エプスタイン事件の被害者、CNNの番組で語る
(CNN) 性犯罪で起訴され拘置所で死亡した米富豪、ジェフリー・エプスタイン元被告による虐待の被害に遭った女性たちは、声を聞いてもらいたいと思っている。
彼女たちの声は長く抑え込まれていたが、ここへ来て力強く表に出てきている。勇気を伴ったその発言は、一段の大渦となってトランプ米大統領と側近らの周囲を巻き込みかねない。現状ではトランプ氏らがスキャンダルを終わらせようとするたびに、かえってその実態を一層掘り下げる結果となっている。
女性たちは何年も、数多くのレベルで落胆を味わってきた。本来彼女らの安全を確保するはずの政府によって。彼女らの家族もまた、被害者に他ならない。虐待は世代を超えて傷痕を残すからだ。
そしてまた同じ事が起きている。トランプ政権はエプスタイン元被告の生涯に関する文書の公開を拒んでいる。当初複数の閣僚は、それらの公開を約束していた。CNNの報道によれば、ボンディ司法長官は5月の時点でトランプ氏に対し、同氏の名前が他の著名人の名と共に文書の中で言及されていると説明していたという。
トランプ氏がエプスタイン元被告に関連して捜査対象となった、または起訴されたことは一度もない。1990年代から2000年代初頭にかけて、トランプ氏は元被告と付き合いがあったが、ホワイトハウスによるとトランプ氏は「気味の悪い人間」という理由で自身のフロリダ州の邸宅マール・ア・ラーゴからエプスタイン元被告を出入り禁止にしたという。
しかしこれまでのところホワイトハウスの中で、エプスタイン元被告に利用され、虐待された若い女性たちに言及した人物はほとんどいない。
エプスタイン元被告の被害者として最もよく知られるバージニア・ジュフリーさんの兄スカイ・ロバーツさんは7日、CNNの取材に答え、「彼らは本当はこの問題を消したがっている」と語った。
「現状で透明性がなく、虐待を生き延びた被害者の声が聞こえてこない」「これは人間の問題であり、そこに立ち返らなくてはならないと思う。我々が非人間的な扱いを受けているのは、正義が公然と行われていないからだ」とロバーツさん。ジュフリーさんは今年、自宅のあるオーストラリアで自ら命を絶った。

エプスタイン事件の被害者バージニア・ジュフリーさんの兄スカイ・ロバーツさん(左)と妻のアマンダさん/CNN
政権にとっての政治的優先事項がどこにあるかを示すように、6日夜のホワイトハウスでの会合にエプスタイン事件の被害者の姿はなかった。会合はこの危機的事態に対応する目的で開かれたと、CNNは報じた。会合にはバンス副大統領、ボンディ氏、連邦捜査局(FBI)のパテル長官らが参加。メディアが注目する中、バンス氏の住居から場所を移して開催された。
このホワイトハウスの会合の焦点は、政治的な問題を終わらせることであって被害者の苦痛を少しでも和らげることではなかったようだ。被害者らは、エプスタイン元被告と共犯者のギレーヌ・マクスウェル受刑者によって人生を破壊されてきた。
エプスタイン元被告からの被害を訴えるアニー・ファーマーさんは7日、CNNの取材に答え、ブランチ司法副長官に連絡を取ったものの返事がないことを明らかにした。ブランチ氏は先月、マクスウェル受刑者と2日間の面会を行っている。被害者や家族の中には上記の会合を政治的駆け引きと捉え、改めてトランプ氏から注目をそらすことを念頭に置いていると考える向きもある。
「問題がこのように政治化されているのが腹立たしい。そこにある、もっと大きな構図が見えなくなっていると思うから」(ファーマー氏)
「実際には自らの権力を使って他者を傷つける人々こそが問題なのであって、政治の話ではないと思う」と、エプスタイン元被告の過去の犯罪に言及しながらファーマーさんは語った。「どちらの立場の人も子どもたちの安全を気にかけているだろうし、トランプ氏が分かってくれることを切に願う。このメッセージは事件に関わった個人だけでなく、より広いコミュニティーに向けられたものであり、この種の犯罪の深刻さを取り上げている」
ここへ来ての疑問は、被害者と家族が政治的な勢力としてまとまれるのかどうかだ。彼らは政権の意思決定に影響を及ぼしたいと考えているが、MAGA(米国を再び偉大に、の意味)運動を支持するメディアに取り上げられることはほとんどない。

自身の10代の頃の写真を手にしながら、エプスタイン元被告らからの虐待について語るバージニア・ジュフリーさん/Miami Herald/Tribune News Service/Getty Images
彼女らは世の中に認識される機会を確保することができるのか? そうした機会は司法システムによって奪われるケースがあまりにも多かった。今後彼女らの影響力が論争を一段と複雑にするのだろうか? ホワイトハウスはそれを軽視し、退けているものの論争自体は拡大を続けている。そして彼女らは、ホワイトハウスに対する政治的暴露に新たな次元を付け加えることができるのか? ここまでホワイトハウスの関心はもっぱらスキャンダルの火消しにあるが、その内容はトランプ氏にとって特に危険だ。なぜならそれによって、同氏と同氏の支持基盤の間には亀裂が生じてしまったのだから。このように注目が増す中、トランプ氏がマクスウェル受刑者に恩赦を与えるのは一段と難しくなるのではないか? たとえ同氏にその意志があったとしても。
何年も無視されてきた被害者
権力者たちが被害者らを無視するのは今に始まったことではない。
そんな状態が、もう何年も続いてきた。
まだ少女だった頃、彼女たちはエプスタイン元被告の卑劣な網に掛かり、虐待や未成年での性的搾取といった被害に遭ってきた。
マクスウェル受刑者もエプスタイン元被告に協力して少女たちに取り入り、一部の被害者に対しては自ら虐待を行ったとして禁錮20年の刑を言い渡された。
エプスタイン元被告は2008年の時点で、性的人身売買の罪に問われたにもかかわらずフロリダ州での寛大な司法取引により、連邦レベルでの訴追と長期の収監を免れた。これにより元被告は一段と卑劣な犯罪に手を染めるようになった。
司法も被害者の期待には応えなかった。エプスタイン元被告は拘置所で自殺し、罪の裁きを受けることはなかった。
マクスウェル受刑者が有罪となったときには被害者の立場が多少なりとも正当に認識されたが、そうした正当性も今では政局のために脅かされている。
陰謀論者たちはこの事件をMAGA運動の格好の動機とし、子どもの性的人身売買に対する懸念について適切に声を上げているが、非主流の右派メディアは被害者自身の苦しみにほとんど触れていない。
司法省が守るのは被害者ではなくトランプ氏

ジェフリー・エプスタイン元被告(右)とギレーヌ・マクスウェル受刑者が写った日付不明の写真。2021年12月8日にニューヨーク連邦地裁から入手/US District Court for the Southern District of New York
今、政権最上位の当局者らは一つの計画に沿って司法省の権力を行使し、トランプ氏への政治的圧力の軽減を図っているように見える。そうした圧力は、同氏とエプスタイン元被告との過去の関係に由来する。司法省と名乗るからには被害者のために正義を実現し、彼女らの苦難に敬意を払いそうなものだが、実のところその機能は大統領を守るために使われている。
ジュフリーさんについて問われたトランプ氏は、エプスタイン元被告が彼女を「盗んだ」のを覚えていると答えた。マール・ア・ラーゴにあるスパで働いていたジュフリーさんを横取りされたのだという。まるで家財道具の話でもするように、トランプ氏はそう述べた。この発言が非人間的だとして、ジュフリーさんの家族は初めて声を上げることにした。その動きに他の家族も勇気づけられ、公の場へ出てきているように見受けられる。「彼女は盗まれたのではない。彼(トランプ氏)の施設の中で餌食になった。トランプ大統領の所有する施設の中で。(中略)『盗まれた』という言い方は著しく人間味を欠く。ただの物のように感じるが、被害者たちは物ではない。女性たちは物ではない」。ロバーツさんは先月、CNNの番組でそう訴えた。
ホワイトハウスの閣僚からも、現代史上最も恐ろしい部類に入る性犯罪に巻き込まれた被害者を公に気遣う発言はほとんど出てこない。
実際に起きているのは真逆の展開だ。エプスタイン事件が大統領の立場を苦しくする中、ますます動揺したトランプ氏は、事件全体を「でっち上げ」と非難し続けている。そうした発言が、被害者をさらに苦しめる。6日には、事件は「でたらめ」とまで言い放った。
「でっち上げではない」と、ロバーツさんは7日の番組で声を震わせながら反論した。
「被害者らがでっち上げではないことは、はっきりしていると思う。彼女らは人間であり、傷ついている。まだ傷は癒えていない。彼女らが奪われた物は、二度と戻ってこない」
ホワイトハウスは別の策略も試みつつ、スキャンダルを消し去ろうとしている。
具体的には裁判所に対し、エプスタイン事件に関する大陪審証言を公開するよう請求した。MAGA派のインフルエンサーからの透明性を求める声に答えようという動きであるのは明らかだ。しかし当該の資料は司法省が掌握しているもののごく一部でしかない。次にトランプ氏の個人弁護士でもあった前出のブランチ氏が、マクスウェル受刑者に面会した。すると不思議なことに、マクスウェル受刑者はずっと居心地のいい刑務所へ移送になった。性犯罪者に対しては全く異例の寛大な措置だ。これで隠蔽(いんぺい)への警戒感がさらに強まった。マクスウェル受刑者にはトランプ氏を政治的に助ける動機があるからだ。同受刑者に恩赦を与えるのも、収監の状況を改善するのも、大統領の権限でこそ可能になる。

7月25日、フロリダ州タラハシーのホテルを出てマクスウェル受刑者との面会に向かうトッド・ブランチ司法副長官(右)/Colin Hackley/AP
マクスウェル受刑者から虐待を受けた被害者の弁護士を務めるジェニファー・フリーマン氏は6日、CNNの取材に答え、被害者への侮辱は「言語道断だ」と憤った。「被害者以外のあらゆる人から極めて強い内容の発言が聞こえる中、肝心の被害者には全く注意が払われていない」と、フリーマン氏。エプスタイン事件が絡む政争に巻き込まれた人たちは「被害者を再三無視している。(中略)法執行の機能不全として、米国の歴史でも最大規模の事態が起きている」と嘆いた。
被害者の軽視はまだ続く。
先週のニューズマックスとのインタビューでトランプ氏は、ブランチ氏がマクスウェル受刑者に面会した理由を問われた。「我々は全てを公開したいと考えているが、傷つくべきでない人々を傷つけたくはない。彼が面会に行ったのはそういう理由だろう」。トランプ氏はそう答えた。言っている意味がよく分からないが、自身を含め、エプスタイン元被告と接点のあった人物を優先する発言に聞こえた。事件の被害者という、既に傷ついてしまった人たちがいるにもかかわらず。CNNが今週報じたところによれば、マクスウェル受刑者との面会時の記録は音声で残っており、当局者らは現在、内容を文字起こししたものを公開するかどうか検討中だという。
エプスタイン元被告やマクスウェル受刑者に対する扱い、または事件のあらゆる領域において、トランプ氏による違法行為の兆候は一切存在しない。トランプ氏は起訴もされていなければ、捜査対象にもなっていない。それでも周囲からは一段と厳しい視線が注がれる。果たして司法省が保有するエプスタイン文書に、トランプ氏の名前はどのくらい頻繁に登場するのか。
一部の被害者はエプスタイン文書の全ての公開を求めている。そうすればエプスタイン元被告と関係のあった男性は全員、元被告の行動について当時どこまで知っていたのか、説明せざるを得なくなるからだ。
ただ被害者が恐れているのは、これからマクスウェル受刑者と同受刑者への恩赦がどうなるのかだ。トランプ氏は、自分には憲法上、恩赦を与える権限が認められていると言い続けている。
そんなことが実現すれば、既に地獄の苦しみを味わった被害者たちをさらに裏切る結果になってしまう。
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本稿はCNNのスティーブン・コリンソン記者による分析記事です。