憧れのパリ物件を破格の値段で、ただし「誰かの死」が条件 「ビアジェ」とは?
(CNN) フランス・パリの南西トゥールにある高齢者施設で、92歳のイベット・ブリセさんがベッドで亡くなっているのが職員によって発見された。ブリセさんはマドレーヌをのどに詰まらせたとみられる。
このマドレーヌは、アラン・ジュスランさんという男性が届けてくれたものだった。
当時60歳だったジュスランさんは、ブリセさんの親族でも友人でもなかった。25年前、ビアジェと呼ばれる不動産売買制度を通じてブリセさんの家を購入。それ以来、ジュスランさんは入居の日を待ち続けていたと、弁護士のアベド・ベンジャドール氏はCNNに語った。
ビアジェとは、高齢の家主(多くは70~90代)が、物件を時には市場価格の半額という大幅な割引価格で売却する代わりに、買主から毎月の支払いを受け取る制度。多くの場合、売主はその物件に生涯にわたり住み続ける権利を保持する。一方、売主が既に退去している場合は、買主は毎月の支払いを継続しながら、即座に物件を引き受けることができる。
これは不動産取引であると同時に、ルーレットのような側面を持つ。物件情報には通常、売主の年齢と希望価格が併記されている。売主が高齢であるほど、買主が早く物件を取得できる可能性が高くなる。
「フランスでは70歳男性の平均余命は約16年。割引率は50%になることが多い」とパリでビアジェ専門の不動産仲介業を営むフレデリック・クブロンヌ氏は話す。女性の場合、男性よりも約5年長生きするため、75歳で同様の割引率となる。カップルの場合、2人で長生きする傾向があるため、割引率はさらに高くなる。
ジュスランさんは1995年、トゥール南郊モンバゾンにあるブリセさんの家を購入した。それ以来、購入金額に加え、毎月500ユーロ(約8万5000円)をブリセさんに支払い続けていた。これは今日の為替レートで換算すると総額15万ドル(約2200万円)を優に超える。2019年5月13日にブリセさんが亡くなると、すぐにジュスランさんに疑惑の目が向けられたと弁護士は語る。
ブリセさんが亡くなるまで、家族の誰一人としてジュスランさんの存在を把握しておらず、「2人を結びつけていたのはビアジェ契約だけだった」と孫娘のエミリーヌ・デュポワさんは述べている。
「これは大きなスキャンダルとなった」とベンジャドール氏はCNNに語った。「施設の職員は、ジュスランさんが入室した際に内側から施錠したと証言した。彼が去った後、職員たちはブリセさんの体中にマドレーヌのくずが散らばっているのを見つけたという」
仏メディアは、この事件を「マドレーヌ事件」と呼んだ。
ジュスラン被告は、22年5月の初公判に至るまで、3年間にわたり未決勾留状態に置かれていた。アンドル・エ・ロワール控訴院で無罪判決を受けたが、検察側が判決に異議を唱えた。検事総長は、殺人が「計画的」だったと主張し、禁錮20年を求刑した。
だが、23年12月に行われた再審では、施設職員の証言の矛盾が明らかとなり、当初の主張に疑問が生じ始めた。
「私の依頼人が彼女を意図的に殺害したかどうかは分からない」とベンジャドール氏は語る。「ただ、手続きには重大な欠陥があり、報道で描かれたほど単純な話ではなかったことは確かだ。ビアジェの問題がすべてを覆い隠してしまった」
23年12月9日、ジュスラン被告に対する殺人罪は過失致死罪へと格下げされた。検察は、被害者を殺す意図を証明できなかったが、控訴院はジュスラン被告がブリセさんにマドレーヌを与えたことを認め、それが彼女の死に直接結びついた「軽率な」行為と判断した。
裁判所はジュスラン被告に対し、禁錮3年および3万ユーロの罰金を科した。
ビアジェ契約を巡るこのような裁判は極めて稀(まれ)だ。この制度は依然として人気で、フランスの物件を相場より安く手に入れたいと考える外国人の間では特に支持されている。