ANALYSIS

【分析】イスラエルの「ライジング・ライオン作戦」、イランはどう対処すべきか

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イスラエルの攻撃で損傷した建物=13日、イラン首都テヘラン/Majid Asgaripour/WANA/Reuters

イスラエルの攻撃で損傷した建物=13日、イラン首都テヘラン/Majid Asgaripour/WANA/Reuters

(CNN) イスラエルによるイランに対する軍事・諜報(ちょうほう)作戦が12日夜に開始された。その規模と範囲は前例のないものだ。筆者は当時、CNNのアンダーソン・クーパー氏の番組に生出演しており、攻撃の全容は次第に明らかになっていった。

今後の展開を見据えて考慮すべき点を三つ挙げる。

第一に、今回の作戦は規模、範囲、効果において前例のない、すべてを網羅した軍事・諜報作戦である。

イスラエルはこれを「ライジング・ライオン作戦」と呼ぶ。これは、1979年に起きた革命以前のイランの国章である獅子と太陽を引き合いに、イラン国民への呼びかけを狙ったものだ。イラン国民の大多数は現政権を支持していない。筆者はこれを「キッチンシンク作戦」とも呼びたい。つまり、空爆、破壊工作、イラン国内で活動し、国中を標的とする工作員の活動を含む全面的な作戦という意味だ。

これまでのところ作戦はイラン軍司令部の迅速な破壊という結果をもたらしている。総司令官、ミサイルおよびドローン(無人機)の司令官、中東全域の代理勢力に対する支援責任者をはじめ、まだ我々が知らないだけでおそらくその他大勢が死亡した。

今、イランの当局者はみな、おびえているか、シェルターに身を隠しているか、あるいはその両方だ。トランプ米大統領は13日、イランが交渉のテーブルに戻って核開発計画を放棄する覚悟を示さない限り、攻撃は継続されると警告した。これにより、イランの指導者らは重大な窮地に立たされている。自らの命の危険を感じながら、被害を受けた自国への信頼を示す一方で、イスラエルへの対応策を検討しているのだ。

第二に、イスラエルはイランに対する諜報活動の完全な優位性を示し、制空権も掌握していることから、イランは深刻な苦境に陥っている。

イスラエルは数時間で司令部全体を壊滅させたことで、イランの情報を完全に掌握していることを示し、制空権も獲得した。これは、イランが一貫性を持って調整された対応を展開する能力をさらに制限するだろう。イスラエルは昨年10月、弾道ミサイル攻撃への報復としてイランの戦略防空システムの大半を破壊した。

イスラエルは残りのシステムも破壊したことで、今や有人機およびドローンでイラン上空を自由に飛行できる。

重要なのは、対応を調整するための会合を13日に開くはずだったイラン当局者が全員死亡していることだ。そして、イランは何を試みようとも、イスラエルが意のままに反撃できることを知っている。イランにはミサイル、ドローン、代理勢力による攻撃といった選択肢がまだ残っているため、対応を継続しようとすることは間違いないだろう。しかしイスラエルからの攻撃の規模と効果を考え、イランは困惑している。最高指導者は、死亡した司令官の一部の後任を指名しているが、これらの役職は誰も望まない。イスラエルを攻撃しようとすれば、標的にされかねないからだ。

第三に、なぜ今なのか? 2023年10月7日のイスラム組織ハマスによるイスラエルへの攻撃を受け、イランは戦略上の致命的な過ちを犯したばかりか、核開発をめぐり状況を悪化させた。

10月7日のハマスによるイスラエルへの侵攻は、中東の戦略的均衡を永遠に変えた。しかし、それはハマスが意図したものではなかった。イラン革命防衛隊の精鋭、コッズ部隊(イスラエルによって12日に司令官が殺害された)から長年支援を受けてきたハマスは、イスラエルを弱体化させ、その存在に疑念を呼び起こすことを期待していたのだ。

ハマスによる攻撃直後、イランはイスラエルへの攻撃に加わるという重大な決断をした。レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラを支援してイスラエルとの北部戦線を開き、イラクからシリア、イエメンに至る中東全域の代理勢力に弾薬を供給して、イスラエルに対する多方向からの同時攻撃を展開させた。

イランはまた、昨年4月と10月に、イスラエルにミサイルとドローンによる大規模な直接攻撃を2回実施。これらは、イスラエルと、米国が主導する連合軍によってほぼ撃退された。

同時に、イスラエルは10月7日以降、国境付近でもイラン国内でも、二度と脅威をまん延させないことを明確にしている。これには特にイランの核開発計画が含まれる。イランはこの日以降、核開発計画を、考え得るあらゆる民生上の必要性や使用例をはるかに超える水準に推し進めることとした。

国際原子力機関(IAEA)は先週、核開発計画に軍事的側面がないことを証明するという義務の履行に関して、イランが「顕著に怠っている」と認定。12日にはオーストリア・ウィーンにおいて19カ国がイランの核拡散防止条約に基づく義務違反を認定した。こうした事態は20年間みられなかったことだ。IAEA理事会における投票では、ロシア、中国、ブルキナファソのみがイラン支持に回った。

イランはこれに反発。フォルドゥにある地下深くの施設に遠心分離機を増設すると発表し、地下濃縮施設の新設も宣言した。今回ももっともらしい民生上の必要性や利用例は見当たらない。こうした動きは、イランの核開発計画を縮小させるための外交努力が失敗した場合、イランの核開発活動を軍事的な対応が及ばないものにする恐れがある。

これは明らかにイスラエルにとって決定的な一撃だった。イスラエルは、敵が核兵器能力を持つ間際にいるのを黙って見ているつもりはない。自衛のために行動するだろう。そして12日はまたとない機会だと捉えた。

この機会を得られたのは、米国が二つの政権を通じてイスラエルに提供してきた確固たる支援のおかげだ。ヒズボラは弱体化し、無力化している。歴史的にイランの同盟国だったシリアのアサド前政権は崩壊し、イランが、イスラエルに対抗する中東各地に武器やテロリストを送り込む能力は失われた。イランの防空システムは昨年以降、劣化していたため、イスラエルのパイロットにとって12日の空襲におけるリスクは少なかった。

当然ながら危機はまだ終わっていない。双方の攻撃は続いている。筆者は昨年4月と10月の攻撃の際、米政権によるイスラエル防衛の調整に協力した。数百発のミサイル攻撃は極めて重大だが、我々はそのような攻撃から身を守る方法を知っており、今回も再び備えなければならない。

米東部時間13日午後までに、イランはイスラエルに向け「数百発のさまざまな弾道ミサイル」を発射。イランはこれをイスラエルの攻撃に対する「壊滅的な反撃」の始まりと称した。米国は、24年に2度にわたり行ったように、これらの攻撃からイスラエルを守るために全力を尽くすことが重要だ。

この状況を完全に打開する最速の方法は、イランが核開発の野心を放棄し、ハマスが人質を解放してガザの支配権を手放すことだ。結局のところ、この紛争を始めたのはハマスとイランだ。これらが実現されるまで、イスラエルは自国の安全保障上の利益のために行動し続け、米国はそれを支持する。

ハマスとイランの行動が引き起こした状況は、今や明らかに自分たちに不利な形で跳ね返ってきている。これは今日の中東における厳しく揺るぎない方程式なのだ。

本稿はCNNグローバル問題アナリスト、ブレット・マガーク氏による分析記事です。マガーク氏はジョージ・W・ブッシュ氏、バラク・オバマ氏、ドナルド・トランプ氏、ジョー・バイデン氏の政権で国家安全保障の要職を歴任した人物です。

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