ANALYSIS

【分析】「第三の政党」を求める米国人、ただしイーロン・マスク氏の党ではない

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議会議事堂で行われた共和党下院議員との会合を終えて立ち去るイーロン・マスク氏=3月、米首都ワシントン/Samuel Corum/Getty Images

議会議事堂で行われた共和党下院議員との会合を終えて立ち去るイーロン・マスク氏=3月、米首都ワシントン/Samuel Corum/Getty Images

(CNN) 米国の政界で最も不人気な人物の一人が、民主党と共和党に対抗するため新たに政党を立ち上げると表明した。これはおそらく失敗するだろう。

起業家のイーロン・マスク氏とマスク氏が率いる新党「アメリカ党」に関するデータから導き出せる唯一の結論がこれだ。

マスク氏とその政治的野心について調べたCNNの最新の世論調査を見てみよう。マスク氏が率いる第三の政党が民主党と共和党に対抗することを支持する人の割合は全成人のわずか25%、有権者のわずか22%に過ぎない。

成人(74%)も有権者(77%)も大多数が、こうした取り組みに反対している。

これはCNNの世論調査だけの問題ではない。キニピアック大学もマスク氏の政党について世論調査を行ったが、結果は同様に悲惨なものだった。共和党や民主党と競争するためにマスク氏とその事業に参加することを検討するとした有権者はわずか17%だった。

4分の3以上(77%)が反対だった。

米国人が自身の名前を冠した政党に反対するのは決して驚くべきことではない。

政界を揺るがそうとする第三の政党や無所属、あるいは記名投票に対して、歴史はそれほど優しくはなかった。ジョージ・ワシントンは大統領選で勝利した唯一の無所属候補だ。ワシントンは、この国で政党が本格的に機能するようになる前に勝利を収めたのだ。

そして、最後に確認したところ、マスク氏は独立戦争中に大陸軍を率いてデラウェア川を渡った最高司令官ではなかった(南アフリカの生まれなので、大統領選への出馬資格もない)。

アラバマ州のジョージ・ウォレス氏は大統領選で州を獲得した最後の第三政党の候補者だった。それは遠い昔(1968年)で、人類がまだ月面に到着していなかったころのことだ。

賢明なことに、マスク氏は大統領選の候補者を立てることよりも議会選挙で民主党や共和党と戦うことに興味があるようだ。

第三政党、無所属、あるいは記名投票の実績はそれほど目立ったものではない。筆者が数えたところによれば、70年以降、議会選挙は1万3000件以上行われている。そのうち主要政党以外の候補者が勝利したのは約24件だ。

ざっくり計算すると約0.2%になる。

メーン州のアンガス・キング上院議員とバーモント州のバーニー・サンダース上院議員が勝者の半数以上を占めている。

こうした困難な計算を見ると、なぜ誰かが時間をかけてキーボードをたたきながら、マスク氏の潜在的な第三の政党について議論するのか不思議に思うかもしれない。

答えはお金だ。多くの第三の政党はメッセージを発信できないために失敗した。

マスク氏は世界で最も裕福な人物の一人なので、マスク氏が率いる政党に、そうした問題はないだろう。だが、お金だけでは十分ではない。

実業家のロス・ペロー氏は豊富な資金力を生かして92年の大統領選で一般投票の20%近くを獲得した。ペロー氏は無所属として州を獲得することはできなかったが、その活躍が第三政党の設立へとつながった。

ペロー氏は、政治的にはマスク氏よりもはるかに恵まれた状況からスタートした。それでも、ペロー氏の「改革党」はわずかな成功にとどまった。98年のミネソタ州知事選でジェシー・ベンチュラ氏がこうした路線で勝利したときがピークだった。

現在、改革党を覚えている人はほとんどいない。

93年のCNNの世論調査によれば、ペロー氏が結成した第三の政党を米国人の50%が支持していた。反対は37%と賛成を下回った。これは、現在、マスク氏が率いる第三の政党に4分の3が反対している状況と大きく異なる。そして、93年当時、ペロー氏は世論調査で常にプラスの支持率を得ていた。

マスク氏にとって潜在的に良いニュースは、おそらく最近の歴史のどの時点よりも、現在が第三の政党にとって肥沃(ひよく)な大地が待っているだろうということだ。

CNNの世論調査では、回答者の63%が民主党と共和党に対抗する候補者を支持していることがわかった。

マスク氏は、このような旅路を進むにはまったく適していない。冒頭で指摘したように、マスク氏はこの国の政界で最も不人気な人物の一人だ。CNNの世論調査によれば、マスク氏に対する好感度はわずか23%。その2倍以上(60%)がマスク氏を好ましく思っていない。

これにより、マスク氏の好感度はマイナス37パーセントポイントとなる。うーむ。

電気自動車(EV)メーカーや宇宙企業を率いる立場としての他の世論調査ではこれほど厳しい評価ではないものの、すべてで示されるのは、マスク氏が愛されるには程遠い人物だということだ。

残念なことに、マスク氏はかつては、かなりの人気を誇っていた。2016年の選挙戦期間中、ブルームバーグ通信の調査では、マスク氏の純好感度はプラス29ポイントを記録した。

マスク氏は世論調査を受けた人物の中で最も高い純好感度を獲得していた。だが、今では、どの世論調査でも常に最も人気がない人物のひとりとなっている。

マスク氏の好感度の低下は一夜にして起きたわけではない。長年にわたって続いてきたもので、政界入りしたことでさらに加速した。ドナルド・トランプ大統領との決裂を機に、マスク氏の苦境はさらに悪化した。

全体的に見て、米国人はマスク氏の政治活動を目にすればするほど、マスク氏に対する好感度が下がっていく。

マスク氏の不人気によって、通常でも非常に困難な第三の政党の結党への取り組みが多大な労力を必要とするものとなっている。

本稿はCNNのハリー・エンテン記者による分析記事です。

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