米国の主要食用作物、温暖化で今世紀中に生産量半減か 新研究
(CNN) 地球の気温上昇が、世界中の食用作物に壊滅的な打撃をもたらしつつある。とりわけ米国での影響については懸念が大きく、今世紀末までに主要品目の生産量が半減するとの予測も出ている。広範に対象を設定した新たな分析で明らかになった。
化石燃料由来の気候危機が及ぼす多くの影響のうち、世界の食糧システムへの被害は最も恐ろしい部類に入る。しかし作物に対する気候変動の全般的な影響は立証が困難で、議論は紛糾している。そのような影響を農家の取り組みでどの程度相殺できるのかといった問題についても同様だ。
8カ月がかりで行った今回の新たな分析は、「それらの両方の問題に真に対処する最初の取り組み」となる。論文著者でスタンフォード・ドーア・スクール・オブ・サステイナビリティーのグローバル環境政策担当教授、ソロモン・シャン氏が明らかにした。
科学者らはトウモロコシ、大豆、米、小麦、キャッサバ、ソルガムの6種の食物を分析した。対象としたのは54カ国の1万2000以上の地域。合計すると、これらの食物は人類が摂取するカロリーの3分の2以上を提供している。
この他、現実世界の農家がどのようにして気候変動に対応しているのかも検証した。具体的には育てる作物の変更や、灌漑(かんがい)設備の調整などだ。そうすることで地球温暖化による全般的な影響の計算を試みた。
結果は厳しいものだった。それによると世界の気温が産業革命前の水準を1度上回るたびに、地球上の食品生産は低下。1人分の1日の摂取カロリーが平均で120カロリー減少する計算だという。研究論文は18日付のネイチャー誌に掲載された。
結果的に価格が押し上げられ、人々は食品を入手するのが難しくなると、シャン氏は指摘した。
「気候が3度温まれば、基本的に地球上の全員が朝食を諦めなくてはならないような事態が起こる」と同氏。このまま行けば世界は、今世紀末までに3度前後温暖化するとみられている。
小麦、大豆、トウモロコシといった世界の多くの地域で高価値の作物は、特に深刻な影響を受けることが研究から分かった。
人類が大量の化石燃料を燃やし続ければ、米国や中国東部、中央アジア、アフリカ南部、中東の穀倉地帯ではトウモロコシの生産量が40%低下する恐れがある。小麦は米国、中国、ロシア、カナダで40%、大豆は米国で50%、それぞれ低下することも考えられる。
主食となる作物で著しい減少が避けられそうなのは米だけだ。米については夜間の気温の上昇から恩恵を受ける可能性もある。
研究結果で驚くべきことの一つは、最も富裕な部類に入る国々が最も過酷な痛手を被る公算が大きいという点だ。
気象条件が既に相当厳しい貧困地域は、気候危機への対処がより進み、影響に備えている傾向があるとシャン氏は説明する。だが米国や欧州のような穀倉地帯で行われているのは、あくまでも現行の温帯気候に向けての最適化だという。
地球温暖化は特に米国にとって過酷となる見通しで、シャン氏によれば米を除く主要作物の収穫は軒並み40~50%の減少が予想される。
論文著者でイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の農業・消費者経済学担当助教、アンドルー・ハルトグレン氏は「(米中西部の)コーンベルトが将来もコーンベルトであり続けるのかどうかは、確信が持てなくなってきている」と語った。
とはいえ、低所得の国々も影響は避けられないだろう。世界の気温が上昇する中、自給作物のキャッサバの収穫量はサハラ砂漠以南のアフリカで減少が見込まれる。これは世界で最も貧しい層の人々の栄養にとって実質的な脅威になると、研究論文は指摘する。「人々がキャッサバを栽培する理由の一つは干魃(かんばつ)に相当強いことだが、それでも我々が実際目の当たりにしているように、その生育は極端な高温環境によって大変な悪影響を受けている」(シャン氏)

2022年、干魃に見舞われた米ネブラスカ州の自身のトウモロコシ畑を歩く男性/Ricky Carioti/The Washington Post/Getty Images
ニューヨーク大学で気候変動と農業を専攻する研究者、シェリー・マックルランド氏は研究について、適応することの重要性を明らかにしつつ、その限界も示していると指摘。現時点での適応の意思決定だけでは、将来の食糧安全保障を確保するには不十分だということが分かると述べた。同氏は今回の研究に関与していない。
一方、タフツ大学で気候リスク管理を専攻するエリン・コクランデペレス准教授はCNNの取材に答え、今回の研究では二つの主要な気候適応が考慮されていないと指摘。作物の植え替えや植え付け日の変更を行えば、気候の影響をこれまで以上に相殺できる可能性があるとした。例えば米国では、トウモロコシと大豆の栽培はより北の地域で行われているという。
また今回と同様、世界の食糧システムに警鐘を鳴らす研究は過去に数多く発表されているにもかかわらず、政治家が見て見ぬ振りをすると、英ロンドン大学セント・ジョージ校のティム・ラン名誉教授(食糧政策)は苦言を呈した。
スタンフォードのシャン氏は今回の研究で示した証拠を通じ、エネルギーシステムの変革が急務であること、それができなかった場合のコストが極めて大きいことを伝えたいと考えている。
「一つの種として、我々がこれほどの事態に直面したことはこれまで一度もない」(シャン氏)