突然の拘束、引き離される家族 ロサンゼルス抗議デモを引き起こした移民強硬摘発の人的犠牲
悲嘆、憤り、不安
ホワイトハウスが1日の逮捕者を増やすよう要求する中で、ここ数週間は移民に大きく依存する産業で移民の一斉摘発が増えている。
ゴールドマン・サックスによると、滞在資格のない移民が米国の労働力に占める割合は4%~5%程度。しかし農作業や食品加工、建設などの業界では15~20%以上に上る。
移民政策研究所によると。ロサンゼルス郡の住民は約95万人のうち10分の1を滞在資格のない移民が占める。およそ3分の1は米国に20年以上居住しており、3分の2以上が雇用されている。
ロサンゼルスのホームセンターやアパレル倉庫での一斉摘発を発端として6日に巻き起こった抗議デモは数日間続き、デモ隊と警官隊が衝突する場面もあった。トランプ大統領は7日に州兵をロサンゼルスに派遣。「ICEや国家公務員を守るための一時的な措置」として、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事の頭越しに州兵をロサンゼルス市に配備した。ニューサム知事は「あからさまな権力の乱用」と反発した。
トランプ大統領の移民政策について、南カリフォルニア大学のジョディ・アギウス・バレホ教授は「米国の法的地位を持つ移民の子どもたちや、親族の中に滞在資格のない移民がいる人たちに大きな影響を与えた。国籍を得て市民になった人たちが不安と恐怖に駆られている」「カリフォルニアで移民と無関係な人は一人もいない。だからみんなが街頭に出ている」と指摘する。
ロサンゼルスでは、ベビーシッターとして働きながら、ICEの摘発を恐れて暮らす人たちがいる。学年末が近づき、自宅にとどまる子どもも多い。学校で自分たち家族の未来を心配して泣く子どもや、卒業式への出席を見送った保護者もいる。
「既に怯えている子どもたちをこれ以上怖がらせることなく、この現実をどう説明すればいいのか」。ヒスパニック系住民が多いボイルハイツ地区の小学校教員、エイドリアン・タマヨさんはそう問いかける。
夫婦で車に乗る時は、「君の方が僕より肌が白いから」と言って妻に運転してもらうというタマヨさん。「こんな風になってしまったのは悲しい」と打ち明けた。
ロサンゼルスの高校で働くソーシャルワーカーのマーサ・メレンドレスさんは、昨年11月の大統領選挙以来、不安を募らせる生徒が増えたと話す。3カ月前には男子生徒の自宅に来た移民担当官が、生徒に銃を突きつけたという。
「ただ腹立たしくて、痛ましく、悲しい」というメレンドレスさん自身、かつて滞在資格のない移民だった。
6日に数十人の移民が拘束されたアパレル倉庫前で取材に応じたレスリー・ケチョルさん(23)は、倉庫で働いていた家族がバンに押し込まれて泣いている人たちがたくさんいたと振り返る。
いとこのイスマエル・ケチョルさん(40)も拘束された1人だった。15年以上前にメキシコから移住して、米国で3人の子どもが生まれた。逮捕された移民の多くは、メキシコ先住民サポテク族の子孫だという。
「みんなが悲嘆に暮れ、憤り、おびえている。家族が連れ去られるのをただ見ているしかなかった」「私たちの社会が攻撃されている」
まるで投獄
夫が拘束されたチリノス・メディナさんは2021年、当時4歳だった息子を連れて、ホンジュラスからメキシコを経由して米国に入り、カリフォルニア州で暮らし始めた。ホンジュラスを離れたのは、バス運転手をしていた夫がギャングから殺人予告を受けたためだった。
ICEには定期的に出頭するなど「指示には全部従っていた」という。
4日は指示に従って一家で出頭したところ、ほかの約20家族とともに待機していた部屋の扉が閉められ、係員が現れて見張りに立った。
「まるで投獄されたみたいだった。座って待っていると、誰かが『助けてくれ、息子が怖がっている』と叫ぶ声が聞こえた。自分も息子に怖い?と尋ねると、震えながらうん、と言った」。チリノス・メディナさんはスペイン語でそう語る。「私たちは離れ離れにされることを恐れた」
やがて係員に呼ばれたチリノス・メディナさんは、子どもたちと一緒に帰宅できると告げられた。しかし夫は解放されなかった。
そのことを告げると、夫は「くじけるな」と言ってくれた。
「彼らはドアを閉めた。夫と再び会うことはできなかった」
夫に犯罪歴はない。しかし今も、カリフォルニア州内のICEの施設に留置され続けている。
「こんなことになるなんて考えもしなかった」とチリノス・メディナさんは言い、トランプ大統領には自分たちのような人々ではなく犯罪者を追いかけてほしいと訴える。「たくさんの家族が苦しんでいる」