ANALYSIS

【分析】LAの抗議デモを軍の力で鎮圧したいトランプ氏、鎮圧している「風」でも構わなそう

ホワイトハウス・ステートダイニングルームでのトランプ米大統領=10日/Yuri Gripas/Abaca/Bloomberg/Getty Images

ホワイトハウス・ステートダイニングルームでのトランプ米大統領=10日/Yuri Gripas/Abaca/Bloomberg/Getty Images

(CNN) トランプ米大統領は、架空の現実を作り出し、それを政治的に利用することに長けている。しかし、カリフォルニア州ロサンゼルスの抗議活動に対する同氏のメッセージは別次元といえる。

トランプ氏は連邦政府による抗議活動の取り締まりという幻想を、現実を伴うことなく作り出そうとしていると考えられる。同氏が実効的な対応を講じるふりをしているというわけではないが、人々の印象を生み出すことにも意味はある。

トランプ氏が州兵を派遣し、海兵隊を動員するという決定は、多くの理由から物議を醸している。現時点では、州兵と海兵隊が実際に法執行を行うことは認められておらず、州兵は抗議活動者とほとんど接触していない。

同氏が反乱法を発動しない限り、州兵の任務は連邦政府の財産と職員の保護に限定される。つまり州兵は主に移民収容施設の警備と、抗議活動のきっかけとなった移民税関捜査局(ICE)の一斉摘発の協力にあたることになる。海兵隊のこれまでの動きはさらに少ない。海兵隊総司令官のエリック・スミス大将は10日、海兵隊は動員されているものの、まだ出動要請を受けていないと述べた。

CNNが報じた通り、動員されている4000人の州兵と700人の海兵隊員の大部分は、実際には公の場に姿を見せておらず、今後も目撃されることはないだろう。また、CNNは10日、米当局者の話として、海兵隊はまだ正式な任務や命令を受けておらず、多くが抗議活動への対応支援にあたる前の追加訓練を受けていると伝えている。

しかし、トランプ氏の発言は、軍を動員するという決断が暴力的なデモの鎮圧という点で大きな効果をもたらしたように聞こえる。

トランプ氏は10日、SNSに「カリフォルニアでの暴力、扇動された暴動に対処するために州兵を派遣するという素晴らしい決断を下した」「もし我々がそうしていなかったら、ロサンゼルスは完全に壊滅していただろう」と投稿した。

同氏はこうも付け加えた。「もし私がこの三晩、ロサンゼルスに『軍を派遣する』と言わなかったら、かつて美しく偉大だったこの街は今ごろ、焦土と化していただろう」

トランプ氏のコメントは、抗議活動と暴力行為が実際にはロサンゼルスのごく一部に限られており、同市とロサンゼルス郡の大部分は通常通りの生活を営んでいるという事実を覆い隠している。

しかし同時に、こうした発言は軍の役割がこれまで我々が目にしてきたものよりもはるかに大きいことを示唆している。

同氏はこの日ホワイトハウスで行われたイベントでも「我々は暴力行為を終結させた」と宣言。「我々が到着するまで、ロサンゼルスは包囲されており、警察は対処できなかった」と述べた。

「昨夜は彼らが完全に制圧していた」と同氏は断言し、「もし我々が軍隊、州兵とさらに海兵隊を派遣していなかったら」と言葉を区切った。

トランプ氏は9日にも州兵が「ちょうどいいタイミングで」到着したと豪語している。

海兵隊派遣の可能性について問われた際、トランプ氏は「我々は非常にうまくコントロールできていると思う。もしそうしていなかったら、非常に悪い状況になっていただろう」と語った。ところが、こうした発言にもかかわらず、この直後、国防総省が州兵2000人を追加動員し、さらに現在待機中の海兵隊員700人を動員する事態となった。

軍のプレゼンス強化は、一部の暴力行為に対する抑止力として機能している可能性がある。ロサンゼルスで抗議活動を取材しているCNNのキョン・ラー記者は、州兵がもたらす最大の効果は、抗議者や暴徒と対峙(たいじ)することではなく、「力の誇示」と人々の怒りの的になることだと指摘した。

トランプ氏の10日の発言の後、CNNの映像には、カリフォルニア州兵、国土安全保障省、ICEが連邦勾留施設の外で非致死性の催涙ガスを発射し、抗議者を解散させる様子が映っていた。

ラー氏によれば、8日には勾留施設の警備員が盾を使って群衆を押し出した。9日には、瓶を投げつけられた警備員が階段を駆け下り、人々を追い払った。

「ただし、その程度だ」とラー氏。「実際に直接対峙し、通りを空けたのはすべてロサンゼルス市警だ」

理論的には、力を見せつけ、連邦政府による本格的な取り締まりをちらつかせるだけで、抗議活動の暴力化を思いとどまらせる可能性はある。しかし、こうした動きが抗議活動を本当に鎮圧したという証拠は乏しい。ラー氏は、多くの人々が抗議活動に参加したのは州兵の配備がきっかけだったと指摘した。

トランプ氏がここ数日描いているイメージは、長年にわたり暴力の正当化に興味を示してきた同氏がデモ参加者や米国内の悪とされる勢力を取り締まる事態を想起させる。同氏は他国の強権政治家が自国の国民を統制し、国内の反対意見を弾圧する能力について、好意的に語ってもきた。

そうしたイメージはトランプ氏にとっては明らかに魅力的であるものの、実際の取り締まりにははるかに大きな困難を伴う。過剰な反応や醜悪な光景を生み出しかねない。人種差別に反対する抗議活動が続く中、5年前にCNNが行った世論調査では、国内の抗議活動への軍隊派遣を望まないと答えた米国人は60%に上った。望むと答えた人は36%だった。

トランプ氏が依然として軍隊による本当の鎮圧を目指している可能性はある。しかし今のところは、自らが派遣した軍がロサンゼルスの抗議活動を抑えているという印象を作り出すだけで満足しているようだ。

本稿はアーロン・ブレイク記者による分析記事です。

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