【分析】ウクライナによる大胆な攻撃、ロシア政府寄りの過激論客は「核のサーベル」鳴らす

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ウクライナによる攻撃後、ロシアの航空基地の上空に煙が立ち上る様子=1日/Igor Kobzev/Telegram/AP

ウクライナによる攻撃後、ロシアの航空基地の上空に煙が立ち上る様子=1日/Igor Kobzev/Telegram/AP

(CNN) ウクライナのドローン(無人機)がロシアの戦略航空機に対して行った意表を突く攻撃に対し、ロシア側はどう対応するのだろうか。

これまでのところクレムリン(ロシア大統領府)は沈黙を守り、ウクライナとの国境から数千キロ離れた飛行場を襲った今回の攻撃について、正式調査の結果を待つと述べるにとどめている。

しかしロシアメディアでは、政府寄りの論客やブロガーが報復を求めて怒りをあらわにする様子が目立つ。核報復を求める声すらある。

著名ブロガー「トゥー・メジャーズ」は登録者数100万人を超えるテレグラムの人気チャンネル上で、「これは単なる口実ではなく、ウクライナに核攻撃を加える正当な理由になる」と述べた。

さらに「誰が嘘(うそ)をつき、誰が過ちを犯したのかなどといったことは、キノコ雲が上がった後に考えればいい」と付け加え、クレムリンが失態の責任を負わせるスケープゴートを探すのは必至だと言及した。

ロシアの著名政治アナリストの中では少なくとも一人、セルゲイ・マルコフ氏が慎重な対応を促し、核兵器の使用は「真の政治的孤立を招く」とSNSで警鐘を鳴らしている。

だが、人気ブロガーのアレクサンドル・コツ氏は、ロシアは「結果を顧みず総力を挙げて攻撃すべきだ」と要求した。

衛星画像には航空機が被害を受けた様子が写っているように見える=2日、イルクーツク州のロシア軍飛行場/Capella Space/Handout/Reuters
衛星画像には航空機が被害を受けた様子が写っているように見える=2日、イルクーツク州のロシア軍飛行場/Capella Space/Handout/Reuters

もちろん、ロシアの強硬派は普段から核によるウクライナの殲滅(せんめつ)を叫び、西側の支援国に対してもあからさまな、だが結局は空疎な終末の脅しを繰り返している。今回のような痛烈な攻撃を浴びた後に同じことを主張しているのは、驚くに当たらない。

とはいえ、あまりに油断して、ロシアによる核の脅しを単なるプロパガンダと切り捨てるのも間違いだろう。

実際のところ今回は、ロシアが破滅的な対応に出るわずかな可能性をより真剣に受け止めるべき懸念材料がある。

第一に、ロシアの複数の論客は、ウクライナが相当数の戦略核爆撃機を破壊したことについて、ロシア政府の定める合法的な核使用の敷居を越えたとみなされる可能性があると言及している。

クレムリンが最近改定した核ドクトリン(発射条件を定めるもの)では、「核戦力による対抗行動を阻害する」「極めて重要な」軍事インフラへの攻撃は例外なく、核報復を招く可能性があると定めている。

ロシア国営テレビの過激な司会者ウラジーミル・ソロビヨフ氏は、ウクライナの作戦は「核攻撃の理由になる」と断言し、首都キーウの大統領府などへの攻撃を要求した。

合法性はともかく、ロシアが核報復に出るハードルは幸い依然高く、そうした攻撃はクレムリン内で非現実的な過剰行動として退けられる可能性が高い。

まず、核報復は中国やインドのようなロシアの主要貿易相手国との関係を悪化させるばかりか、ロシア軍に対する軍事行動を誘発する可能性もある。

大量の死傷者が出るのは避けられず、あらゆる方面から非難を招き、国際社会でロシアが一段と孤立するのは確実とみられる。

ただ、ここで問題がある。クレムリンはいま、抑止力を回復する圧力をひしひしと感じている可能性があるからだ。

ウクライナは、ロシアとクリミアを結ぶ橋を水中爆発物で攻撃したとしている/SBU/Telegram
ウクライナは、ロシアとクリミアを結ぶ橋を水中爆発物で攻撃したとしている/SBU/Telegram
ウクライナ当局が公開した画像にはクリミア大橋の損傷の様子が写っている/Security Service of Ukraine
ウクライナ当局が公開した画像にはクリミア大橋の損傷の様子が写っている/Security Service of Ukraine

ロシア政府にとって屈辱的なのは、ウクライナによる今回の国内奥深くへの無人機攻撃だけではない。その直後、ウクライナはロシアとクリミア半島を結ぶ戦略的なクリミア大橋に対し、再び大胆な攻撃を加えた。道路と鉄道が走る重要なクリミア大橋が攻撃されるのはこれで3度目だ。

昨年、ウクライナ軍がロシア西部クルスク州を制圧したことも大きな打撃となり、ロシアは自国領土の奪還に苦慮している。一方、前線から遠く離れた場所では、ロシアのエネルギー施設や空港が連日とは言わずとも毎週のように無人機攻撃を受けており、混乱が広がる状況が続く。

同時に、ウクライナの支援国は西側供与兵器の使用制限を徐々に解除しており、従来ロシア政府の「レッドライン(越えてはならない一線)」と見なされていたラインを揺さぶっている。

ロシア・クルスク州への越境作戦中に米国製のブラッドレー戦闘車両を使用するウクライナ軍兵士=1月15日、ウクライナ・スーミ州/Scott Peterson/Getty Images
ロシア・クルスク州への越境作戦中に米国製のブラッドレー戦闘車両を使用するウクライナ軍兵士=1月15日、ウクライナ・スーミ州/Scott Peterson/Getty Images

クレムリンが決定的な報復に踏み切りたい意向であることはほぼ疑いない。だが、その方法はどうなるのだろうか。

ロシアの元高官はCNNに対し、政府が取り得る対抗措置として最も可能性が高いのは、通常ミサイルとドローンによる「野蛮」な都市攻撃を増やすことだと指摘した。ウクライナ国民はもう何年もこうした攻撃にさらされている。

「他に打つ手はない。ロシアは大規模攻勢を仕掛ける能力を持っておらず、人員も足りないからだ」。ロシア国外に住むウラジーミル・ミロフ元エネルギー省次官はそう指摘する。

「核兵器使用の可能性などが取り沙汰されているが、私はそれは検討対象になっていないと思う。もっとも、プーチン氏が残虐行為や報復に訴えうることを何度も示してきたのも事実だ」(ミロフ氏)

別の言い方をすれば、可能性としては非常に低いものの、核の選択肢を完全に排除することはできない。このウクライナ戦争ではすでに幾度となく想定外の展開が起きており、2022年のロシアによる全面侵攻自体が予想外だった。

ウクライナとその支援国は今回の軍事作戦の驚くべき成功に沸いているが、屈辱を受け傷ついたロシアの熊を突けば、危険な恐ろしい結果を招きかねない。

本稿はCNNのマシュー・チャンス記者による分析記事です。

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