家族を生き続けさせようとする12歳少女、飢えて死んだ幼い姪 食料も水も欠乏のガザ
少女の目を通して見るガザの絶望
(CNN) シンデレラの絵が入ったピンク色のジャンパー姿で、水の入ったバケツを両手に下げて歩くやせ細った少女。積み重なるがれきと砂ぼこりにまみれたパレスチナ自治区ガザ地区北部は、まるで月面のように見える。少女の仕事は家族全員の食べ物と水を見つけることだった。
ジャナ・モハメド・カリル・ムスレ・スケイフィさん(12)は、1年以上前に兄がイスラエルの狙撃兵に殺害されて以来、一家全員のための物資を調達する責任を背負っている。両親は具合が悪く、支えられるのはジャナさんしかいない。
「お父さんを疲れさせたくない。だから私は強いの。お父さんを苦しませたくないから、強い自分でいたい」。ガザ市の水配給所で行列に並んだヤナさんは、CNNの取材にそう語った。「お父さんは高齢で心臓病がある。バケツを運ぼうとすれば倒れてしまう」
ヤナさんは水がいっぱいに入った重いバケツを二つ下げて歩き続ける。バケツの柄を持つ指は白くなり、ジーンズはバケツからこぼれた貴重な水で濡れている。
2023年10月7日以来、ガザ地区で食料と水を手に入れることは難しくなった。今年3月にイスラエルがガザへの支援物資搬入を全面的に停止してからは、さらに悲惨な状況に陥っている。
国連が支援する機関は今月に入り、ガザの住民は5人に1人が飢えに直面していると報告した。ガザは人為的な飢餓の瀬戸際にある。
イスラエルは支援物資の封鎖について、ガザのイスラム組織ハマスに圧力をかけて人質を解放させる狙いがあると主張する。しかし国際社会からは、イスラエルが飢えを戦争の武器として使用していると非難の声が上がっている。
ガザできれいな水を入手することは何カ月も前から難しくなっていた。イスラエルは水処理・淡水化設備が兵器の製造に利用される可能性があると主張して、使用を制限している。
ジャナさんは言う。「水はバケツ1個を満たすのがやっと。きちんとした行列がないので待っても手に入らないことがある。水なしで過ごさなければならないこともある」「バケツ1杯の水ために何時間も座って待つ。最悪」
過去には掃除や調理に海水を使わなければならないこともあったと家族は話している。
イスラエル軍は18日、ガザで新たな大規模攻撃を開始する一方で、「基本的な量の食料」搬入を認めると発表した。ガザが「飢えの危機」に陥れば「作戦が危うくなる」という理由だった。
しかし19日にガザへ入ることが許されたのはトラック5台のみ。人道支援団体によると、最も必要とする人に届けるたけでも1日に500台分が必要とされる。国連支援機関のトップは「焼け石に水」と形容した。
ガザ保健省は、今回の戦争が始まって以来、少なくとも57人の子どもが栄養失調の影響で死亡したと発表した。
ジャナさんの幼いめいも、その一人だった。

難民キャンプで、水をくめるか確かめるため待つ人々=20日、パレスチナ自治区ガザ地区ガザ市/Bashar Taleb/AFP/Getty Images
死んでゆく乳児、ただ見守るしか
母親のアヤさんによると、ジャナトちゃんの出生時の体重はわずか2.6キロ。それでも元気に成長して体重は4キロに増え、笑うことも覚えた。
しかし生後6週間を迎えた3月2日、イスラエルがガザを完全封鎖。赤ちゃん用の粉ミルクや医薬品などの必需品さえも、搬入を阻止した。
食べ物が少なくなると、アヤさんの母乳も出にくくなり、ジャナトちゃんの体重は減り始めた。やがて下痢が慢性化して脱水状態に陥り、治療が必要な状態になった。
「(病院では)体重を増やして下痢を止める助けになる治療用のミルクがあったと言われたが、見つけることができなかった。私たちはガザ中の病院という病院、薬局という薬局を探し回った。ガザ保健省からも、入手できないと言われた」(アヤさん)
4月中旬のCNNの映像には、アヤさんに抱き締められるジャナトちゃんが映っていた。小さな顔は骨と皮しかなく、生後4カ月の赤ちゃんというよりは、新生児のようだった。やせ細った指先が毛布からのぞく。衰弱した体で動かせるのは、大きな茶色の瞳だけのように見える。その目は自分の周りで動き回る人たちの姿を追っていた。
同時に母親のアナさんも、食事ときれいな水の不足が原因で衰弱していた。母乳が出なくなって授乳できなくなった症状は、ガザで子どもを出産した母親たちに共通していた。国連支援の報告書によると、ガザでは妊婦1万1000人が既に飢餓の恐れがあり、今後数カ月で妊婦と授乳中の女性約1万7000人が急性栄養失調のため緊急治療が必要な状況に陥る。
ジャナトちゃんの容態は悪化し続けた。体温の維持が難しくなり、血糖値が低下して酸素レベルも低下。栄養失調のため腎臓と肝臓が機能しなくなり、血液が酸化した。
「娘を助けてほしいと世界中に訴えた。ただ誰かに娘を救ってほしかった。娘が必要なミルクを提供してほしかった。でも、誰も助けられなかった。みんながただ、見ているしかなかった」(アナさん)
病院の医師からは、治療を受けるため国外に避難させることを勧められた。家族は紹介状や許可書などの必要書類も整えた。
しかし脱出がかなう前の5月4日、ジャナトちゃんは死亡した。生後4カ月で体重はわずか2.8キロ。誕生時とほとんど変わらなかった。
ガザからの医療避難はごくまれにしかかなわない。3月に停戦が崩壊してイスラエルが軍事作戦を再開して以降はさらに難しくなった。
世界保健機関(WHO)は先週、ガザで約1万2000人の患者が医療避難を必要としていることを明らかにした。しかし3月に封鎖が始まって以来、避難できたのは123人にとどまる。
小さなめいのジャナトちゃんが亡くなった翌日、ジャナさんは写真を見ながら涙ぐんでいた。「国外へ渡航しなければ治療できないと言われた。『土曜』それから『日曜』と言われて私たちが待つ間に、死んでしまった」

イスラエル軍がガザで新たな軍事作戦を開始した/Bashar Taleb/AFP/Getty Images
「心はもう死んでいる」
ジャナさん自身、食事や飲み水があまりに少なく、通う学校もなく、安心して眠れる場所もない。電気はなく、家と呼んでいる崩れかけたガザ市内のビルの壁は、黒く焼け焦げている。
かつて住んでいた家は、水道から水が出て、スイッチ一つで電気が付いた。食べ物があって学校もあり、衣装を着て踊ったダンスの発表会ではみんなの拍手を浴びて注目の的になった。
吹き飛ばされた住宅とがれきの山の中で見るその時の動画は、まるで違う世界のようだった。
ジャナさんはこの戦争で、兄と義理の兄、いとこ、めいを亡くした。今のガザでは治療不可能な甲状腺がんを患う母まで失ってしまう恐怖に駆られる。
「もう誰も残っていない。自分が死んだみたいに感じる」。12歳の少女の頬を涙が伝った。「心はもう死んでいる」
ガザ保健省によると、戦争が始まってからの1年半で死亡したパレスチナ人は、ガザの住民の約4%にあたる5万3000人を超えた。戦争前の住民のおよそ40人に1人が死亡したことになる。