(CNN) 米国は中国との貿易協議で、ようやく合意に達した。
初の合意というわけではない。
米中間で激しい非難の応酬が輸出規制合戦に発展した後、両国の当局者らは今週ロンドンで協議に臨んだ。目的はただひとつ。1カ月前にジュネーブで合意していたことについて、合意する道を見出すことだった。
両国の通商担当閣僚らはその目的を果たしたようだ。双方の当局者らが10日、5月のジュネーブ合意を履行する休戦の枠組みで合意したと発表。それぞれが枠組みを持ち帰り、首脳の承認を求める構えを示した。
世界1、2位の経済大国である米国と中国の合意に、経済界や消費者、米ウォール街の投資家らが胸をなでおろすことは確実だ。
トランプ米大統領は11日、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に大文字で「中国との取引は完了した」と書き込んだ。
トランプ氏は、両国がジュネーブ合意に基づき、輸出規制を緩和することで合意したと述べた。取引にはレアアース(希土類)を使った磁石の完成品も含まれると述べ、「必要なレアアースがすべて、中国からすぐに供給される」と宣言した。
ただ実際に、今回成立したのが本当に休戦なのかどうかは分からない。休戦だとしても、それはトランプ政権が「相互関税」を発表した4月2日より前の、すでに緊張していた状況に戻るだけのことにすぎない。互いへの関税率は歴史的な高水準にとどまり、多くの輸出規制もそのまま残る。米国は中国製自動車への門戸を開放せず、近く中国に高性能の人工知能(AI)半導体を輸出する見込みもない。そして中国が今回の合意の結果、トランプ氏の言うように米国を前より「公正に」扱うようになったかといえば、そんなこともない。
待たれる緊張緩和
貿易協定がぜひとも必要とされていたことは間違いない。4月2日にトランプ氏が米国にとっての「解放の日」を宣言してから、米中間の緊張は極度に高まり、貿易が事実上停止した。米国にとって第2位の貿易相手国である中国からの輸入品に145%の関税が課され、米企業は事実上、中国から何も買うことができなくなった。
中国側との交渉責任者を務めるベッセント財務長官は、関税が「持続可能でない」レベルに達しているとの認識を示した。
5月12日には、双方の代表団が互いに関税を大幅に引き下げると発表。エコノミストらは景気後退の予測を修正し、冷え込んだ消費者心理も上向いた。
しかしトランプ政権はここ数週間、中国がジュネーブ合意での約束を破っているとして、敵対姿勢を強めてきた。中国側も同様に、米国が合意を守っていないと主張した。
トランプ政権は、中国がレアアースの輸出規制を解除すると期待していた。だが中国側の動きは遅く、いらだちを募らせたトランプ政権は中国への輸出規制を強化した。3人の政権当局者が先月、CNNに明らかにした。
中国は事実上、レアアースを独占している。レアアースがなければ車やジェットエンジン、MRI(磁気共鳴断層撮影)用の造影剤、一部の抗がん剤は製造することができない。トランプ氏は6日、中国の習近平(シーチンピン)国家主席がレアアースの輸出再開に同意したと述べた。だが業界アナリストによると、米国へのレアアース輸出量は過去の水準に戻っていない。
今回の合意を両国が守るなら緊張緩和が期待され、パンデミック級の供給不足に陥る可能性も含めた貿易戦争激化のシナリオは回避されるだろう。
現実に戻ってみると
明るいムードをよそに、米中間の経済的対立は続く。
トランプ政権やバイデン前政権は、中国企業が嬉々として米市場に低価格の製品を販売する一方、中国は国内で活動する米企業を厳しく規制し、自国の企業には米国から知的財産を盗むよう促していると主張。中国側はこれを否定してきた。
トランプ氏は1期目の政権で、国家安全保障上の懸念を理由に対中関税を引き上げた。バイデン前政権もその措置の多くを引き継ぎ、一部については強化した。
2期目のトランプ政権はさらに、貿易障壁を前例のないレベルまで高めた。全世界からの輸入品に対する一律10%の関税や、中国に合成麻薬の流入対策を促すためとして発動した20%の追加関税は、電子製品などの例外を除き、今もほぼ維持されている。
米政権はさらに、800ドル(約12万円)以下の小口輸入品に認められていた免税措置を廃止した。これは中国のネット通販大手のビジネスモデルに打撃を与えた。
米国の企業や消費者は手軽な対策も代替品もないまま、物価上昇にさらされる。米アップルのような巨大企業は複雑なサプライチェーン(供給網)を持ち、値上げ圧力に強いはずだが、そのアップルも関税の影響を回避するため、米国向けiphone(アイフォーン)のほとんどをインドから出荷する方針を発表。関税措置にともなう4~6月期の追加コストは9億ドル(約1300億円)に上るとの見通しを示した。
米ボーイングのように、すでに中国市場から完全に締め出されている企業もある。関税その他の正式な貿易障壁が一切ない状態でも、ボーイングの中国での売り上げは2019年以降事実上のゼロになっている。
だがトランプ氏は、米中関係の行方について楽観的な見通しを示した。
同氏は11日午前、SNSへの投稿で「習氏と私は今後、米国の貿易に対する中国の開放に向け、緊密に協力していく」「これは両国にとって大きな勝利になる」と述べた。
休戦は貿易戦争が続くシナリオよりましかもしれない。ただし、今回の休戦が続くならの話だ。さらにこの合意が貿易障壁の削減につながるとしたら、それは双方の経済を後押しすることになるだろう。
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本稿はCNNのデービッド・ゴールドマン記者による分析記事です。