ANALYSIS

【分析】ガザとウクライナで分かるトランプ氏の実像 真のリーダーか、ただのいじめっ子か

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7月3日、モスクワでのフォーラムに出席するロシアのプーチン大統領/Getty Images

7月3日、モスクワでのフォーラムに出席するロシアのプーチン大統領/Getty Images

プーチン氏への非難は実行に移すのか

トランプ氏の世界的な実力に関する二つ目の試金石は、ウクライナ問題に表れるだろう。

トランプ氏は28日、ロシアのプーチン大統領に対して高まっていた不満を爆発させた。ウクライナにおける和平合意に向けた自身の寛大な提言をプーチン氏が受け入れないことに業を煮やし、50日としていた和平合意の同意への期限を10~12日に短縮した。

「あれほど素晴らしい会話をしながら、あれほど敬意を持った、素晴らしい会話をしながら、次の晩には人々が死んでいく」(トランプ氏)

トランプ氏が本当に考えを変え、プーチン氏の機嫌を取るのではなく懲らしめる方針に切り替えるなら、それによってロシアは実害を被る可能性がある。特に二次関税による制裁は、ロシアの石油輸出を標的とすることで資金の面から戦争に影響を与える。だがそこには大きな問題がある。制裁に踏み切れば米国は、インドや中国といった大国を直接敵に回すことになる。それは世界経済での反発を招くリスクを伴う。

トランプ氏がスコットランドにいる間、同氏の貿易交渉担当者はスウェーデンで中国とハイレベル協議を行っていた。協議は同氏の関税戦略にとっての新たな「勝利」を引き出すかもしれない。そして大掛かりな大統領訪中が年内に実現する可能性もある。

果たしてトランプ氏は、本当にこれら全てを棒に振るリスクを負ってまでウクライナに協力するつもりだろうか? ただでさえ米国が過剰に支援していると考えるその国に?

プーチン氏に対して向こう数日の間に強硬姿勢を取れば、その影響は中国の習近平(シーチンピン)国家主席やトランプ氏自身の政治的利益にも跳ね返る可能性がある。それは欧州諸国に対する威圧だけでなく、最も容赦のない指導者たちにも喜んで立ち向かう意志がトランプ氏にあることを意味する。

そのような行動に踏み切らなければ、一部批評家の見解は有効なものとなるだろう。批評家らはトランプ氏がプーチン氏に向ける不快感について、ウクライナの窮状とはそこまで関係がなく、どちらかと言えばノーベル平和賞受賞のための活動を巡る気まずさについてのものだとみている。現在その活動を妨害しているのは、本人にとってかつてヒーローだった人物だ。

EUに対する貿易の勝利、見た目ほどではない可能性も

表面上、トランプ氏はEUとの貿易協定で正真正銘の勝利を引き出した。自身の掲げる「米国第一」の貿易政策にとって、この勝利は米国が提携国から利用されてきた数十年間を逆転させるものと捉えられている。念頭にあるのは米国の製造業の復活だ。

EUは自らの経済力を使って米国経済に痛みを与えることを選ばなかった。代わりに、欧州からの輸出品に15%の関税を課すことになる協定を受け入れた。

反発はすぐにやって来た。

フランスのバイル首相はX(旧ツイッター)に、「自由な国民の連合体が、自分たちの価値観を主張し、自分たちの利益を守るために集まったにもかかわらず、実際には降伏を決め込んでいる」と投稿した。

これに対し、降伏ではなく現実主義だと捉える人々もいる。関税はトランプ氏の存在そのものであることが明らかになりつつあるからだ。日本やフィリピンとの間で発表された最近の貿易協定でも、同様の関税措置が示されていた。既に鈍化している欧州の経済成長は今後打撃を受けるだろう。しかし貿易戦争がもたらす影響はそれを上回ったはずだ。

7月27日、スコットランドのターンベリーで握手を交わすトランプ米大統領(右)とEUのフォンデアライエン委員長/Brendan Smialowski/AFP/Getty Images
7月27日、スコットランドのターンベリーで握手を交わすトランプ米大統領(右)とEUのフォンデアライエン委員長/Brendan Smialowski/AFP/Getty Images

ドイツ化学産業協会のウォルフガング・グロッセ・エントルプ会長は、「ハリケーンを覚悟していた者にとって、ただの暴風雨はありがたい」と語った。

EUとの合意を「史上最大のディール」とするトランプ氏の評価は誇張だ。簡潔な枠組みは詳細な合意とは程遠く、そこに至るには何年にもわたる交渉と数千ページの文書が必要になるかもしれない。

これこそ、小さな突破口を途方もない大勝利に見せかけるトランプ氏の昔ながらの手法に思える。

ホワイトハウスによる枠組み発表は内容が薄く、条件付きの文言に満ちている。綿密に検証すれば、EUが具体的に何を手放したのかは判然としない。欧州諸国が米国の要求に譲歩し、成長ホルモンを使用して飼育された米国産牛肉を受け入れる、もしくはシリコンバレーのハイテク企業に対する規制を緩和するといった明確な記述はどこにもない。

欧州の指導者らは長期戦を戦っている。

トランプ氏との貿易戦争に踏み切れば、同氏による大西洋をまたぐ同盟の破壊を阻止する欧州側の取り組みが台無しになっていたかもしれない。その取り組みには防衛予算を35年までに国内総生産(GDP)比5%にまで引き上げる約束も含まれる。この約束はトランプ氏が最近、NATO首脳会議に出席した際に交わされた。

EUの貿易協定での譲歩から数時間後、トランプ氏がウクライナとガザを巡って方針を転換したのも偶然ではないのかもしれない。方針転換によりトランプ氏は、欧州の外交政策にとって極めて重要な二つの優先課題により接近した。

トランプ氏の勝利は誰の目にも明らかだが、欧州諸国のそれは、より注意深くなければ気付かない。

スターマー氏も同様に駆け引きしている。トランプ氏に会うたび、自らの政治的威信をあえて顧みない態度をとり続けるスターマー氏だが、それはトランプ氏との友情という形で成果に表れている。英国に課される関税は10%と、EUより低い。

トランプ氏の勝利追求で枯渇しかねない米国の国力

勝利を追求するトランプ氏の二元的な視点は、自身が常に頂点に立ち、相手側を負かさなくてはならないことを意味する。

最終的にこの考えは、米国にとって最良の友好国の一部を遠ざけることになる。

「米国第一」の信条にとってそれは問題にならない。米国の影響力をより小さい国々に行使する中で、それらが同盟国か敵国かは関係ない。

しかし米国の同盟および同様の考えを持つ民主主義国の間でのリーダーシップは、第2次世界大戦の終結以降、米政府の実力にとって重要な鍵となってきた。そして米国は時に友人を必要とする。例えば01年9月11日に起きた同時多発テロの直後のように。トランプ氏は恐ろしい速度で、米国のソフトパワーを使い果たしている。

また米国の伝統的な同盟国の一部が中国との関係を強める中、トランプ氏の業務取引的な手法が長期的な被害をもたらしかねない明確な兆候もある。

フォーリン・アフェアーズ誌の最新号で、ブッシュ政権時代の外交官だったコリ・シェーク氏はトランプ氏のチームが急いで向かおうとする未来に言及。そこでは各国が既存の米国主導の国際秩序から脱退するか、もしくは新たな国際秩序を作り出そうとすると指摘した。その場合、新たな国際秩序は米国の国益と対立関係になるという。

そして数多くのトランプ氏の勝利により、米国の安全保障が強化されるのかどうかさえもはっきりとは分からないのが実情だ。結局のところ、欧州の製品に15%の関税をかけて罰すれば、米国内の消費者にはまた新たな税が上乗せされることになる。

「その数字は米欧双方の経済を傷つけるだろう」。欧州産業連盟のフレデリック・パーション会頭は、CNNの取材に答えてそう述べた。

本稿はCNNのスティーブン・コリンソン記者による分析記事です。

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