(CNN) ロシアとウクライナの間には依然として大きな隔たりがある。交戦中の両国はトルコ・イスタンブールで直接の和平協議に望んだが、状況を大きく打開するには至らなかった。
捕虜交換の拡大では合意したものの、多大な犠牲をもたらす陰惨なウクライナ戦争をどうやって終結させるかについて、ロシアとウクライナの立場はなお深く分断されている。
とりわけロシア側は妥協のない姿勢を示した。ウクライナの交渉団に突きつけた覚書は過去の極端な内容を繰り返すもので、最終的にはウクライナの降伏へとつながる強硬な条件を盛り込んでいた。
クレムリン(ロシア大統領府)が妥協する見込みは元から低いが、それでもロシア側は今回、要求を軟化する用意があるとの兆しをも一切排除したかに見える。
ロシアの覚書は、部分的に占領した4州からの撤退を改めてウクライナ側に求めている。ウクライナ南東部に位置するこれらの州はロシアにより併合されたが、完全な掌握までには至っていない。ウクライナ側は領土の譲歩を繰り返し拒絶している。
覚書は、ウクライナが自軍に対する厳格な制限を受け入れなくてはならないとしている。軍事同盟には決して加わらず、外国の軍隊の受け入れや核兵器の保有も認めない。これはウクライナの非軍事化を最も強硬な形式で求める内容であり、ウクライナや多くの欧州諸国にとっては容認できるものではない。欧州諸国の多くはウクライナを、ロシアの一段の拡大に対する防壁と考えている。
それ以外にもロシアは、外交及び経済関係の完全な回復などを要求している。とりわけどちらの国も賠償を求めないこと、西側諸国がロシアに科した経済制裁を全て解除することに言及した。
それはクレムリンによるいつもの願望リストであり、ロシア政府が引き続き将来のウクライナを属国として想定することを声高に叫んでいる。実現すればウクライナはロシアの奴隷状態に置かれ、有力な軍隊を持つことも真の意味で独立することもできなくなる。
こうした妥協のない姿勢を打ち出しているものの、現状ではクレムリンに再考を促しかねない重要な要素が二つ存在する。
第一に、ウクライナは技術能力の開発により、ロシア領土の奥深くを攻撃することが可能になった。国土と資源の面でロシアと大きな差があるにもかかわらずだ。ロシア軍の戦略爆撃機を狙った最近の驚くべきドローン(無人機)攻撃は、ウクライナから数千キロ離れた基地に対するもので、同国の技術力をまざまざと見せつけた。結局のところウクライナには複数の切り札があり、現在それらを効果的に使用しているように見える。
第二に、そしてロシアにとってはより危険な要素ともなり得るが、クレムリンの今回の強硬な要求はトランプ米大統領が不満を募らせる中で打ち出されている。ウクライナでの和平に向けて独自の取り組みを展開するトランプ氏だが、そちらは現在難航している。
トランプ氏は既にロシアのプーチン大統領に対する不快感を表明。先週ロシアがウクライナへの大規模空爆を行った際には、プーチン氏が「完全に狂った」と発言していた。
しかしここへ来て、トランプ氏自身にも圧力が掛かっている。ウクライナ戦争の早期終結は自らの大統領2期目における外交政策の土台だったが、その実現は明らかに危うい状況だ。
トランプ氏が選択すれば、強力なてこ入れの余地はある。具体的には米国による軍事支援の増強や、ロシアへの厳しい追加制裁などだ。連邦議会上院ではこれらの措置を支持する声が圧倒的だ。ロシアの「無力化」に向けた新たな措置を盛り込む超党派の法案の主要な支持者の一人、リチャード・ブルメンタール上院議員は、ロシアがインスタンブールでの「和平交渉を嘲笑している」と非難。X(旧ツイッター)では慎重に言葉を選びつつ、クレムリンに対して「トランプ氏と米国を愚弄(ぐろう)している」と投稿した。
現時点で、気まぐれな米国の大統領がどのような反応を示すのか、今後何らかの行動を起こすのかは判然としない。
しかしウクライナ戦争の結果、とりわけ終結に向けた和平協議の仲介はホワイトハウスの現政権にとって切っても切り離せない問題となってしまっている。
プーチン氏が一歩も引かない姿勢を再度打ち出し、和平を求める声に一切の妥協を許さない反応を示した事実を受け、今度こそはトランプ氏も動かざるを得ない状況に追い込まれているのかもしれない。
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本稿はCNNのマシュー・チャンス記者による分析記事です。