ミサイルシステム「パトリオット」、ウクライナがどうしても必要とする理由
(CNN) 米国のトランプ大統領は、ウクライナが地対空ミサイルシステム「パトリオット」を受け取ることになると発表した。米国による新たな武器パッケージの一環で、この発表はウクライナ政府から熱烈に歓迎された。ウクライナは現在、ロシアによる連夜の爆撃に耐えている。
ウクライナのゼレンスキー大統領がこの数週間で再三パトリオットの供与を要請する中、ロシアは記録的な数のドローン(無人機)とミサイルを送り込み、ウクライナの各都市や町に混乱と恐怖をもたらしている。
しかしトランプ氏の発表では、詳細に関する言及がほとんどなかった。ウクライナが受け取る数量や到着の時期、供与元がどこになるのかといった重要な疑問は残ったままだ。
評価の高いこの米国製ミサイル迎撃システムについて、分かっていることを以下に挙げる。
最高級品
パトリオットの名称は「目標物迎撃用追跡位相配列レーダー」の英語表記の頭文字を取ったもので、米陸軍に配備されている主要なミサイル防衛システムを指す。
直近でその価値を証明したのは先月。この時は、中東カタールの米空軍基地を狙って発射されたイランのミサイル14発のうち、13発を撃墜した。
最新版のパトリオットは飛来する短距離弾道ミサイル、巡航ミサイル、ドローンに対応可能。最大迎撃高度は15キロ、最大迎撃距離は35キロとなっている。
アナリストらによれば、パトリオット発射装置1基で100~200平方キロの範囲をカバーできる。面積は発射装置内の発射機の数、現地の地形、その他の条件によって異なる。これは60万3000平方キロの国土面積を有するウクライナにおいて広範囲とは言えない。
そのためウクライナ政府は新たなパトリオット発射装置を多数必要としている。

2015年、ポーランドでの合同演習中にパトリオット発射装置の近くを歩く米軍兵士/Agencja Gazeta/Reuters
発射装置は6~8基の発射機で構成される。各装置は16発の迎撃ミサイルを運搬可能。この他、位相配列レーダーやコントロール室、発電設備がトレーラートラックに搭載されている。
発射装置1基には約90人が配属されるが、米軍の報告によれば戦闘時に司令・制御センターで装置を運用できるのは兵士3人のみだという。
高額な値札
パトリオット発射装置は高額だ。米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)によると発射機にレーダー、迎撃ミサイルを完備した場合のコストは10億ドル(約1490億円)を超える。
迎撃ミサイル1発のコストは最大で400万ドル。従って5万ドル程度の安価なロシア軍のドローンにこれを使用するのは問題があると、CSISは分析する。特にロシア軍は最近のウクライナへの攻撃で一晩に数百機のドローンを送り込んでいる。
直近の供与に関して、米当局者は欧州の北大西洋条約機構(NATO)加盟国から移す場合にはより迅速にウクライナに引き渡せると指摘する。その後加盟国には、米国から代替の発射装置を配備することになる。
トランプ氏は、他の国々から注文のあったパトリオット発射装置17基の全てもしくは一部を「極めて迅速に」ウクライナへ供与できると語った。ロイター通信が報じた。
英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)が発表した「ミリタリーバランス2025」によれば、現在NATO加盟6カ国(ドイツ、ギリシャ、オランダ、ポーランド、ルーマニア、スペイン)がパトリオット発射装置を兵器として保有している。
特効薬ではない
NATOのルッテ事務総長は14日、ドイツやフィンランド、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーといった複数の国々が新たな装備の供給元になる可能性があると示唆。ただ当該の装備がパトリオットだとは明言しなかった。
軍の内外では、米軍のパトリオットの在庫が枯渇するのではないかとの懸念が浮上している。
米陸軍のジェームズ・ミンガス副参謀長は今月初め、CSISでの発言で、カタールの米空軍基地防衛に寄与したパトリオット部隊について、既に中東に500日間配備されていると説明。極めて強い圧力要因になっているとの認識を示した。
ウクライナは自衛のため、新たに10基のパトリオット発射装置が必要だとしている。これによりドローンとミサイルを使用したロシアの攻撃拡大に対抗するという。
ウクライナは既に完全運用可能なパトリオット発射装置6基を引き渡されている。米国とドイツから2基ずつで、1基はルーマニアから。もう1基はドイツとオランダが共同で供与した。英国を拠点とする兵器監視団体、AOAVが明らかにした。
専門家らは、パトリオットのみではロシアによるウクライナ侵攻を終わらせることはできないと指摘する。米陸軍の退役将軍で、NATO軍の最高司令官も務めたウェズレー・クラーク氏は14日、CNNの取材に答え、武器パッケージが真に戦場で効果を発揮するには防空システム以上の装備を盛り込む必要があると述べた。
「本当にこの状況を止めたいなら、ロシアを爆撃しなくてはならない。その領土の奥深くを」「撃たなくてはならないのは弓を射る者であって、飛んでくる矢ではない」(クラーク氏)