ANALYSIS

【分析】アップル、同社の未来に対する重大な疑問に答えられるか WWDC開幕へ

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iPhone16を求めてアップルストアに並ぶ人物=4月11日、ジャカルタ/Bay Ismoyo/AFP/Getty Images

iPhone16を求めてアップルストアに並ぶ人物=4月11日、ジャカルタ/Bay Ismoyo/AFP/Getty Images

ニューヨーク(CNN) 米アップルは9日に開催される年次開発者会議(WWDC)で、主要製品に今後実装される機能を発表する。今年は例年よりもはるかに大きな注目が集まる。

アップルは昨年のWWDCで、iPhone(アイフォーン)などの製品向けの人工知能(AI)「アップルインテリジェンス」を発表。待望の生成AIへの進出を表明した。しかし、その遅さと期待外れの機能により、アップルは後じんを拝している。人々の働き方やコミュニケーション、そしてネット上での情報検索の方法を一変させると期待されるこの重要な技術においてアップルは同社が主導的立場にあると消費者やウォール街に納得させることに苦戦している。

アップルインテリジェンスの発表から1年が経ち、今回開催されるWWDCで同社は、グーグルなどの主要ライバルが躍進する中、AI分野で確固たる地位を確立できることを証明しなければならない。

問題への対応

今年のWWDCは、米太平洋時間9日午前10時にティム・クック最高経営責任者(CEO)ら幹部による基調講演で幕を開ける。しかし目をひく新型iPhoneやアップルウォッチが披露されることは期待できない。その代わりに同社は現行デバイスの新機能の概要を示し、今後の方向性を示すだろう。

「開発者向け会議という観点から見ると、WWDCは他の会議よりも興味深いかもしれない」と、テクノロジー分析会社クリエーティブ・ストラテジーズの社長兼主席アナリスト、カロリーナ・ミラネージ氏は話す。「消費者は、既に所有しているデバイスに今後どのような新機能が期待できるかを垣間見ることができるからだ」

こうしたソフトウェアアップデートにアップルインテリジェンスがどの程度組み込まれているかが、その重要性を物語る可能性がある。アップルは、WWDCの計画とAI戦略に関するCNNのコメントの要請にすぐには応じなかった。

アップルのAIにおける苦戦は、単なる導入の遅さにとどまらない。もっと大きな問題は、同社の現在のAIツールが、他社と大きく異なる体験を提供していないことだ。アップルインテリジェンスは、テキストメッセージを要約したり、iPhoneのカメラで現実世界の周囲を識別したり、写真から不要なオブジェクトを消去したりできる。しかし、これらの機能はグーグルやオープンAI、サムスン電子といった他社が提供する機能と変わらない。

それどころか、グーグルやオープンAIといった競合は、質問に答えたり要約を作成したりするだけでなく、ユーザーに代わってタスクを実行できると主張する技術によって、すでに一歩先を行く。

待つことにはメリットもある。アップルは、一つの例外を除き、競合企業がおかしたAIの失態をほぼ回避できた。同社は先駆者となるよりも、新しい技術を普及させることで知られる。現在支配的な地位にあるスマートウォッチとタブレットの二つの分野がまさにそれだ。

しかし、アップルが同じことをAIでもできるとは証明していない。そして、ブルームバーグ通信のマーク・ガーマン記者によれば、今回のWWDCでも状況は変わらないようだ。ガーマン氏は「社内関係者」の発言を引用し、イベントは「AIの観点からは期待外れかもしれない」と伝えている。

しかし同氏は、アップルが自社のモデルを開発者に公開し、アップル以外のアプリにテキスト要約などのAI機能を組み込めるようにする可能性があるとも指摘している。また、AIを活用したバッテリー管理ツールも発表されるかもしれないという。

一方で、ウェドブッシュ証券のテクノロジーリサーチ部門でグローバル責任者を務める、アップル強気派のダン・アイブス氏は、アップルが9日にAI関連の重要な発表を行うかどうかについて懸念していない。アイブス氏は6日に発表した報告書で、アップルはアップルインテリジェンスの展開が遅いにもかかわらず、今後これを収益化する大きなチャンスがあるとの見方を示している。

競合相手

アップル「iOS」の唯一の主要ライバルである「アンドロイドOS」を開発するグーグルは、AI関連の新しいツールやサービスを猛烈な勢いで展開している。同社の年次開発者会議「I/O」は焦点を完全にAIに絞り、浸透している検索エンジンからブラウザー「クローム」、Gメールまで、あらゆる製品にどのようにAIが組み込まれるかを示した。

このイベントで発表された動画生成AIのアップグレード版は話題となり、驚くほどリアルな動画を作成できる能力に懸念も広がった。

グーグルの年次開発者会議「I/O」で講演するスンダー・ピチャイCEO=5月20日、カリフォルニア州マウンテンビュー/Camille Cohen/AFP/Getty Images
グーグルの年次開発者会議「I/O」で講演するスンダー・ピチャイCEO=5月20日、カリフォルニア州マウンテンビュー/Camille Cohen/AFP/Getty Images

ディープウォーター・アセット・マネジメントのマネジングパートナー、ジーン・マンスター氏は3月、CNNに「彼ら(アップル)がAI分野でどれほど後れをとっているか、ますます明らかになりつつあると思う」と語った。

ブルームバーグによると、サムスンもAIスタートアップ、パープレキシティと提携し、同社のアプリとデジタルアシスタントをスマートフォン「ギャラクシー」に搭載する。これは、モトローラの同様の動きに続くもので、この技術がスマートフォンでより大きな役割を果たしうることを強調している。

これはアップルにとって大きなチャンスだ。同社は世界2位のシェアを誇るスマホメーカーであり、製品のハードウェアとソフトウェアの両方を完全に管理している唯一のモバイルデバイス企業でもある。この重要なメリットは長年アップルの強みであり、自社製品向けの独自機能を提携企業と調整することなく自由に開発することを可能にしてきた。

ウェドブッシュのアイブス氏は、「今後数年のうちに世界人口の25%がアップルデバイスを通じてAIにアクセスするようになる」と予測する。

しかし、アップルはまだAIでその可能性を実現しておらず、時間は刻々と過ぎている。

クック氏は5月の決算説明会で、よりパーソナルな音声アシスタント「Siri(シリ)」について、「これらの機能の開発を完了し、当社の高い品質基準を満たすには、もっと時間が必要だ。我々は進歩しており、これらの機能を顧客に届けることを楽しみにしている」と語った。

未来を築く

テクノロジー業界では、将来、新しいタイプのデバイスがスマートフォンに取って代わる、あるいは少なくとも部分的に置き換わるとの見方が広がっている。当然それらのデバイスは主にAIで動作することになるだろう。

アップルの幹部を長年務め、同社のサービス部門を率いるエディ・キュー氏もこの事実を認めている。同氏はグーグルの検索事業の独占禁止法裁判で「10年後にはiPhoneは必要なくなるかもしれない」と証言したとブルームバーグは伝えている。アップルの元デザイン責任者、ジョニー・アイブ氏とオープンAIのサム・アルトマンCEOも先月、AIハードウェアの新製品開発で提携すると発表した。

グーグル、サムスン、メタといった企業も、スマホの後継機として、ユーザーの周囲にある物体を識別できるデジタルアシスタントを内蔵したスマートグラスに投資している。

だからといって、iPhoneがすぐに時代遅れになるわけでも、AIの新機能がないからといってiPhoneユーザーがアンドロイドに乗り換えたり、買い替えを控えたりするわけでもない。

しかし近い将来、AIが適切に実装されれば、アップルはiPhoneの買い替えを促す新たな方策を得られる可能性がある。アップルインテリジェンスはiPhoneの「15プロ」以降のモデルでのみサポートされているため、古い機種のユーザーは、買い替えの必要がある。同社は「iPhone16」を昨年9月に発表した際、「アップルインテリジェンス向けに構築」されているとアピールした。

クック氏は直近の決算説明会で、iPhone16の前年比販売台数はアップルインテリジェンスが利用可能な国のほうが、利用できない国よりも好調だったと述べた。これは、AIへの取り組みがある程度売り上げに貢献していることを示唆しているようだ。

人々がiPhoneをAirPods(エアポッズ)やアップルウォッチと一緒にどこへ行くにも持ち歩いているという事実は、Siriがアマゾンのアレクサのような競合に対して優位性をもたらしうることを示す。

もちろん、アップルが適切にやればの話だが。

「スマホという観点から言えば、私の主なドライバーはiPhoneなのでSiriのほうが私のことをはるかに理解している。この事実はアレクサとのやり取りよりもSiriとのやりとりの価値を高くしている」とミラネージ氏は指摘する。「(アレクサは)家の中では私をわかってくれるが、外の世界では必ずしも私と一緒にいるわけではない。それこそが現時点でのSiriの可能性だ」

本稿はリサ・エアディチッコ記者による分析記事です。

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