マイクロプラスチック汚染が深刻な米沿岸部、住民に重大な健康リスクか 新研究
(CNN) 米沿岸部のマイクロプラスチック汚染が深刻な海に近い地域に住んでいると、2型糖尿病や脳卒中、心臓に血液を送る血管にプラークが詰まる冠動脈疾患の発症リスクが大幅に高まる可能性がある――。そんな新たな研究が発表された。
論文の上級著者を務めたサルジュ・ガナトラ氏は今回の研究について、「マイクロプラスチック汚染が深刻な海域の近くに住むことが慢性的な健康疾患と関係している可能性を示唆した最初の大規模研究の一つ」と説明した。ガナトラ氏は米レイヒー病院・医療センター内科の持続可能性担当医療ディレクターおよび研究副責任者を務める。
「今回の研究では海水の汚染を測定したが、汚染は海だけにとどまらない。マイクロプラスチックはあらゆる場所にあり、飲料水やシーフードをはじめとする食品、さらには私たちが吸う空気にも含まれている」と、ガナトラ氏は声明で指摘している。
一方、米国化学会の規制・科学問題担当副責任者を務めるキンバリー・ワイズ・ホワイト氏は今回の研究について、200カイリ(約370キロ)に及ぶ海洋データの間の包括的な関係を示したもので、多くの変数を見落としており、個人の健康との因果関係を証明するものではないと指摘する。
「マイクロプラスチックの理解は複雑な世界的課題であり、我々はプラスチックがそもそも汚染源になるのを防ぐ解決策、つまり、リサイクルの拡大や廃棄物回収の改善の支援、リサイクルしやすくマイクロプラスチック化しにくい製品の設計に注力している」とホワイト氏はメールで説明。「我々は的を絞った投資と分野をまたいだ協力を通じ、プラスチックの本質的な利点を保ちつつ汚染を軽減するソリューションの提供に取り組んでいる」としている。
マイクロプラスチックとは何か?
マイクロプラスチックとは、5ミリ未満から1マイクロメートルの大きさのポリマー片を指す。これより小さいものはナノプラスチックと呼ばれ、1メートルの数十億分の1の単位で測定される。
専門家によると、こうした微小粒子は主要臓器の細胞や組織に入り込み、細胞活動を妨げ、ビスフェノールやフタル酸エステル、難燃剤、有機フッ素化合物(総称PFAS)、重金属などの内分泌かく乱化学物質を蓄積させる可能性がある。
米ペンシルベニア州立大学ベーレンド校の持続可能性担当ディレクター、シェリー・メイソン氏はCNNの以前の取材に、「こうした化学物質は肝臓や腎臓、脳まで運ばれ、胎盤を越えて胎児に到達するケースさえある」と指摘していた。
最近の研究では、人間の脳組織や精巣、ペニス、血液、肺や肝臓の組織、尿や便、母乳、胎盤からマイクロプラスチックやナノプラスチックが検出されたとの発見が相次いでいる。
人間の健康への害について分析した3月の研究では、頸動脈(けいどうみゃく)組織からマイクロプラスチックやナノプラスチックが検出された人はそうでない人に比べ、今後3年間で心臓発作や脳卒中をはじめとする全死因で死亡するリスクが倍増することが判明した。
「バスタブ」1杯分の海洋水の汚染度を分析
米心臓協会の学術誌に18日付で掲載された研究によると、「バスタブ」1杯分の海水にプラスチック粒子が10個以上含まれている場合、その沿岸海域は汚染度が高いと判断された。
マイクロプラスチックの濃度を測定したのは米国立環境情報センター。2015年から20年にかけ、太平洋や大西洋、メキシコ湾沿いに位置する152郡の沿岸200カイリ以内で測定を実施した。
研究者は続けて、これらの郡における有病率と、付近の海域のマイクロプラスチック濃度が低いか非常に高いかを比較。その後、年齢や性別、人種、民族、医療へのアクセス、社会経済的地位など他のリスク要因も考慮してデータを調整した。
その結果、高汚染海域の近くの住民は「バスタブ200杯分の海水に小さなプラスチック片が一つある程度」の低汚染海域の近くに住む人に比べ、2型糖尿病の有病率が18%、脳卒中のリスクが9%、冠動脈疾患のリスクが7%高いことが分かった。
ただしガナトラ氏によると、沿岸海域の水中で測定したマイクロプラスチックのレベルと、心代謝性疾患の発症との間に因果関係があるかは証明できていないという。
ガナトラ氏はさらに「これらの郡の住民の体内プラスチック量についても測定しておらず、プラスチック粒子が人体に害を与えうる正確な方法も分かっていない。従って、今回の調査には説得力があるものの、決定的な結論を引き出すのではなく、さらなる精査が必要だ」と付け加えた。