30年前に撮影された母の旅行写真、娘がフィルムカメラで再現
(CNN) 英国人写真家のロージー・ラグさん(23)と母親のヘイリー・チャンピオンさんは、普段ほとんどの時間を一緒に過ごしている。
「母は親友みたい」とラグさんはCNN Travelに語る。「一緒に朝食を食べてジムに行く。散歩も一緒。何でもかんでもとにかくおしゃべりする」
22歳のとき、恋人と初めて遠出をしようと3カ月に及ぶ東南アジア旅行の計画を立て始めたラグさんはすぐに母親にそのことを伝えた。
すると、母親は1990年代半ばに一時期タイとマレーシアで働いていた思い出を語り始めた。そこで過ごした時の写真が箱の中に埋もれていると聞いたラグさんは、母に写真を探すよう勧めた。写真家としての興味だけでなく、母親の若い頃や両親の恋愛を見てみたいという思いもあった。両親が90年代にマレーシアでスキューバダイビングを教えていたときに出会ったことは知っていたが、それ以上のことはあまり知らなかったのだ。
母親は屋根裏にしまっていたフィルム写真を全部見せてくれた。フィルム写真がぎっしり詰まった箱は次から次へと現われた。

ラグさんは母親の写真の正確な撮影場所は分からなかったが、似ている場所を見つけることにした。このラグさんの写真はインドネシア・バリ島ウブドで撮影/CNN/Hayley Champion/Rosie Lugg @rambosphotos
写真はオリンパスの「ミュー」で撮影されていた。母は91年に発売されたこの小さな銀色のフィルムカメラをその後の10年間たいていバッグに入れて持ち歩いていたという。
このコンパクトな全自動カメラは、インスタ映えするその美しさから、近年マーケットプレース「eBay」でちょっとした復活を遂げている。しかしラグさんが母親たちの写真に魅了されたのは、光の捉え方やざらざらとした質感だけではない。
何よりもラグさんは20代前半の母親がカメラに向かって笑顔を見せたり、市場を散策したりする姿を見るのが楽しかった。
屋根裏で写真を見たふたりが驚いたのは、母娘がとても似ていることだった。お互いが似ていることは分かっていたが、写真はそれを明らかに写しだしていた。
立ち方まで似ていることに驚きながら写真をみているうちにラグさんはあることを思いついた。ラグさんは母に向かって「この写真を再現できたら、本当にすごくない?」と提案した。
母親がミューをまだ持っていることに気づき、アイデアは決行されることになった。母はずいぶん前からiPhone(アイフォーン)に乗り換えており、ミューは「砂だらけで、もうダメになりかけていた」。
ラグさんは30年物のカメラをバックパックに詰め、タイ行きの飛行機に乗りこんだ。
過去を再現する
ラグさんは、ビンテージカメラと、スマートフォンに保存していた母親の写真だけを携えて東南アジアにたどり着いた。このプロジェクト、そして旅の行先を見据える以外には何の計画もなかった。ラグさんはインドネシアから旅を始め、シンガポール、マレーシア、タイ、ベトナム、フィリピンを巡るつもりだった。
母親が撮影した90年代の写真の正確な場所を把握していなかったラグさんは、元の写真が撮影された場所を見つけようとするのではなく、母の写真を思い起こさせるような場所を探すことにした。
細かい点にこだわるよりも、同じような瞬間を捉えたかったのだ。
例えば、90年代に撮影された1枚を見てほしい。そこには、ひとけのない砂浜でカメラに背を向けて歩く母親の姿が写っている。

母の写真はタイのピピ・ドン島のもの。ラグさんは海岸線が似ていると感じ、インドネシア・ロンボク島のセロンビーチでこの写真を撮影した/CNN/Hayley Champion/Rosie Lugg @rambosphotos
母はこの写真がタイのピピ・ドン島のものだと考えている。インドネシア・ロンボク島のセロンビーチを訪れたラグさんはその海岸線が母親の写真と似ていることに気づいた。空は同じように青く、元の写真が捉えているような、ゆったりとした幸福感も感じられた。
ラグさんはすぐにカメラを「まさにぴったりのポジション」にセットし、恋人に手渡した。そして、90年代に母親が撮影したときのように、カメラに背を向けて歩き始めた。
フィルム写真の性質上、ラグさんは仕上がりを深く考えすぎないようにした。フィルムは36枚撮り。何枚も撮ることはできない。シャッターを押して、うまく撮れていることを祈るしかなかった。
「どの写真も、1回しかトライしなかった」とラグさん。この制約が再現プロジェクトのシンプルさにつながったと語る。「思い出をただありのままに捉えたかった」
オリンパスのカメラはスマホとは違い、フィルムが現像されるまで写真を見ることができない。「ピントが合っていなかったり、ぼけていたりする」可能性もあることは分かっていたが、その分からなさも楽しみの一つだったという。
旅も後半にさしかかり、フィリピンとベトナムを訪れていたラグさんは、数本のフィルムを現像。再現写真を初めて目にしたラグさんは大喜びで、すぐに英国の母親にメッセージで送信した。
ラグさんの母親は写真を見てとても喜んだ。家族が似ていることがこれほど明らかになったことはなかったという。2枚を並べてみると、94年に撮影された母親の写真なのか、2024年に撮影されたラグさんの写真なのか見分けがつかないほどだ。
「写真を再現して、私たちがどれほど似ているかを見るのは本当に楽しかった」とラグさんは語る。

母の写真はマレーシア・シパダン島のもの。ラグさんはフィリピン・シキホールのパリトンビーチでこの写真を撮影/CNN/Hayley Champion/Rosie Lugg @rambosphotos
ふたりがこれほど長い期間離れていたのは初めてだったが、ラグさんは「これは彼女との絆をもっと強く感じる、とても楽しい方法だった。彼女の思い出を再現することは、まるで彼女の近くにいるような感覚だった」という。
帰国後、ラグさんは夜な夜な母親と思い出を語り、それぞれの写真を見比べた。

母親の写真はマレーシア・コタキナバルで食事を楽しんでいる様子。ラグさんはタイ・バンコクで撮影/CNN/Hayley Champion/Rosie Lugg @rambosphotos
「全く同じ場所でもないし、全く同じ経験でもない」「でも、とても似ている。実際に目の前に並べて見ると、本当に素敵だと思う」
ラグさんはその後、SNS(@rambosphotos)で写真を共有している。写真を並べて飾ることも検討しているという。
「両親の昔の写真を見たり、旅の思い出を聞いたりすることで、両親の人となりがよく分かる」と、ラグさんは言う。
「両親といると、きっと誰もが、両親が自分より先に人生を送ってきたのだと改めて実感すると思う。不思議な感覚だけど、両親の話を聞けば聞くほど、『私がここにたどり着く前に、ふたりは本当にたくさんのことを経験したんだ』って思う」