ANALYSIS

【分析】印パ停戦の功績主張する米国、「トランプ停戦」は長期平和につながらない可能性も

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停戦発表後、喜びに沸く人々=10日、ハイデラバード/ Akram Shahid/AFP via Getty Images

停戦発表後、喜びに沸く人々=10日、ハイデラバード/ Akram Shahid/AFP via Getty Images

ニューデリー(CNN) インドとパキスタンの紛争は劇的に悪化し、核武装する隣国の両国は報復攻撃の応酬という危険な連鎖に落ち込んでいた。

そこへ突如、米国のトランプ大統領が10日、戦闘終結の仲介に成功したと明らかにした。

トランプ氏は自身のSNSトゥルース・ソーシャルで、インドとパキスタンが「完全かつ即時」の停戦に合意したと電撃的に発表。わずか数日前には、バンス副大統領が印パ紛争は「基本的に我々の問題ではない」と主張していただけに、なおさら意外な発表となった。

今回の紛争にはすでに、感情が大きく絡んでいた。発端となったのは、カシミール地方のインド実効支配地域で先月発生した衝撃的なテロ攻撃。観光客を中心とする26人が、凶行に及んだ武装集団によって射殺された。

事態をさらに悪化させたのが、これに続くインドの空爆だ。パキスタンはインド空軍機5機を撃墜したと主張しており、事実ならインド軍にとって痛手になるとみられる。

パキスタン軍の軍事作戦後に損傷した車両=10日、カシミール地方のインド実効支配地域/Reuters
パキスタン軍の軍事作戦後に損傷した車両=10日、カシミール地方のインド実効支配地域/Reuters
インドの攻撃を受けた建物の内部を撮影するメディア関係者=7日、パキスタン・バハーワルプル/Reuters
インドの攻撃を受けた建物の内部を撮影するメディア関係者=7日、パキスタン・バハーワルプル/Reuters

インド当局は損失を一切否定しているものの、CNNが入手した証拠では、一部の航空機が撃墜された可能性が示唆されている。

ただ、インド、パキスタン双方の領内奥深くへの攻撃がエスカレートしたことで、米政府は本格対応に乗り出したとみられる。米国が危機的な状況から一歩引くよう両国に圧力をかけたのは明らかだ。

ルビオ国務長官は声明で、バンス副大統領とともに両国の政治・軍事指導者と協議し、事態が一層深刻化する前に合意を取り付けたと説明した。

停戦発表のわずか数時間前、インドはパキスタン軍の基地を攻撃し、猛烈な報復を招いていた。パキスタンはインド国内の数十カ所へ向けてロケットや火砲、ドローン(無人機)による攻撃を実施。インドでは報復を求める民族主義的な声が高まった。

停戦交渉の経緯に関する説明は食い違っている。パキスタンは米国の関与を称賛する一方、インドはこれを重視しない姿勢を示す。インドは停戦を勝利と位置づけることに躍起で、隣国同士が「直接」停戦に取り組んだ結果だとしている。

米国の役割が正確にどのようなものだったにせよ、米政権は有り体に言って、すでに開いていた扉を押したに過ぎない。衝突の継続はインドの利益にも、パキスタンの利益にもならないからだ。

今回の停戦は、トランプ氏がウクライナなどの他地域で仲介を望んでいたスピード合意の典型例でもある。ウクライナでは、ロシアとの紛争がもう3年半近く続いている。

これに対し、インドとパキスタンの激しい戦闘はわずか3日半で収束したように見える。

だが、こうした「トランプ停戦」が長期的な平和の到来を告げるとは限らない。

停戦発効からわずか数時間の時点でさえ、カシミール地方のインド実効支配地域では爆発による停戦違反の報告が浮上し、越境攻撃が続いている疑いもある。こうした衝突は停戦が定着すれば沈静化するかもしれない。

だが、より大きな問題は残る。米国が仲介した停戦合意は、カシミール地方の地位を巡る数十年来の対立の火種となってきた根本的な不満に対処するものでは全くない。イスラム教徒が多数派を占めるカシミール地方はインド、パキスタン双方が領有権を主張しており、分離独立運動も抱える。

カシミール地方を巡る今回の衝突は終わりを迎えつつあるかもしれないが、激しさを増して再燃する可能性が高い。

本稿はCNNのマシュー・チャンス記者による分析記事です。

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