「世界から忘れ去られた」 イランとイスラエルの衝突でかき消されるガザの惨状
(CNN) 幼い女の子が父親の靴にしがみついて泣き叫んでいた。父親は、飢えに苦しむ11人の子どもたちの食べ物を手に入れようとして、殺害された。
この場面はフォトジャーナリストのハレド・シャアスさんが15日に撮影した。ビサン・クワイダーさんの父親のシャディさんは数日前、一家が暮らしていたパレスチナ自治区ガザ南部マワシ地区のテントを出て、ハンユニス東部のマアンへ向かった。
危険は承知だった。マアンにはイスラエルが避難命令を出して爆撃を続けていた。それでもここへ行けば、お腹を空かせた子どもたちのための食べ物が手に入るかもしれないと思った。
国連機関は4月下旬の時点でガザは飢餓寸前の状況にあると伝えていた。その後も状況は悪化の一途をたどっている。
シャディさんは空爆で命を落とし、15日にがれきの中から遺体が収容された。ガザ保健当局によると、シャディさんはこの数週間で食べ物を手に入れようとして死亡した数百人の中の一人だった。
国連のトム・フレッチャー人道問題担当官は先週、「生存に必要な物資の供給を即刻大幅に増やさなければ、飢餓状態に陥ってさらなる困難を招き、さらに多くの人命が失われる」と危機感を示した。
ガザの人道惨事を目の当たりにして世界中から憤りの声が噴出し、これまでイスラエルを支持してきたフランスや英国、カナダでさえも先月、異例のイスラエル批判声明を発表した。

ガザ人道財団(GHF)が配給した支援物資入りの箱や袋を抱えて歩くパレスチナ人たち/Abdel Kareem Hana/AP
しかしイスラエルとイランの軍事衝突がエスカレートする中、ガザ住民は今、自分たちの苦難をめぐって限定的ながらもイスラエルにかかっていた圧力が、急速にしぼんでいくことに不安を募らせる。
「イスラエルとイランの戦争のために、私たちのことは忘れ去られてしまった。誰も私たちに目を向けてくれない。食べ物も水も何もない。みんなが毎日、食料と支援物資を手に入れようとして、遺体袋に入って運ばれてくる」。ガザ住民のモハンマドさんは16日、CNNにそう語った。
別の住民のウム・ムスタファさんは、自分たちの窮状を伝える国際ニュースが消えてしまったと訴え、「注目は全部イスラエルとイランの戦争に移った。たとえガザ地区が地図からかき消されてしまっても」と話す。
ガザ市に住むアブ・ジュマアさんは「ガザに連帯して立ち上がり、ガザへの人道支援物資搬入を呼びかける声はあっても、イスラエルとイランの戦争で、ガザへの食料や水の供給を求める人は誰もいないことになってしまう」と嘆いた。
ガザ保健当局によると、2023年10月以来、ガザでは5万5300人以上が死亡し、12万8700人以上が負傷した。死者の数は今回の戦争が始まる前のガザの全人口の約2.5%、40人に1人に当たる。

5月30日、ガザ地区デイルアルバラでの食糧配給の列に並ぶ女性たち/Abdel Kareem Hana/AP
国際赤十字委員会は16日、イスラエルがガザへの物資搬入を制限しているために、住民は物資の入手が困難な状況にあると指摘。米国とイスラエル主導のガザ人道財団(GHF)による支援は国際社会の非難の的になっている。
ガザ保健当局によると、GHFが5月下旬に配給所を開設して以来の死者は少なくとも300人に上る。
国連人道問題調整事務所(OCHA)によれば、ガザへの支援物資はごく少量の食料や浄水器などに限られており、衛生用品や医療機器などの搬入はイスラエルが阻止し続けている。
住民のアブ・モハンマドさんは「食べ物も飲み物も見つけられない。小麦粉の値段は300倍から500倍になっている。世界が私たちのことを忘れてしまったように感じる」とつぶやいた。