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日米比、首脳会談前に結束強化 中国への懸念から

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7日、日米豪比の4カ国が南シナ海上で共同訓練を行った/Armed Forces of the Philippines/Handout/AP

7日、日米豪比の4カ国が南シナ海上で共同訓練を行った/Armed Forces of the Philippines/Handout/AP

韓国・ソウル(CNN) 植民地化、流血、戦争犯罪、占領、米軍基地問題。米国、日本、フィリピンの3カ国をつなぐ歴史には、こうした問題がすべて絡み合っている。

だが11日にホワイトハウスで予定されている日米比首脳会議では、3カ国の連帯を深める目前の問題、すなわち中国に対する共通の懸念が主な議題となるだろう。

米国のジョー・バイデン大統領、日本の岸田文雄首相、フィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領が今週会談するのを前に、「中国の脅威という認識が3カ国を結束させた」と東京のテンプル大学政治学科のジェームズ・D・J・ブラウン准教授は語る。

だが戦略的な思惑の大半を占めているのは、台湾有事の可能性だ。中国は民主主義のもと自治を行うこの島をこれまで一度も支配したことがないが、中国共産党(CCP)は台湾を領土の一部だと考えている。

中国の習近平(シーチンピン)国家主席は台湾を中国政府の統治下に置くことを誓い、武力行使の可能性も否定していない。

米国は台湾関係法により、台湾防衛用の武器供与が義務付けられている。バイデン氏も、中国が侵攻した際には米軍兵士を派遣して台湾を防衛すると度々示唆している(もっともホワイトハウスは、台湾をめぐる米国の「あいまい戦略」に変わりはないと発表している)。

フィリピンと日本はいずれも米国と防衛協定を結ぶ同盟国だ。米国は日本に恒久的な軍事基地を所有し、フィリピンでは基地使用権を保有している。

専門家いわく、中国の脅威は主に三つの地域で顕著に表れている。台湾、南シナ海、そして日本が統治する東シナ海の尖閣諸島だ。

日本とフィリピンはいずれも台湾から数百キロメートルしか離れていないため、いざ紛争ともなれば、中国は両国を軽視することはできないだろうと専門家は言う。

フィリピン国立大学ディリマン校のマイカ・ジェイエル・ペレス助教は、「中国にしてみれば、まずはフィリピン、あるいは日本国内の基地に対処しない限り、台湾を侵攻することはできない」と言う。

「歴史的会談」

マルコス大統領と岸田首相は以前から、日本およびフィリピンの安全保障において台湾の平和が重要であるとの見解を示してきた。

昨年マルコス氏は日本の英字誌「Nikkei Asia」とのインタビューで、「仮にこの地域で実際に紛争が起きた場合……フィリピンが無関与というシナリオは極めて想像しにくい」と語った。

日本のエネルギー需要の90%が台湾周辺の海路を経由して輸入されていることから、日本の経済的安定と台湾政府の自治が密接な関係であることは、かねて日本政府当局から指摘されていた。

こうした海路は南シナ海にも及ぶことから、日本は南シナ海を「自由で開かれたインド太平洋」の一部とすることに強いこだわりがある。故安倍晋三元首相が考案したこの造語は、アジア太平洋地域における米軍の存在を象徴するスローガンとなった。

「日本をはじめ世界の他の地域も、南シナ海周辺の海上交通に大きく依存している」と語るのは、同じくフィリピン国立大学のリカルド・ホセ教授だ。

「日本の場合、戦略的にも重要だ。日本は戦略的必要性のため、これらの海路を保護している」とホセ教授は言う。

首脳会談に先立ち、岸田首相は7日、CNNとのインタビューに応じ、自由で開かれたインド太平洋地域を維持する上でフィリピンは重要なパートナー国だと位置づけた。

ワシントンでの3カ国首脳会談については、歴史的会談であり、この地域の平和と安定に向けて3カ国の協力体制を世界に示す極めて貴重な機会になるだろうとの見解を述べた。

日本とフィリピンはそれぞれ中国と領有権争いを繰り広げている。日本の場合は東シナ海の尖閣諸島、フィリピンの場合は南シナ海だ。

フィリピンと中国の対立で争点になっているのは、フィリピンのパラワン島の沖合から200キロメートルほど離れたセカンド・トーマス礁だ。1990年代、フィリピンは領有権行使の一環として、老朽化した第2次世界大戦時の海軍輸送船を座礁させた。現在輸送船の大部分はさび付いてぼろぼろだが、フィリピン海軍が交代で駐留している。

一方で中国は、国際仲裁機関の裁定に反し、南シナ海同様フィリピンの排他的経済水域(EEZ)に位置するセカンド・トーマス礁でも領有権を主張している。

最近では、駐留部隊に供給物資を届けようとしたフィリピンの船と中国海警局との間で小競り合いが生じ、中国海警局が放水してフィリピン水兵が負傷、複数の船が損傷を受けた。

マルコス氏は中国の脅しには屈しないと明言し、米国もセカンド・トーマス礁およびフィリピンの関係部隊は米比共同防衛条約で保護されるときっぱり断言している。

中国が釣魚島と呼ぶ尖閣諸島に関しても、米国政府は何度となく日米安全保障条約の適用対象と強調しているが、日本が有効に支配する島の周辺には中国海警局の船舶が度々姿を見せている。

緊張をはらむ過去

中国の策略をきっかけに、バイデン氏、岸田氏、マルコス氏は、時に厄介な時期もあった3カ国の複雑な歴史からは想像もできないような形で団結していると専門家は言う。

1899年、米西戦争の和平協定の一環で、スペインは長らく支配してきたフィリピンを米国に譲渡。これによりフィリピンは米国の植民地となった。

だが1899~1902年の米比戦争中、フィリピン民族主義派が米国支配に反旗を翻した。米国務省の史料によると、この戦争で米軍は4200人以上の兵士を失い、フィリピンは兵士2万人以上、民間人20万人の死者を出した。

第2次世界大戦中、米国植民地だったフィリピンは大日本帝国軍の残忍な侵略に見舞われた。ニューオーリンズの国立第2次世界大戦博物館によると、民間人・軍人あわせて100万人が命を落とした。

数万人のフィリピン兵士が悪名高き「バターン死の行進」で、あるいは拘束されていた捕虜収容所で死亡した。

戦後の戦争裁判で、バターンの戦いの指揮官で、死の行進の実行部隊を統括していた本間雅晴中将が戦争犯罪で有罪となり、46年に処刑された。

だが現在のフィリピンでは、第2次大戦中の日本との歴史は完全に許されたわけではないにしても、風化していると専門家は言う。

フィリピン大学のペレス助教によると、目下フィリピンは市民の日常生活に影響を及ぼす切迫した社会的・経済的・政治的問題の対応に追われている。

積年の恨みがあっても、「地政学上の冷静な計算」から、主権領域問題のためにも日本や米国と同盟関係を維持することがフィリピンにとって得策だとペレス氏は言う。

南シナ海での「中国の動きに対処する上で、同盟関係の構築がもっとも現実的な措置だ」(ペレス氏)

格子状の同盟関係

専門家も指摘するように、フィリピンでは米軍の基地利用権も含めて状況が急速に変化している。米国はかつてフィリピンで、海外米軍基地としては最大級のクラーク空軍基地とスービック海軍基地の2カ所を運営していたが、マルコス氏の前任者ロドリゴ・ドゥテルテ前大統領の政権時は米軍のフィリピン入港が疑問視されていた。

ドゥテルテ氏は対米関係より対中関係に好意的で、元植民地領での米軍の活動を認めた協定を更新しないと脅したこともあった。

だがマルコス氏は方向を180度転換して米国寄りの姿勢を見せ、セカンド・トーマス礁などの領有権争いでフィリピンをねじ伏せようとする中国に対抗しようとしている。

前任者とは対照的に米国寄りの姿勢を強めるフェルディナンド・マルコス比大統領/Veejay Villafranca/Bloomberg/Getty Images
前任者とは対照的に米国寄りの姿勢を強めるフェルディナンド・マルコス比大統領/Veejay Villafranca/Bloomberg/Getty Images

一方でバイデン政権は、ワシントンを中心に各国政府と二国間協議を結ぶ「ハブ・アンド・スポーク」体制ではなく、国際戦争戦略研究所(IISS)でジャパンチェアを務めるロバート・ワード氏が言うところの「格子状の」同盟体制を中国の周辺に構築中だ。

今週注目される日米比関係と同様に、日米韓でも防衛協力が強化されている。米国の主要同盟国であるオーストラリアは、日本、インド、フィリピンとそれぞれ新たに防衛協定を締結した。フィリピンはインドから軍備品を輸入しているし、日本はベトナムと安全保障関係の強化を図っている。

7日には米国、日本、フィリピンの軍艦と軍用機がオーストラリア軍と合流し、南シナ海で史上初の「多国間海上協同活動」を行った。これも格子状の同盟体制の一例だ。

並んで南シナ海を航行するフィリピン海軍、オーストラリア海軍、自衛隊、米海軍の艦船/Armed Forces of the Philippines/Handout/AP
並んで南シナ海を航行するフィリピン海軍、オーストラリア海軍、自衛隊、米海軍の艦船/Armed Forces of the Philippines/Handout/AP

バイデン政権および米国に賛同する太平洋諸国は格子状の同盟体制を敷くことで、たとえば11月に控えた米大統領選挙などで政権交代があっても持ちこたえられるような安定を築きたいと考えているのだろうと専門家は言う。

テンプル大学のブラウン教授は、こうしたアプローチを「将来の保証」と呼ぶ。

「こうした体制を構築したとしても、一瞬のうちに突破される可能性もある。だが少なくとも何かしらは残り、(ドナルド・)トランプ氏が再選しても継続するだろう」(ブラウン氏)

「インド太平洋に咲く、非常にか弱い花だ」とIISSのワード氏は言う。「日々水をやり、肥料を与えなければならない」

本稿はCNNのブラッド・レンドン記者による分析記事です。

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