コロナ流行期の苦難を北朝鮮国民が吐露、「核兵器製造できるのにワクチンはくれなかった」 米報告書
(CNN) 新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的流行)が発生して以降初めて、北朝鮮の一般市民がこの状況をいかに耐え抜いたかが報告書で明らかになった。
ワシントンに拠点を置く戦略国際問題研究所(CSIS)がジョージ・W・ブッシュ研究所と共同で発表した報告書は、2023年9月から12月にかけて北朝鮮国内で秘密裏に実施された100件の対面インタビューに基づくもの。
北朝鮮政府は2年以上にわたり、感染は一例もないと主張してきたが、報告書ははるかに暗い実態を描き出している。感染しても多くが治療を受けられないまま、国内全土には死者があふれた。しかし、そのことが語られることはほとんどなかった。
26ページに及ぶ報告書は、偽造薬や自己処方薬による死亡事例の証言や、不誠実な文化を招いた当局の否認についても詳述している。
「医師は患者にうそをつき、村の指導者らは党にうそをつき、政府は国民にうそをついていた」と、報告書の筆頭著者の一人であるビクター・チャ氏は指摘する。
ホワイトハウスの元顧問だったチャ氏は、今回の調査結果について「パンデミック下で政府が国民のために何もしなかったことによる完全な失敗」の証拠だと述べ、平壌の否認政策は単に外の世界を欺こうとしただけでなく、2600万人あまりの国民が沈黙し合うよう追い込んだと断じた。
回答者の92%は、自身または身近な人が感染したことがあると答えた。ほとんどの回答者は、感染拡大が最も深刻だったのは20年と21年だったと答えた。
「至る所で熱病が発生し、多くの人が数日のうちに亡くなっていた」と、ある参加者は報告した。兵士である別の回答者は、21年末までに軍の通信大隊の半数以上にあたる約400人が体調を崩したと説明した。
平時でさえ、孤立し資金不足に苦しむ同国の医療システムは国民のニーズを満たすのに苦労している。パンデミックレベルの事態に加え、政府の否認と初期の外国製ワクチンの受け入れ拒否が相まって、人々は危機に陥ったと報告書は主張する。
事実上、検査を受けられない状況下で、診断は、発熱、咳(せき)、息切れといった一般的な新型コロナの症状に基づいて行われた。回答者の中には、これらの症状さえもタブー視されていたと答えた人もいた。ある女性は、医師から「これらの症状があると言えば、連行される」と告げられたと振り返った。

平壌のデパートで消毒薬を噴霧する作業員=2022年3月18日/Kim Won Jin/AFP/Getty Images
公的医療の代わりに、市民は民間療法に頼った。塩水うがいやニンニクネックレスに加え、アヘン注射まで取り入れられた。ある女性は、成人向けの薬を間違った量で服用したために子どもが死亡したと語った。回答者の5人に1人は、薬の誤用や偽造医薬品による死亡を目撃または耳にしたと報告している。
防護用品はほとんど存在せず、政府からマスクを受け取ったと答えた人はわずか8%だった。
苦難は病気だけにとどまらなかった。国内移動が禁止され、市場が閉鎖されたことで、食料不足が深刻化。調査対象者の81%が飢餓に直面したと回答した。配給も医薬品も入手できず、助けを求める手段もない隔離期間をなんとか生き延びようとしたという。
長きにわたり不安定だった配給制度は、ロックダウンの重圧で完全に崩壊。「自宅に非常食がなかったら、本当に大変だった」と、ある兵士は語った。
回答者の87%は、パンデミック下のいかなる時点でも新型コロナの検査を受けられなかった。ワクチン接種を受けた人は20%未満で、そのほとんどの接種時期は、22年になって平壌がようやく流行を認め、中国からの限定的な支援を受け入れた後だった。
調査では、政権の対応とそのプロパガンダに対する強い不満も明らかになった。「我が国は核兵器を製造できるのに、ワクチンを提供できない」と話す回答者もいれば、無料の検査や医薬品へのアクセス、旅行の自由など、他国について聞いていた状況と、自分たちの状況との差を指摘する回答者もいた。
回答者の83%が自身の体験は政府や指導者である金正恩(キム・ジョンウン)総書記の発言と一致しなかったとした点は特に印象的だ。半数以上は、政権による新型コロナ関連の発表を信じていないと明言した。