英ロンドン中心部に中国の「スーパー大使館」建設計画、身の安全危惧する住民
(CNN) 英ロンドン中心部カートライト通りの王立造幣局跡地に中国の「スーパー大使館」を建設する計画をめぐり、住民らが懸念を強めている。
場所はタワーブリッジやロンドン塔などの名所にも近いロイヤルミントコートの広大な敷地。かつて造幣局だった建物を改修して中国大使館を建設する計画で、実現すれば欧州で最大の中国大使館となる。この土地は中国が2018年に約3億1200万ドル(約460億円)で購入した。
しかし中国政府が英国在住の香港出身者に対して賞金をかける中で、近隣住民は身の安全を懸念して神経をとがらせている。
ロイヤルミントコートの近くに職場があるというバリーさんはCNNの取材に対し、「あの建物は英国の歴史的建造物であり、かつての王立造幣局だった。それを外国政府、しかもよりによって中国に渡すなんて、冗談としか思えない」と訴える。
計画を承認するかどうかは、アンジェラ・レイナー副首相兼住宅相が9月9日までに判断する見通し。
レイナー氏は先週、中国に対し、広大な大使館建設予定地の設計図の一部が黒塗りされている理由を2週間以内に説明するよう求めた。
中国大使館の建設計画は2022年、安全保障上の理由から地元区議会が退けていた。しかし中国は昨年、労働党が政権に返り咲いた数週間後に、新政権が寛大になることを期待して計画を再申請した。

ロイヤルミントコート周辺で中国大使館建設反対のプラカードを掲げるデモ参加者/Chris J Ratcliffe/Reuters/file
中国に買収される前、ロイヤルミントコートでは店舗やオフィス、レジャー施設などを建設する再開発計画が予定されていた。しかし現在、この場所にある住宅約100棟は中国の所有地になった。
大使館の計画が実行されれば、そうした不動産は、たとえ中国大使館の敷地内になくても引き続き中国の所有地とみなされる。
カートライト通りの西側にある集合住宅は隣が大使館職員の居住区になる予定。外交員のために建設されるバルコニーは、集合住宅の窓から見える位置にある。
周辺の建物の住人約300人でつくるロイヤルミントコート住民協会は、何年も前から反対運動を展開してきた。もし隣に大使館ができれば中国が地主として権力を振るいかねないと危惧している。
大使館予定地からわずか数メートルの場所に住んでいるという会計担当のマーク・ナイゲートさん(64)は、駐車場と大使館の敷地を隔てる簡素な木製のフェンスを「ソフトボーダー(国境)」と呼び、中国人の家主が物件を無作為に捜索したり、住民がスパイの罪に問われたりする恐れがあると指摘。「私は写真を撮るのが好きで、自分の市民農園の写真を撮っているが、その市民農園はこの『国境』に面している」「写真を撮ればスパイ扱いされかねない」と話した。
ロンドン警視庁も懸念を表明し、大使館前で大規模デモが行われれば、交通の妨げになって観光地にも影響が及ぶ可能性があると指摘した。
人権団体などは、大使館ができれば英国に住む中国の反体制派が危険にさらされかねないとして危機感を募らせる。
中国は各国の外交拠点を事実上の警察として利用し、中国籍の住民を監視して帰国を強要しているとして非難の的になっていた。
ただ、計画に反対する住民ばかりではない。マレーシアに本社のある不動産開発業者IJMの英国子会社を経営するマーク・ラヒフ氏は、「中国はこの地区に巨額を投資している。ここは2008年以来、空き地になっていた」と強調した。IJMはロイヤル・ミント・ガーデンズのアパートホテル建設プロジェクトにかかわっており、ラヒフ氏は2月に開かれた政府の公聴会で大使館建設に賛成を表明していた。