米調査船からにじみ出る謎の黒い粘液、生命が充満 未知の微生物も
粘液の起源
世界には膨大な数の微生物が存在することから、新種の発見自体はそれほど驚きではない。そう指摘するのは、ボストン大学のジェフリー・マーロウ助教(生物学)だ。「重要なのは新種がどこで見つかり、どんなゲノムの歴史や代謝能力を持つか。新種が特に大きな関心を呼ぶかどうかは、そこで決まることが多い」(マーロウ氏)
この物質の起源を突き止めるため、シーク氏のチームは調査船ブルーヘロンの歴史をまとめているところだ。ブルーヘロンはもともと漁船で、今から30年近く前にミネソタ大学ダルース校が中古で購入した。舵の部分に水以外の潤滑剤は使わない想定だが、以前の所有者が油を差し、微生物が何年も休眠状態になっていた可能性もある。
マーロウ氏は仮説として、この粘液が「マリンスノー」(海中を沈んでいく有機物の塊で、無酸素状態の部分を含む)に乗って舵軸にたどり着いた可能性を指摘した。マーロウ氏は今回の発見には関与していない。
シーク氏は今後、粘液の起源を探っていきたい考えだ。最初から舵軸内で増殖したのか、あるいは何らかの経緯で船に付着したのかなど、考慮すべきシナリオは多々あると指摘した。
「今回の話でとりわけ素晴らしい点は、まず初めにサンプルが微生物学者の元に届いたところだ。これは『微生物学的に意識の高い』文化があったこと、扱いにくい粘液の中に何が生息しているかを問う意識と好奇心を持つ人が何人もいたことを物語っている」とマーロウ氏。「私たちの周りの思いもよらない場所に、他にどんな魅力的な微生物が生息しているのだろうかと、想像が広がる」と語った。