousaf22/Instagram

著名なジャーナリストで、オンラインニュースメディア「ヌクタ」編集者でもあるパキスタン人のアンバー・ラヒム・シャムシ氏は2020年、女性の権利に関する見解などさまざまな問題をめぐり、オンライン上で執拗(しつよう)な嫌がらせを受けた。

シャムシ氏はCNNに「オンラインでストーカー行為を受けた。ストーカーが私のオフィスに顔写真や台紙に貼り付けた写真を送りつけてきて恐怖を感じた。私はあらゆる階層の何百万人もの女性のほんの一例に過ぎない。ほとんどの女性は自分を守るための特権も社会的なセーフティーネットも持っていない」と語った。

シャムシ氏は、男性らしさが危機にひんしていることに同意する。特にそれはデジタル空間に表れているという。そしてこの問題について「女性のためだけでなく、男性のためにも」議論する必要があると指摘する。

「SNSは女性、特に若い女性の声を増幅させてきた。彼女たちの教育レベルは上がり、政治意識が高まり、自分の選択を恐れなくなっている。こうした露出や自信は、自分の権威や支配力を当然のものと信じて育ってきた一部の男性に不安を抱かせる」(シャムシ氏)

同氏はさらに「これはアイデンティティーの危機だ」「一部の男性は、ジェンダー力学におけるこうした変化に不安と攻撃性を持って反応している。まるで解決策は女性の居場所を狭めることであるかのように。なぜこれほど多くの少年が平等というものに脅威を感じるよう育てられているのかを問うのではなく」と続ける。

DRFの報告書によると、17年以降、「テクノロジーを媒介としたジェンダーに基づく暴力とオンライン上の脅迫の事例を2万件以上記録しており、その数は増加の一途をたどっている」。

インターネットを活用して世界をより良い場所にすることを目指す社会活動家たちの世界的なネットワークAPCのナタリア・タリク氏は、CNNに対し、パキスタンではオンラインでのジェンダーに基づく暴力に関して「完全に不処罰の文化」が存在していると語った。同国の現行の規制や政策は「全く不十分だ」という。

タリク氏によると、パキスタンでは「オンラインで起こる暴力は『現実』ではないため、害が少ない」と認識されている。しかし、「仮想に過ぎない」と見なされるオンライン上の脅威が実際の暴力に転じることはよくあると同氏は指摘する。

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