高齢の脳、リチウムでアルツハイマー病防げる可能性 新研究
(CNN) ほぼ10年がかりの大規模な調査の中で、ハーバード大学医科大学院の研究者らがアルツハイマー病と脳の老化に関する多くの謎を解く可能性のある一つの鍵を発見したと主張している。その鍵とはごく平凡な金属、リチウムだ。
リチウムと言えば、医療の世界では気分安定剤として非常によく知られる。双極性障害やうつ病の患者がこれを服用する。米食品医薬品局(FDA)がリチウムを承認したのは1970年だが、医師らはそれよりも100年近く前から気分障害の治療に使用していた。
今回、研究者らは初めて微量のリチウムが体内に自然と存在することを明らかにした。細胞が正常に機能するにはリチウムが必要で、その点ではビタミンCや鉄分に非常に近い。また脳の健康維持にも極めて重要な役割を果たしていると考えられる。
6日付の科学誌ネイチャーが伝えた一連の実験の中で、ハーバード大とラッシュ大の研究者らは、リチウムを大幅に減らした餌を与えた正常なマウスの脳が炎症を起こすのを突き止めた。老化の加速に関係する変化も発生したとしている。
特別な餌を与え、アルツハイマー病を患った人間と同種の変化が脳に及ぶようにしたマウスの場合、粘着性のあるたんぱく質の蓄積が加速した。これにより脳内でプラーク(斑)や繊維状の塊を形成するのがアルツハイマー病の特徴で、記憶力の低下にも拍車が掛かるという。
一方で正常なリチウムレベルを維持したマウスの場合は、年を取ってもアルツハイマー病と関係のある脳の変化を防ぐことができた。
より詳しい研究で今回の結果が裏付けられれば、アルツハイマー病の新たな治療や診断に向けた扉が開けるかもしれない。米疾病対策センター(CDC)によれば、米国では推計で高齢の成人670万人がアルツハイマー病を患っている。
今回の研究で人間と動物の脳細胞を詳しく検証し、遺伝子調査も行ったところ、進行中と思われるメカニズムが明らかになった。
アルツハイマー病患者の脳に蓄積するアミロイドベータプラークは、リチウムに結合し、それを抑え込む。通常体内に存在するリチウムにも、処方されたリチウムにもそうした作用が及ぶ。これにより近隣の細胞にとって利用可能なリチウムは枯渇する。脳内の重要な「掃除人」として知られる免疫細胞、ミクログリアに関しても同様だ。
脳が健康で正常に働いていれば、ミクログリアはアミロイドベータが蓄積し、害をもたらす前にこれを除去する。研究チームの実験において、リチウム不足のマウスの脳にいるミクログリアはアミロイドベータを除去、貪食する能力が低下していることが分かった。
ハーバード医科大学の遺伝学教授、ブルース・ヤンクナー博士は、これが悪循環を生み出すと考える。アミロイドベータの蓄積が一段と多くのリチウムを吸い上げ、それを除去する脳の能力がさらに失われていく。