ロシアによる民間人への空爆テロ、専門家は「勝利を装うため」

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ロシア軍の無人機攻撃によって破壊された住宅を眺める住民=25日、ウクライナ首都キーウ/Thomas Peter/Reuters

ロシア軍の無人機攻撃によって破壊された住宅を眺める住民=25日、ウクライナ首都キーウ/Thomas Peter/Reuters

(CNN) 3年生のスタニスラフ・マルティニュークさんは、学校で撮影された写真の中でとても誇らしげな表情を見せている。机の上で手を組み、眼鏡で縁取られた目は、真面目で愛らしい8歳の学者のようだ。

スタニスラフさんのこの写真とともに、姉のタマラさん(12)と兄のロマンさん(17)の同じような写真が学校の即席の記念碑に飾られてSNSで共有された。ロシア軍の攻撃が週末、きょうだいの自宅を襲い、3人は死亡した。

この3人は、ロシアによる一連の空爆の激化によって週末に死亡した少なくとも14人の民間人の一部だ。

専門家は、この残忍な作戦はロシアによる意図的な戦略の一環だと指摘。紛争で優位に立っているという印象を与え、ウクライナの士気を低下させるとともに、西側の支援国にさらなる圧力をかけることを狙っているという。

ロシアは昨秋、最も頻繁に利用されているイラン製のドローン(無人機)「シャヘド」の国産版の生産拡大に成功した後、ウクライナに対する空中からの攻撃を強化し始めた。

トランプ米大統領がホワイトハウスに復帰した今年1月以降、こうした攻撃の頻度と規模は再び増加した。ロシアによる最大規模のドローン攻撃5件はトランプ氏の大統領復帰後に実施されており、CNNの集計によれば、そのうちの4件は過去10日間に発生している。

トランプ氏は昨年の米大統領選で、ウクライナでの戦争の終結を優先事項の一つに掲げ、大統領就任後24時間以内に紛争を終結させると発言していた。

ロシア軍の攻撃によって死亡したスタニスラフさん、タマラさん、ロマンさん/Gustav Olizar Lyceum in Korostyshiv
ロシア軍の攻撃によって死亡したスタニスラフさん、タマラさん、ロマンさん/Gustav Olizar Lyceum in Korostyshiv

こうした約束にもかかわらず、トランプ氏は、ロシア政府とウクライナ政府に対して、ますますいら立ちを募らせているようだ。停戦案に応じなければロシアに追加制裁を科すと脅したり、和平交渉から完全に手を引こうと示唆したりと、態度をころころと変えている。

ロシアが週末にウクライナに対して戦争開始以降で最大規模の空爆を実施した後、トランプ氏はSNSで、ロシアのプーチン大統領について「全く狂ってしまった」と指摘。その後、記者団に対しては「プーチン氏がやっていることが気に入らない」と発言した。

トランプ氏は、ウクライナのゼレンスキー大統領が「米国の沈黙」がプーチン氏の攻撃継続を促していると示唆したことについても批判した。トランプ氏は、ゼレンスキー氏の口から出る言葉が問題を引き起こしているとし、ウクライナに害を与えているのでやめたほうがいいと述べた。

勝つための唯一の方法

米シンクタンクの戦争研究所(ISW)の専門家は、ロシアの残忍な空爆について、ロシアが戦争に勝利しているという幻想を抱かせるための戦略の一環であり、ウクライナの士気を低下させ、ロシアの勝利は不可避であり、ウクライナを支援することは無駄だと西側諸国に信じ込ませる狙いがあるとの見方を示す。

プーチン氏は、ロシアが近い将来にウクライナでの戦争に勝利できる唯一の方法は、ウクライナの西側の支援国、特に米国が、ウクライナの戦争への取り組みを支援するのをやめることだというのを理解している。

ウクライナの欧州の支援国では、ロシアが関与する破壊活動やサイバー攻撃、放火事件が増加している。これはウクライナ政府を支持することには代償が伴うということを有権者に示すことで、ウクライナ寄りの政府に対し、さらなる圧力をかけようとするロシア政府の試みだ。

プーチン氏は同時に、トランプ氏が提案した停戦交渉を、うまく遅らせている。その一方で、協力的な姿勢を演出し、ウクライナ側に責任を転嫁しようとしている。

プーチン氏は、トランプ氏の停戦案を拒否する代わりに新たな要求を提示し、ウクライナがそれを受け入れなかったとして非難している。

最後通告を突きつけられたプーチン氏はこれを無視し、ウクライナとロシアの直接交渉を要求した。トランプ氏は即座にこれを支持し、ウクライナの他の支援国に不意打ちを食らわせた。

トランプ氏は繰り返し、米国のウクライナに対する軍事支援が現状のまま継続されることは望んでいないと表明してきた。今年に入り、米国はトランプ氏とゼレンスキー氏の意見の相違を理由に、ウクライナに対する支援物資の輸送を一時的に停止した。その後、支援は再開されたものの、この出来事はプーチン氏に対し、トランプ氏がウクライナを見捨てる意思があることを明確に示した。

ロシアはウクライナの制空権を握っており、ロシアがウクライナの人々を日常的に恐怖に陥れることは可能だが、戦争に「勝利」するには程遠い。

ロシアの専門家のマーク・ガレオッティ氏は先に、CNNの取材に対し、現状はロシアとウクライナの双方が敗北している状況だと捉えるのが適切だとの見方を示していた。「だが、ウクライナ側の敗北のスピードが速いのが現状だ」

冒頭の3人が通っていた学校によれば、最年長のロマンさんは卒業まで数日を残すのみだった。

タマラさんの担任はCNNの取材に対し、26日が学校にとって非常に厳しい日になったと語った。

戦争の傷跡がいたるところに残されている。爆発の衝撃で学校の窓は吹き飛ばされていた。校門の慰霊碑には花やぬいぐるみがあふれていた。

タマラさんの担任によれば、今回の知らせは地域社会に衝撃を与え、一部の子どもたちはショックから学校に来られず、追悼式にも参加できないという。「誰も申し合わせをしなかったが、学校のほとんどの生徒が黒い服を着ていた。タマラさんはきょうだいと同じようにとても行儀がよく、慎み深い子どもだった」

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