ウクライナの大規模ドローン攻撃に報復誓うプーチン氏、現状残された手段は
(CNN) 3年以上にわたり、ロシアは自軍の爆撃機を使ってウクライナに激しい空爆を行ってきた。今月1日、ウクライナ軍はこれらの爆撃機を狙うことで報復した。
1年半がかりで準備したドローン(無人機)の大規模攻撃「クモの巣」作戦で、ウクライナはロシア国内に配備されていた爆撃機少なくとも12機を破壊した。
作戦はウクライナの士気を大いに高めたが、国民の多くはロシアによる報復を覚悟した。実際、プーチン氏は4日、トランプ米大統領にロシアが攻撃に対して「反応せざるを得なくなる」との見方を示した。
ロシアは5日夜に初期段階の報復を開始。大規模なドローンとミサイルによる攻撃を首都キーウをはじめとするウクライナ各地で繰り広げた。ロシア国防省はこれらの攻撃をウクライナの「テロ活動」への「対応」と説明した。
ウクライナの並外れた攻撃に対するロシア側のここまでの反応を受け、ロシアのプーチン大統領の戦争激化に向けた能力について複数の疑問が浮上している。同氏の支持者の多くは報復を強く求めているが、それが具体的にどのようなものなのかについても疑問の声が上がる。ウクライナ国民は現状、報復による打撃を既に被ったのか、それとも最悪の事態はまだこれから訪れるのか、判然としない状況に置かれている。
ロシア側の報復を決断する上で、プーチン氏はいくつかの制約に直面していると専門家は指摘する。一つは政治的な制約だ。「クモの巣」作戦に対する大規模かつ革新的な攻撃による反応は、ウクライナがロシアに深刻な打撃を加えたと認めることに等しい。クレムリン(ロシア大統領府)はこれまで、そうした印象を与えるのを極力避けてきた。米戦争研究所(ISW)のロシア専門家、カテリーナ・ステパネンコ氏はそう分析した。

ロシア軍のドローン攻撃で損傷したウクライナ首都キーウの住宅/Thomas Peter/Reuters
4日のプーチン氏とトランプ氏の電話会談に関するロシア国営メディアの報道では、ウクライナの攻撃に対する「反応」を巡るプーチン氏の約束についてはほとんど報じられなかった。報道はトルコ・イスタンブールで開かれた直近の和平協議の結果に焦点を当てていた。
CNNの取材に答えたステパネンコ氏は、これを意図的な戦略の一環だとみている。プーチン氏は今回の失敗も隠したいと考えており、目立った反応を示せばクレムリンのそうした戦略目的との間に矛盾が生じてしまうと、ステパネンコ氏は説明した。
しっぺ返し?
プーチン氏には物質的な制約もある。ロシアがほぼ連日の爆撃に使用するドローンは従来数十機だったが、ここへ来てその数は400機を超えるまでに増えている。「クモの巣」作戦前日の先月31日、ロシアがウクライナに向けて発射したドローンは472機だった。
北大西洋条約機構(NATO)の軍備管理責任者を務め、現在は米シンクタンク、スティムソン・センターに在籍するウィリアム・アルバーク氏は「ロシアによる反応は、現状定期的に使用する戦力の規模から制約を受ける」と指摘。ロシアの報復が具体的にどの程度のものになるのか、住宅やショッピングモールを破壊する以上のことが起きるのかは現時点で不明だと示唆した。

キーウへのロシア軍のドローン・ミサイル攻撃に対応する消防車両/Valentyn Ogirenko/Reuters
戦争を支持する立場のロシアのブロガーらは、SNSのテレグラムにさまざまな考えを寄せている。一部の有力チャンネルは、ウクライナ側が核搭載可能な爆撃機を攻撃したのだから、ロシアによるウクライナへの核攻撃が妥当と主張する。別のチャンネルは新型弾道ミサイル「オレシュニク」を使った攻撃を呼び掛ける。プーチン氏が昨年発表したこのミサイルは、ウクライナに対してまだ1度しか使用されていない。
代表的なロシア専門家のマーク・ガレオッティ氏はCNNの取材に答え、オレシュニクについて、標的がかなり限定されており、そこまでの精度はなく、地中を貫通する威力も持たないと分析する。ウクライナは主要な製造拠点や意思決定拠点の中枢を地下深くへ移動させているため、当該のミサイルで戦果を得るのは難しいという。
従って、ある意味でプーチン氏には、明確な報復を加える選択肢が既に残っていないことになるというのが、ガレオッティ氏の見方だ。
ロシアの「報復」が進行中であることを示唆する兆候として、同国国防省はウクライナ西部リウネ州の航空基地を8日夜に攻撃したと発表。ロシアの航空基地に対する「テロ攻撃」への「報復爆撃の一つ」だとし、今後もこうした攻撃が続く可能性を示した。ウクライナ空軍のイーナット報道官は当該の攻撃を「ロシアが行った中で、これまでで最大のものの一つ」と表明。防空は「非常によく機能した」としつつも、「全ての攻撃を撃墜することはできなかった」と認めた。
じりじり進む消耗戦
ロシア領内への衝撃的な攻撃により、ウクライナはメディアの注目や見栄えの点で先行しているかもしれないが、戦場ではロシアが依然として主導権を握っている。
ロシア軍はウクライナ北部スーミ州で新たな前線を開き、主要都市まであと約20キロの地点に迫っている。8日には、過去数カ月にわたり到達を試みていたウクライナ中部ドニプロペトロウシク州に初めて進軍したとも主張した。

ウクライナ北部スーミへの攻撃で破壊された車両/Reuters
ガレオッティ氏によれば、問題はプーチン氏の側に銃後で生じるあらゆる被害を受け入れるつもりがあるのかどうかだという。そうした被害は時間を要する消耗戦を通じた前進と引き換えにもたらされる。
スティムソン・センターのアルバーク氏は、ウクライナ軍がさらなる「クモの巣」を張るのか、それとも当該のドローン攻撃は一度限りのものだったのかどうかに多くのことがかかってくるとみている。
ドローン攻撃の2日後、ウクライナ保安局(SBU)はロシア本土とクリミア半島を結ぶ橋の爆破を試みる別の作戦について明らかにした。橋が受けた損傷はそれほど大きくはなかったが、攻撃自体がSBUの決意を補強するものとなった。SBUは戦争継続には代償が伴うことをロシア政府に印象づけようと試みている。
このような「屈辱的な」作戦が今後も続けば、プーチン氏は一段と大きな圧力に直面し、対応に踏み切らざるを得なくなるとアルバーク氏は指摘する。その場合、報復の程度だけでなく、種類も変えていく必要が出てくるという。
「プーチン氏はそれほどまでに権威的な政治指導者だということだ」「(クレムリンは)やり返す別の方法を模索し、ロシア国民に対してプーチン氏が偉大な戦時大統領だと示す必要がある。そうした大統領は恐るべき損害を敵にもたらす側なのであって、ウクライナによるこうした見事な攻撃の被害者になってはならない」(アルバーク氏)