ジェフリー・エプスタイン事件について知っておくべきこと

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
司法省のメモ公開を受け、トランプ政権当局者によるエプスタイン事件の検証は終結した/Rick Friedman/Corbis/Getty Images/File

司法省のメモ公開を受け、トランプ政権当局者によるエプスタイン事件の検証は終結した/Rick Friedman/Corbis/Getty Images/File

(CNN) 米司法省と連邦捜査局(FBI)が7日に公開したメモは、トランプ大統領に批判的な人々と同氏の最も熱心な支持者の両方から激しい怒りを引き起こした。

そのメモは性的人身売買の罪で起訴され、公判前に拘置所で死亡した米国の富豪ジェフリー・エプスタイン氏に関するもの。性的人身売買と小児性愛の裏社会に関与していたとされる有力者のリストを同氏が持っていた証拠はないと主張する内容だ。また本人の死因についても、ニューヨークの拘置所で殺害されたわけではないと明記している。

これらを認めたことにより、トランプ政権当局者によるエプスタイン事件の検証は終結した。彼らは陰謀論を煽(あお)り立て、エプスタイン氏とその周辺に関して有罪を示す事実が存在するにもかかわらず、国家の最高指導者がを意図的にそれを隠蔽(いんぺい)していたとの非難を改めて呼び起こした。

そもそもジェフリー・エプスタインとは一体何者だったのか。大学中退者から政治家と繋がりのある億万長者になり、そして小児性愛者として有罪判決を受け、性的人身売買の容疑をかけられるようになったその経緯はどのようなものだったのか。そしてなぜ、本人の獄中死に対して今なお疑問の声が上がるのか。

ジェフリー・エプスタインとは何者か

ニューヨーク出身のエプスタイン氏は、名門私立学校で教師としての短期間のキャリアをスタートさせた。その後すぐに投資銀行に転身し、ベア・スターンズで勤務した後、1982年に自身の会社を設立した。

CNNの報道によると、エプスタイン氏が同社で手掛けた顧客らの資産は10億ドル(現在のレートで約1460億円)を超えていた。

裁判所の文書によると、90年代までにエプスタイン氏は複数の国々の不動産やマンションを所有。カリブ海に島まで持っていた。そして、世界で最も裕福かつ影響力のある人物たちとの親交を深めていた。

その中には、英アンドルー王子、ビル・クリントン元大統領、ドナルド・トランプ現大統領などが含まれていた。これらの人物は全員、不正行為を否定している。

エプスタイン氏の秘密の生活が初めて明るみに出たのは2005年、複数の未成年の少女による告発がきっかけだった。少女らは、金銭の見返りとしてパームビーチの同氏の邸宅でマッサージや性行為を要求されたと訴えた。数年後に公開された大陪審の証言には、当時40代だったエプスタイン氏が14歳の少女をレイプしたという内容も含まれていた。

エプスタイン氏は州の売春罪で13カ月の禁錮刑に服し、性犯罪者として登録することでも合意。これによって連邦法に基づく訴追を免れた。後の司法省の調査で、この合意を監督した当時のアレックス・アコスタ連邦検事は、合意締結において「判断ミス」を犯したと認定された。アコスタ氏は、トランプ氏の大統領1期目の任期中に労働長官を務めた。

18年には、さらに数十人の女性がエプスタイン氏から性的虐待を受けたと訴えた。この報道を受けて、司法省はエプスタイン氏に対する新たな捜査を開始。同氏は1年も経たないうちにニューヨーク州で起訴された。罪状は未成年少女数十人に対する性的人身売買だった。連邦法上のこれらの訴追に対し、同氏は無罪を主張した。

19年8月、エプスタイン氏はニューヨーク市メトロポリタン矯正センターの居房内で意識不明の状態で見つかった。搬送先の病院で死亡を確認。自殺と断定された。

脅迫説と殺人説

エプスタイン氏の死後すぐに、世間の人々は疑問の声を上げ始めた。本当に自殺なのか。実際は怪しげな権力者が同氏を殺害し、自身を有罪に導く証拠の流出を阻止したのではないのか。

当局は本人の死後数日間で、ごく基本的な事実さえも明らかにすることが出来なかった。具体的にはエプスタイン氏の同房者が同氏の死の前日になぜ別の部屋に移されたのか、監視カメラには何が映っていたのか、死亡した日の朝に誰が同氏を発見したのか、そして同氏を監視していたはずの二人の看守がどこにいたのかといった事柄だ。

検死報告書は、一部の人々にとってエプスタイン氏の死因をわかりにくくする内容だった。当局は本人の首の骨折について、理論上は首を吊(つ)った、もしくは絞殺の結果の可能性があると述べた。首を吊るのに使用されたというシーツや遺書らしきメモの写真も公開されたが、自殺を信じない人々の思いが揺らぐことはなかった。

殺人計画に関する陰謀論が広まるにつれ、エプスタイン氏が脅迫手段としていわゆる顧客リストを保管していたという説も広まった。陰謀論者たちは、このリストを公開すれば、エプスタイン氏が未成年者への虐待を幇助(ほうじょ)した人物が明るみに出るだけでなく、殺人事件の解決にもつながると主張した。

その後数年にわたり、司法省と裁判所は、エプスタイン氏の犯罪の卑劣な詳細を暴露する時系列データや数百点もの文書を公開した。これらの文書には、エプスタイン氏の所有する島を訪れた人物の名前が記載された大量の飛行記録も含まれていた。

司法省内部の監視機関は数年がかりの調査を行い、エプスタイン氏が死亡した日にマンハッタンの拘置所で何が起こったのかを詳細に記述。連邦刑務局の数々の失態を概説した、約130ページに及ぶ痛烈な報告書を発表した。

報告書は、エプスタイン氏の死に「犯罪性の欠如」を否定する証拠はないと指摘。つまり自殺による死亡だと結論づけている。

それでも陰謀論は決して収まることがなかった。現FBI長官のカシュ・パテル氏や同副長官のダン・ボンジーノ氏といった右派の人物の多くが、しきりにこうした言説を主張していた。

トランプ政権の司法省、新たな証拠ちらつかせるも不十分

24年の大統領選でトランプ氏は、エプスタイン氏に関する追加の政府ファイルの公開を検討すると述べ、政府全体の透明性向上に向けた取り組みの一環として、右派の要求に応えると約束した。

一部の人々にとって、7日のメモはそうした約束を反故(ほご)にするものに他ならなかった。

メモは「組織的な検証の結果、犯罪と結びつく『顧客リスト』の存在は認められなかった」と説明。「エプスタイン氏が活動の一環として有力者たちを脅迫していたとする信頼できる証拠はなかった。告発されていない第三者に対する捜査の根拠となり得る証拠も明らかにならなかった」とした。

司法省はこの他、10時間に及ぶ拘置所の監視カメラの映像も公開。その内容からエプスタイン氏が自殺した日、同氏の居房に入った者は誰もいないことが分かった。

「我々の最優先事項の一つは、児童搾取と闘い、被害者に正義をもたらすことだ。エプスタイン氏に関する根拠のない臆測を広めることは、このどちらの目的にもつながらない」と、司法省は付け加えている。

即座に司法省への反発が起きた。ソーシャルメディアにはボンディ司法長官の辞任を求める声が殺到。ボンディ氏は2月のFOXニュースのインタビューで、顧客リストが「今、私の机の上に置いてあり、確認する予定だ」と発言したが、SNS上の声はそれが嘘(うそ)だったと主張した。(ボンディ氏はその後、インタビューで言及したのは飛行記録など、エプスタイン捜査に関連するあらゆる書類であり、特定の顧客リストを指したわけではないと述べている)

陰謀論などを広めてきたサイト「インフォウォーズ」を運営するアレックス・ジョーンズ氏は、X(旧ツイッター)に動画を投稿。「全て明らかになりつつあったものが、今はもう存在しないなんて」「一体どういうことだ? どういうことだ?」と涙ながらに語った。

トランプ氏の側近の中には、エプスタイン事件のファイルに対するボンディ氏の処理について、水面下で不満を募らせていた人物もいた。ある政権当局者はCNNの取材に答え、ボンディ氏の事件への対応は「最初から失敗だった」と指摘。衝撃的な事実が発覚するかのような、過剰な約束をしていたとの見解を示した。

一方、トランプ氏は8日、ホワイトハウスでこの件から話題を移すべく、司法省のメモについて質問した記者らを非難。「まだジェフリー・エプスタインのことを話しているのか?」と問い返した。

メールマガジン登録
見過ごしていた世界の動き一目でわかる

世界20億を超える人々にニュースを提供する米CNN。「CNN.co.jpメールマガジン」は、世界各地のCNN記者から届く記事を、日本語で毎日皆様にお届けします*。世界の最新情勢やトレンドを把握しておきたい人に有益なツールです。

*平日のみ、年末年始など一部期間除く。

「米国」のニュース

Video

Photo

注目ニュース

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]