(CNN) 過去数年の様子から、トランプ米大統領は米国国内での軍隊派遣を本気で望んでいるように思える。後はそれを実行に移す適切な機会を探っているだけなのではないか。
ここへ来て状況はエスカレートしている。それもトランプ氏の打つ手がどれほど異常かつ緊迫感に満ちたものかを裏付ける形で。
トランプ氏は11日、首都ワシントンの警察を連邦政府の管理下に置くとともに、市内に州兵を派遣すると発表した。首都での犯罪に対処することが狙いだという。
前者の措置は過去に例がないが、後者の州兵派遣はワシントン市やその他の都市で多くの前例がある。
しかし、トランプ氏が今年最初に行った軍の配備、つまり2カ月前のロサンゼルスにおける抗議行動への対応と同様、同氏は大統領権限の行使の境界を広げている。対象となる状況が、過去の配備時と同等であるようには見えない。しかも今回の措置は、過去のトランプ政権当局者らの間にも一段の不安をもたらす公算が大きい。そこには大統領が一線を越え、自国への軍隊配備を政治化しようとしているとの懸念がある。
トランプ氏が明示した論理的根拠は、首都ワシントンでの犯罪が「制御不能」に陥っているというものだ。同氏とその支持者らは、最近発生した政府効率化省(DOGE)の元職員を狙った残忍な襲撃を引き合いに出した。
しかし多くの人々が指摘するように、首都ワシントンの凶悪犯罪は実のところ近年減少傾向にある。2023年こそ急増したものの、それ以降は減少。首都警察の直近のデータによれば、今年の凶悪犯罪は年初来、前年比で26%低下している。
データはまた、今年の凶悪犯罪が少なくとも過去6年のどの時点よりも少ないことを示す。米紙ワシントン・ポストが報じた。換言すれば、トランプ氏の大統領1期目の終盤よりも少ないということだ。
だからと言って、犯罪が首都ワシントンで問題になっていないわけではない。その発生率は他の多くの都市と比較しても高いと言わざるを得ない。(ワシントン・ポストとシャール政策・政府大学院が今春実施した世論調査で、犯罪、暴力、銃はワシントン市民が地元で直面する最大の問題として挙げた項目のトップだった。ただ犯罪を深刻な問題とする割合は、22年以降著しく低下している)
それでも事態が既に正しい方向へ向かっていることは明らかだ。連邦政府の介入がなくてもそうなのだから、トランプ氏の今回の決定は一段と恣意(しい)的なものに映る。こうした措置が現時点で正当化できるとすれば、なぜ大統領1期目の終盤ではそうでなかったのか。
そこからある疑問が浮かぶ。果たして当該の問題は、トランプ氏が推し進める常軌を逸した解決策に適合するものなのだろうか。厄介な前例を作ることにはならないのか。
トランプ政権1期目の高位当局者らは、トランプ氏が何かにつけて部隊の派遣を要請したがるのを不安視していた。彼らは同氏を説得し、派遣を実行しないよう訴えたこともあるという。国内政治に軍隊が関与する影響は大きく、状況をエスカレートさせかねないからだ。これらの当局者の中にはトランプ氏について、ファシスト的特質を備えていると明言した人物もいる。
トランプ氏が州兵の派遣を要請した当該の状況を見ても、このような懸念が鎮まる公算は小さい。
過去の大統領もこうした措置は講じてきたが、それらはほぼ常に暴動のような大規模な騒乱への対処が目的だった。
20年に州兵が発表した背景説明によると、州民兵と州兵は19世紀後半と20世紀初め、人種暴動と労働者のストライキの鎮圧に当たった。しかし1867年から1957年までの90年間、彼らを連邦政府の管理下に置いた大統領は一人もいない。

首都ワシントン(コロンビア特別区)にある州兵の司令部/J. Scott Applewhite/AP
その後、一連の大統領が州兵を連邦政府の管理下に置き、公民権運動時代に生じた醜悪な場面の対処に当たらせた。具体的には67年にデトロイトで起きた人種暴動、そして68年のキング牧師暗殺の後に州兵の派遣が要請されている。トランプ氏は2020年に州兵の派遣を要請し、首都ワシントンで発生した人種の正義を求める抗議運動に対処させたが、それより前に同様の措置が取られたのは、やはり異人種間の対立に端を発した1992年のロサンゼルス暴動が最後だった。
つまり現在のトランプ氏は、非常に異なる目的のために州兵派遣を要請していることになる。過去に派遣が行われた異例の事態と比べても、現状は別物となっている。
ロサンゼルスへの州兵派遣を要請した2カ月前のトランプ氏の決定は、まだ過去の歴史に沿った動きだったが、それでも異例だったことに変わりはない。
当該の暴力はトランプ氏による物議を醸す移民取り締まりの中で発生したもので、本人が主張するほど深刻でも大規模でもなかった。92年のロサンゼルス暴動とは比較にもならなかった。しかも知事からの求めがない中で、大統領が州兵派遣を要請したのは60年ぶりの出来事だった。(この措置がトランプ氏による越権行為だったのかどうかについては、今週の裁判で確定する予定)
このようにあらゆる面から、トランプ氏が実際に新たな境地を切り開いていることが裏付けられる。
米国内での軍使用に国民は懐疑的
今回の動きに大きな不安を感じる二つ目の理由は、これが米国民の求めている措置だとは到底思えないことだ。それどころか国民は相当な疑いを抱いている可能性もある。
トランプ氏は6月、ロサンゼルスの抗議行動に対処するに当たって州兵だけでなく海兵隊も派遣した。海兵隊派遣の目的は連邦政府の施設の防衛だけだったが、さらに激しい取り締まりが行われるのではないかとの予測も浮上した。
一部の世論調査では見解が分かれたが、ワシントン・ポストとシャール政策・政府大学院が実施した調査によれば、ロサンゼルスの状況を注視する米国民のうち州兵及び海兵隊の派遣に反対と答えたのは54%と、賛成の37%を上回った。数週間後のキニピアック大学の調査でも、州兵の派遣は55%対43%、海兵隊の派遣は60%対37%でそれぞれ反対が上回った。(無党派層の中では、海兵隊の派遣に反対するとの回答が賛成の2倍を超えた)
20年のCNNの世論調査では、大統領が「米国内の抗議運動の対応として米軍を配備する」ことが不適切だと思うかとの問いに対し、不適切だと思うが60%、思わないが36%という結果だった。
従って、トランプ氏の提案はリスクを含んだものとなっている。
それは単に、大統領が常軌を逸した措置に踏み切ったということだけではない。トランプ氏が再三示唆するように、これらの措置を通じて軍隊が国内の治安維持の役割を段階的に強化していく可能性がある。
「国内の他の地域にも伝えておく。こうした事態を起こせば、ここで直面したのと同等またはそれ以上の圧力で対処されることになる」。ロサンゼルスに軍隊を派遣する中で、トランプ氏はそう述べていた。抗議行動が暴力的になる中での発言だった。
11日、トランプ氏は州兵だけでなく現役の兵士を派遣する可能性も排除しないことを示唆した。ただ実際にそれが必要になるとは考えていないとも述べた。またシカゴやニューヨークなどの都市でも同様の手法を用いる可能性があると明らかにした。
「次はニューヨークを見てみる。もう少し後で。これを実行しよう。まとめて実行すればいい。ひとまずは様子を見るが、これからは相当早くことが進むだろう」。トランプ氏はそう語った。「それから必要があれば、我々はシカゴでも同じことをする。あそこは最悪だ」
トランプ氏は過去にもこのような脅迫を行ったことがある。今はそれに続くやり方で、我々の許容範囲を試しているように思える。果たして我々が従来とは極めて別種の国を許容できるのかどうかを。
◇
本稿はアーロン・ブレイク記者による分析記事です。