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【分析】カオスに陥ったトランプ関税、経済政策全体が混乱

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港湾の貨物船に積まれた輸送コンテナ=米ニュージャージー州ジャージーシティー/Charly Triballeau/AFP/Getty Images

港湾の貨物船に積まれた輸送コンテナ=米ニュージャージー州ジャージーシティー/Charly Triballeau/AFP/Getty Images

(CNN) 米連邦裁判所が28日、トランプ大統領による包括関税の一部について発動の権限を否定する判断を示したことは、大統領の経済政策全体に対しても深刻な打撃を与える可能性がある。

トランプ氏の経済政策の中核は歴史的な規模の関税だが、政権はこうした強硬な貿易措置は「3本柱の1本に過ぎない」と説明してきた。関税と歳出削減、減税を柱とするトランプ氏の経済政策は、3要素のすべてに支えられて成り立つ。

だが、米国際貿易裁判所の判事3人は今回、トランプ氏が緊急経済権限を根拠に発動した世界中への関税を差し止めた。対象となる貿易措置には、「解放の日」に発表された相互関税や10%の一律関税、合成麻薬フェンタニルの流入阻止を目的とした関税が含まれる。

3本柱の経済政策のうち1本が、少なくとも現時点では失われた。貿易という柱がなくなり、トランプ氏の経済政策全体が崩壊する可能性が出ている。

歴史的な規模の関税は、数十カ国に上る米国の貿易相手国を説得し、トランプ氏との交渉の場へ引き出した。理屈の上では、こうした貿易合意により海外市場がさらに多くの米国製品に開放され、米国内のメーカーや農家に恩恵をもたらす可能性があった。

さらに、トランプ関税からの収入は少なくとも部分的にはトランプ氏と議会共和党による巨額減税の財源として活用され、これが経済成長を促し、債務上限の引き上げによって市場の安定性を高める可能性もあった。トランプ氏による規制緩和と歳出削減、特に政府効率化省(DOGE)を通じた措置も、政府支出を削減し、減税による連邦債務膨張効果の一部を相殺する可能性があった。

その設計の脆弱(ぜいじゃく)さゆえに、新たな経済黄金時代の到来を目指すトランプ氏の計画には反対論者も多い。主流派エコノミストの大半は、政権には計画実現に必要な規律や権限、政治的支援が欠けていると指摘している。場当たり的な貿易政策やDOGEを巡る法的な争い、「大きく美しい法案」を巡る党内対立が、その証拠だ。

資金面でトランプ氏の最有力支援者の一人であり、DOGEチームの顔でもあるイーロン・マスク氏は今週、この法案を批判。法案は米国の債務を大幅増加させるもので、コスト削減を担うDOGEの取り組みを実質的に崩壊させたと指摘した。今回、関税という要素がトランプ氏の政策から消える可能性が出てきたことで、議会共和党の財政タカ派はトランプ氏の減税法案を支持しなくなるかもしれない。多くの議員はすでに、メディケイド(低所得者向け医療保険)を1兆ドル(約145兆円)前後削減する施策が含まれているにもかかわらず、法案の4兆ドル近い規模に神経をとがらせていた。

投資銀行ジェフリーズの環境・社会・企業統治(ESG)戦略責任者を務めるアニケット・シャー氏は28日の顧客向けメモで、「(年間約1500億ドルに上る)関税収入の増加は、財政調整パッケージによる赤字の一部相殺に役立つ可能性があった」と指摘した。

裁判所の判断の行方が不透明になった今、トランプ氏と共和党は下院で可決された法案を上院の財政調整手続きで通すため、減税幅の縮小や歳出削減の拡大といった妥協を強いられるかもしれない、とシャー氏は説明する。

さらなる不確実性

現時点では答えよりも疑問の方が多い。トランプ政権は今回の判断を不服として控訴しており、最終的に判断が覆る可能性もある。

「数々の疑問が生じる。政権がどう対応するのか、議会で審議中の税制法案に影響があるのか、もしあるとすればどういった影響になるのか」。トゥルイスト・アドバイザリー・サービシズのキース・ラーナー共同最高投資責任者(CIO)はそう指摘する。

法制度の中で上訴が進み、あるいは最高裁までもつれるかもしれないが、28日の判断はトランプ氏が熱望していた外国との貿易合意を損なう可能性がある。

「相互関税」の3カ月の猶予期間が残り1カ月あまりとなる中でも、こうした合意はわずかな数しか発表されていない。政権が発表した合意の枠組みは、英国と中国と結んだもののみにとどまる。

シャー氏は「2国間交渉が停滞していた一因は、米国の貿易相手国がこの結果を予想していたためかもしれない」と説明。「こうした国は今後、貿易交渉を司法で解決されるべき問題と見なすのか、それとも再び米国との交渉に応じるのか」と疑問を投げかけた。

ただ、トランプ氏の政策の後退は一時的なものになるかもしれない。一方、企業にとっては、今回の裁判所の判断は確実性に乏しく、とりわけ政権の控訴で一段と不透明さが高まっている。

米イエール大学バジェット・ラボのアーニー・テデスキ氏は「どちらかといえば、今回の判断は企業と消費者が直面する不確実性をさらに増幅させるものだ。関税が完全撤廃される可能性が初めて浮上したからだ」と指摘する。

「たとえ撤廃されても、政権は別の権限を使って関税引き上げを試みる可能性がある。関税が下がるのか上がるのか、どちらにも転ぶ可能性があり、先行きは一段と不透明になった」

政権に法的審査を避ける代替的な関税発動手段が残されている可能性もある。今回の判断の影響を受けない通商拡大法第232条を用いる方法もその中に含まれるだろう。

トランプ氏は第232条の権限を利用して鉄鋼、アルミ、自動車、自動車部品に25%の関税を課してきた。

「これで終わりではない」。ピーターソン国際経済研究所のゲーリー・クライド・ハフバウアー客員上級研究員はそう述べ、「この物語全体がある種、モグラたたきのような色彩を帯びてきた」との見方を示した。

本稿はCNNのデビッド・ゴールドマン、マット・イーガン両記者による分析記事です。

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