米、鉄鋼・アルミ関税を50%に引き上げ 保護するより失われる雇用が多い可能性も
(CNN) 米国が輸入する鉄鋼とアルミニウムに対する関税を引き上げる措置が4日午前0時1分に発効した。苦境に立たされている米国の鉄鋼業界にとっては歓迎すべき動きだが、自動車メーカーから缶詰メーカーまで、こうした金属を扱う業界にとっては懸念材料となっている。
輸入税の急騰は、トランプ米大統領による貿易戦争における新たな一撃だ。トランプ氏は2月以降、広い分野で関税措置を導入している。鉄鋼に対する関税はトランプ氏とその支持基盤にとって特に重要な意味を持つ。鉄鋼はかつて、米国を代表する製造業だったが、今は苦境に陥っている。
関税の引き上げがすぐに米国人の財布に打撃を与えることはなさそうだ。しかし、専門家によれば、建設や自動車、家電製品などの価格の上昇は関税の引き上げによってほぼ避けられない。関税は鉄鋼業の雇用を守る可能性がある一方、はるかに規模の大きい業界に対して悪影響を及ぼすかもしれない。
政権はこれらの関税は国家安全保障と経済にとって極めて重要だとの見方を示す。
ホワイトハウスの報道官は「国内の鉄鋼とアルミの生産は米国の防衛産業基盤にとって不可欠だ。トランプ政権は国家と経済の安全保障にとって極めて重要な製造業の国内回帰に尽力する。同時に、迅速な規制緩和や減税、米国産エネルギーの解放など供給側の改革を全面的に実行し、米国民に対して経済的な救済を提供し続ける」と述べた。
米国鉄鋼協会(AISI)は、鉄鋼業界の保護が重要だと述べた。AISIトップは、関税を50%に引き上げても自動車の製造費用は300ドル(約4万2000円)しか上がらず自動車全体の費用からみれば、ごくわずかな金額だと指摘した。
米アルミニウム協会(AA)は、広範で一律の関税の導入によって、米国の多くの仕上げ工場が依存しているカナダからの原料アルミの供給が途絶え、利益よりも損失のほうが大きくなる可能性があると懸念している。これらの仕上げ工場は米国のアルミ業界の雇用の大部分を占めている。
鉄鋼やアルミを使う業界からも懸念の声があがる。缶詰メーカーは価格の上昇が店頭の棚にまで及ぶ可能性があると警告する。
缶詰の業界団体によれば、米国内の缶詰メーカーは、ブリキなどの生産の減少を受けて薄鋼板の約80%を輸入している。関税の引き上げは、食品や飲料などの缶詰製品の価格をさらに上昇させるという。
しかし、缶詰ひとつあたり数セントの値上げが消費者に転嫁されるのか、あるいは、いつ転嫁されるのかは分からない。
専門家は、鉄鋼やアルミを使用する製造業では関税で保護されるよりも多くの雇用が危険にさらされていると警告している。
オバマ政権時代に国家経済会議委員長を務めたローレンス・サマーズ氏は2日、CNNの取材に対し、「これはまさに本質的に悪影響をおよぼす政策だと思う。自動車など鉄鋼を使用する産業の労働者は鉄鋼業の労働者の(少なくとも)50倍に上る。そのため、この政策の最終的な結果は、製造業の雇用を奪うことになる。そして、消費者物価の上昇につながるだろう」と語った。